6
しばらくして、道の準備が整ったとキーファさんが報告に来た。
何だか目がきらきらしている。
「お待たせしました。中々良い道が出来ました。」
良い道?
何だろう。キーファさんの目のきらめきぶりを見ると、すごいことなんだろうな。
「早いね~。魔素はあんまり感じないけど、これだけで出来ちゃうの~?」
「ええ。メラ様の術式に無駄が無いのはもちろんですが、今の時期は風が生まれやすいですから、特に作りやすいようです。これなら、隊長クラスでなくとも、一般の術士でも使用可能でしょう。」
「ほお。実験室を吹き飛ばしたかいはあったようだな。」
メルバさんもルシェリードさんも驚いている。
どうやら、メラさんはすごい物を発明したみたいだ。
ただ、吹き飛ばしたとか聞こえた気がするんだけど…。
メルバさんの影響かなあ。あ。メルバさん目を逸らした。
「じゃあ、行こうか~。せっかく素敵な道が出来たんだから、使わせてもらおう~。」
まあ、まだ突っ込みたいことはあるけど、今はそれよりも会場への移動が先だ。
早めについたと言っても、術式を使わないと人混みの整理が出来なくなってるくらいだ。移動は早い方がいいだろう。
「そうだな。このままだと、時間が経てば経つほど見物は増えるだろう。」
さらに、ルシェリードさんの一言で全員で移動を始める。
会場の入口まではざっと300メートル程、そこまではドレスはルシン君が裾を持ってくれる。
会場の入口についたら、そこから各一族の長がいる場所までは綺麗な布が敷かれている。
その上を歩くから裾持ちのルシン君はしばらく入口で待機し、ここで存分に裾を引きずってドレスのデザインを見せつける。
付添人としてアニスさんとシードさんが共に歩いてくれる。
こちらには親のエスコートや付添の習慣は無いらしいけど、このお式では特別につくことになった。
まあ、一歩ごとに首を振るのは私とクルビスさんだけだけど。
最初、シードさんは付き添わなかったのだけど、昨日の毒事件があって、警備のためにクルビスさんの付添人として、急遽一緒に歩くことになった。
ベールを途中で脱がないと行けないので、アニスさんの付き添いは最初から必要だったし、クルビスさんにも付き添いがいた方が不自然にも見えないだろう。
この間、私が気をつけるのは裾を踏んで転ばないこと。
「お姉さん、階段どうするんですか?僕、裾を持った方がいいですか?」
私が足元に意識を集中してると、ルシン君が困惑した声で聞いてきた。
不思議なのは、私に聞いてる風なのに、顔はクルビスさんを向いていること。
クルビスさん?ルシン君相手ですからね?威嚇はなしですよ?
それに、ドレスがシワになったら困るから、抱っこで移動はだめですよ?
視線で釘をさすと、クルビスさんは「ルシン、裾を持ってやってくれるか?」と穏やかにルシン君にお願いする。
まったくもう、と呆れていると、ルシェリードさんが高らかに笑った。
「はははっ。よいよい。さあ、行こうか。」
その声で皆で階段を降りはじめる。
ああ。緊張してきた。どうかこけませんように。
そう願いながら下に行くと、詰め所の入口にキィさんが肩を竦めて立っていた。
その顔は苦笑している。
「いやはや。思った以上の効果がありました。外はもう熱狂してますよ。」
え。それはちょっと怖いかも。
何があったんだろう?
「大丈夫だって。いい方の意味だから。」
キィさんのフォローになってないフォローを受けつつ外に出る。
一歩出た所で、私もクルビスさんも止まってしまった。
それも仕方ないことだと思う。
だって、あんまり綺麗だったから。
視界に入ったのは、鮮やかなミントグリーンの空と、極彩色な街の人々を背景に、色とりどりの花びらの舞う光景だった。




