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「じゃあ、せっかくなので、少し頂きます。」
「私も。」
「トンジャオなら、ハルカもアニスも食べられるぜ。リリィがいけるくらいだからな。」
私とアニスさんが小皿に手を伸ばすと、シードさんが大皿から小龍包もどきを取り分けてくれる。
トンジャオと聞いて思い出したけど、ヘビの一族に挨拶に行ったときによく勧められた料理だ。
ナンのような薄くて弾力のある生地に木の実とひき肉の御団子が包まれている。
だから、味は小龍包とは違うけど、木の実の香りが香ばしいとても美味しい饅頭だ。
辛味の方は最初はわかならくて、噛むごとに口の中がじんわりと熱くなるけど、それもピリ辛くらいなので、問題なく食べられる。
辛味でお肉のしつこさが緩和されてて、西の食べ物の中では食べやすい料理だ。
「美味しいですよね。トンジャオ。」
ついさっきまで忘れてたことはスルーして、トンジャオの乗せられたお皿を受けとりながらトンジャオを褒める。
だって、ホントに美味しいんだよ。飽きない味だったから、名前忘れてたけどまた食べたいと思ってたし。
「食ったことあったっけ?…ああ、うちに来た時か。」
「はい。お披露目の時もよく勧めて頂きましたし、食べやすかったのでよく覚えてます。」
私がそう答えると、シードさんは納得出来たようで笑って頷いていた。
ただ、不思議なのは、お披露目の時に食べたトンジャオは辛さや味がちょっと違ったんだよね。中の具材に何種類かあるのかな?
「それぞれの家で微妙に味が違うんだぜ?ここのは親父がいるときにうちの味になっちまったらしいけどな。」
家庭ごとに違う味なのかあ。
それでお披露目の時は屋台のトンジャオを食べたから味が違ったんだ。
今日のトンジャオはシードさんのご実家の味だから、最初に食べたトンジャオだ。
他の味のトンジャオも食べたけど、私にはこれが一番食べやすい。
「美味しい。」
「美味しいです。これくらいの辛さなら、いくらでも食べられますね。」
私がトンジャオをうっとりと味わっていると、アニスさんもニコニコと輝きのました笑顔でトンジャオを食べている。ごほっ。
アニスさん、無防備な女神の笑顔は攻撃力が高すぎます。気に入ったんですね。
「西でそんなこと言ったら、ホントにいくらでも出て来ちまうぞ?」
「山盛りで出て来るな。」
にこにこ顔のアニスさんを見て、クルビスさんと共に、シードさんが苦笑して忠告してくれる。
ヘビの宴会に出た身としては、今のが冗談には聞こえない。
「ホントに出て来たんですか?」
「この皿の5倍の量の料理が出て来た。」
私の質問にクルビスさんが体験談を教えてくれる。
それを聞いて、さすがのアニスさんも笑顔で固まっていた。
驚きますよね。わかります。
でも、実話なんですよ。
そんな風に楽しく食事が終わると、街に出る準備が出来たと声がかかった。
結構、長い休憩だったなあ。食べさせてもらって良かった。
「これなら、西の次の東まで昼くらいには回れそうだな。」
「ああ。食事を出してもらえて助かった。アルス副隊長、ありがとう。勧めてくれた隊士にも礼を伝えて欲しい。」
「伝えておきます。お口にあったようで何よりです。」
クルビスさんのお礼にアルスさんが笑顔で頷く。
ホントに助かりました。お昼にちょうど良く食べられるかわからなかったから、なおさらだ。
「とても美味しかったです。ありがとうございました。隊士さんにも作って下さった方にもお礼をお伝えください。」
「はい。必ず。」
勧めてくれた隊士さんもだけど、本来休みになるはずの厨房の調理師さんが作ってくれたおかげでもある。
だからお礼をと伝えたら、アルスさんがますます目を細めて頷いてくれた。
「では、そろそろ外に出よう。」
ザドさんの声掛けで、一階に階段で降りる。
私たちの姿が見えたからか、もともとなのか、外から喧騒が聞こえてくる。
「ああ。うるせえ。半分以上うちの一族だからな。お披露目よりにぎやかだぜ?」
シードさんが顔をしかめて忠告してくれる。
あの時も結構な大騒ぎだったと思うんだけど…。もっとってことですか?うわあ。




