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私たちが会場に到着すると、入場口の横に本体で並んでいたドラゴンたちが一斉に頭を垂れる。
その途端、周囲から怒号のような歓声がわいた。
私の後見はルシェリードさんだから、今回の式でメインの警備をしているのはドラゴンの一族だ。
個体の能力が高いから、他の一族の式でも警備に駆り出されるのだそうだけど、本体で会場の警備を請け負うのは同族の式の時だけだ。
私たちの式の前にドラゴンの一族が本体で警護したのは、フィルドさんとメラさんの式以来だそうだから、街のひと達が盛り上がるのも無理はないと思う。
だって、かっこいいよね。
日の光に鱗がきらめいて、色とりどりのドラゴン達が並んでいるなんて、圧巻でしかない。
「すごいですね。」
「ああ。さすがはドラゴンだ。」
もう主役はドラゴン達でいいんじゃないかな。
そうすれば、私が多少こけても目立たないし。
「あ。ケロウさんだ。」
私が入口奥に目を向けると、真っ白な竜が長たちの前に待機していた。
白のドラゴンが会場の真ん中にいる…。これはどういうことなんだろう。
「おじい様に次ぐ年長だからだろう…。一番上座にいるとは思わなかったが。」
ああ。序列の問題なのか。
白の魔素持ちがいくら自分のために魔素を使えないと言ったって、年を重ねるごとに蓄えられる魔素は大きくなっていく。
特に寿命の長いドラゴンの一族は、年長者の持つ魔素は半端ない程大きい。
だからか、ケロウさんから感じる魔素はとても大きく穏やかなものだった。
まあ、それでも、クルビスさんの反応を見る限り、珍しいことみたいだけど。
この式の後から街に降りることになってるから、お披露目の意味もあるんじゃないかなあ。
「綺麗ですね。まるで大きな海の輝石です。式の護衛にぴったりですね。」
「…ああ。そうだな。」
「おふたりさん。そろそろ、おしゃべりはやめだ。風が途切れる。」
後ろからキィさんの声がすると、途端に大きな歓声に包まれる。
さっきから聞こえていたんだけど、風に遮られていたから、音量が半分くらいに聞こえていたようだ。
生で聞く歓声はあんまりすごくて、耳がじんじんするくらいだ。
これじゃあ、おしゃべりしたくても聞こえないよ。
ん?クルビスさんが何か言ってる?
ベール?あ、そっか、ベールを取らなきゃ。
「失礼します。」
いつの間にか、驚くほど近くに来ていたアニスさんが、私のベールを取ってくれる。
その途端、また歓声が耳を襲ってきた。
ううう。式が終わるまで耳が持つかな。
今のはクルビスさんもうるさかったらしく、顔をしかめている。
アニスさんに花冠を付け直してもらいながら、後でフェラリーデさんに耳を見てもらおうと決めると、クルビスさんに手を取られた。
ここからが本番だ。にっこり笑って、ゆっくり歩かなきゃ。




