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「クルビスさ…。」
ワアアアアッ
文句を言おうとした私のセリフを歓声が遮る。
こうなるともう何も聞こえない。
クルビスさんはひどく満足そうだ。
確信犯ですか。
ドレスがシワになるから、抱っこはもっと後でって言ったのに。
聞く気が無かったみたい。困った旦那様だ。
こうなったらしょうがない。
笑顔でクルビスさんに引っ付いて、仲睦まじい様子をアピールしようか。
そう考えたのがバレたのか、クルビスさんは私を肩に担ぎあげた。
視線が一気に高くなって、慌ててクルビスさんの頭に捕まる。
すると、ますます歓声が大きくなって、耳鳴りがするレベルになってきた。
耳がキーンてする。頭痛いかも。
ペトッ
ん?音が小さくなった?
耳に何か冷たいものが…。クルビスさん?
笑顔は崩さずにクルビスさんを見ると、クルビスさんも同じの着けてる。
もしかして、これ、異世界の耳栓なのかな?
『ハルカ。聞こえるか?』
ふあ!?
え?クルビスさんの声?でも耳元で聞こえる。
『ク・ドルだ。耳につけて、会話を補助する道具なんだが、歓声がすごいだろう?シードが耳栓代わりにと用意してくれた。』
シードさんありがとう。
おかげで、私の鼓膜は破れずに済みそうです。
シードさんの方を見ると、軽く手を振って前を見ろとジェスチャーされた。
そうだね。お礼は後でもいい。とにかく、愛想よく街の皆さんにご挨拶しなきゃ。
歓声は聞こえてるけど、手で耳をふさぐ程じゃない。
これなら、クルビスさんの頭に捕まりながらでも笑顔を振りまける。
手を振って挨拶がわりにする文化はこちらでもあるそうだから、にこやかに手を振っていれば問題ないだろう。
そんなことを考えている間にもう入場口に戻ってしまった。
厳かな式が終わったからと、クルビスさんがすたすた歩くからだ。
ギャップがあり過ぎじゃない?もしかして、さっきまでのゆっくりした動き、かなりストレスだったとか?
『クルビスさん。もうちょっとゆっくり。』
さっきの声が共鳴の時に似てたから、見よう見まねで魔素を使って声を伝えると、クルビスさんが驚いたように私を見る。
あれ?間違ってたかな?
『使い方わかったのか?』
『共鳴に似てるのでなんとなく。』
『…そうか。だが、この声は共鳴と違って、他の者にも聞こえるんだ。だから、普段話しているのと同じだと思ってくれ。』
ああ。会話の補助具なんだっけ?
そっか。じゃあ、普通に話してると思えばいいんだ。
どうせ、1日つけるハメにはならないだろうし、そんなに気にすることないだろう。
たぶん、街中に入ればここまでの人数と騒ぎじゃないだろうから、すぐ外せるだろうし。




