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抱っこされたまま進んでいくと、行く先々で歓声で出迎えられた。
中には私たちを真似てか、近くのひとと抱き合ったり伴侶を抱っこするひともいた。
南はみんな情熱的だなあ。
歓声はどこもすごかったけど、抱き合うまでは無かったと思う。
音楽もあちこちから聞こえて来るし、どれも陽気な曲ばかりだ。
あ。踊ってるひともいる。さすが「音の南」。
「ハルカ。この体制で手を触れるか?」
周りの歓声に笑顔で答えていたら、クルビスさんに尋ねられた。
手を?この体制だと難しいかなあ。
もうちょっと身体を起こせたら違うんだけど。
それを伝えようとすると、いきなり片手にヒョイと乗せられた。
わわわ。何とか体勢を立て直して、クルビスさんの肩に手を置く。
クルビスさんの腕は太いし、しっかり支えられてるから怖くは無いけど、びっくりした。
言って下さいよ。もう。
私がぷりぷり怒っていたら、クルビスさんに魔素でなだめられる。
「いちゃつくのはいいけどよ。手は振ってやらねえの?」
そこに呆れたようなシードさんの声が加わった。
あ。そっか。手を振るために私を片腕に乗せてくれたんだ。
「悪い。さあハルカ。手を振ってくれ。皆、待ってる。」
クルビスさんの声に周りを見渡して、笑顔で手を振る。
すると、おおおっ。と歓声が上がり、皆が手を取り合って笑ってくれる。
こんなのでいいのかな?
何だか有名人になった気分だ。
そう思っていたら、何だかクルビスさんから呆れたような魔素を感じた。
あれ?何で?
「顔を見せたからだよ。皆、ハルカを見に来てるんだぞ?」
私が花嫁だからですか?
にしては、反応が大きいような。
「突然現れた俺の伴侶だからな。皆、直接ハルカを見たいのさ。」
ああ。それは納得。
私のことはルシェリードさんを隠れ蓑にして、徹底的に隠してたから。
だから、北の守備隊に押しかけてくるひとも最近までいなかったくらいだし。
あれは私の身を守るために、ルシェリードさんやメルバさんが手を回してくれてたって知ってる。
街にはウワサくらいは流れてただろうけど、そういうのは余計に気になっただろう。
しかも、レシピ公開とか派手に宣伝してるし。
うん。そりゃあ、見たいよね。
納得した私はクルビスさんに頷いて、その後は始終にこやかに手を振ることに務めた。
明日、顔面筋肉痛になりそう。
そうなったら、クルビスさんにマッサージしてもらおうかな。




