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「ねえねえ。どうして白い布被ってるの?」
一番身体の小さな子が不思議そうに聞いてくる。
他の子も同じような顔をしてるから、白を使うってやっぱり異例なことなんだな。
「これはね。私の故郷で花嫁さんの印なの。白は悪いものから守ってくれる色なのよ。」
「白が?」
「うそ。」
「何にも出来ないのに。」
「それいっちゃいけないんだぞっ。」
「何だよ。皆言ってるだろ。」
私が白のベールについて説明すると、子供たちは目を大きく見開いて口ぐちに感想を言う。
これが白の一般的な認識なんだろうなあ。
「でも、白でもその首から下げてる石、綺麗ね。」
さっき泣きそうになってたヘビの一族の女の子が真珠を見て目を輝かせている。
やっぱり女の子だなあ。他の子がベールに気を取られてるのに、この子は真珠やベールの刺繍に視線が向けられている。
「まるで海の色ね。」
「ホントだ。」
「キラキラしてる。」
「これなに?」
すると、一斉に子供たちの視線が真珠に向かった。
さっきまでの白に対する微妙な感情は、真珠への好奇心にすっかり変わったようだ。
「海の輝石というんだ。海の中でしか取れない輝石だよ。」
一緒にしゃがんだクルビスさんが真珠について子供たちに説明してくれる。
ホントはドレスにシワが寄るからいけないんだけど、もう少しだけ子供たちと話をしたい。
マルシェさんには後で謝ろう。
皆目をキラキラさせて真珠を見てる。
「海で?だから、海の色になったのね。」
「でも、海の匂いしないよ?」
「干したんじゃねえの?輝石が海の匂いしたらつけらんねーじゃん。」
「そっか。」
こっちが説明する前に、子供たちでそれぞれ納得できる理由を探し当てているようだ。
子供らしい理屈にクルビスさんと顔を見合わせて笑ってしまう。
これくらいで街の大人にも受け入れてもらえてらいいんだけどなあ。
それは難しいだろうなあ。
きっと、最初の反応をもっと大げさにしたくらいだろう。
まあ、でも私にとって花嫁衣装といえば白だし、説明すれば身につけた理由としては納得してもらえるだろう。
良い印象を残すためにも明日の式は絶対成功させなきゃ。
この後は特に予定はないし、もっと長めの布を巻きつけて歩く練習をしておこう。
「そろそろいいかな?ハルカ様は明日のお式の準備があるから、皆、病室に戻って。」
アニスさんが子供たちをなだめて、病室に戻そうとする。
すると、子供たちが最後の質問とばかりに一斉に叫んだ。
「じゃあ、最後っ。」
「クルビス隊長。」
「今日はお姉ちゃん抱っこしないの?」
まるでどうしてとでも言いたげな表情で言われたセリフに、シードさんとキィさんは上を向いて爆笑し、フェラリーデさんは口元を抑えて肩を震わせている。
メラさんは快活に笑い、リリィさんやアニスさん、マルシェさんにはくすくす笑われてしまった。
うう。子供たちにまで、抱っこが普通って思われてるってこと?
恥ずかし過ぎる。今、ぜったい顔赤い。
「やるよ。でも、今はドレスがシワになるから後でな。」
ちょっとクルビスさん、何大真面目に答えてるんですか。
っていうか、しばらく抱っこは極力しないようにお願いしようと思ってたのに。先手打たれた。
でも、それよりも子供たちの続いたセリフに脱力してしまって、もうどうでも良くなった。
「良かった~。」
「うん。式の前にふれあいが減るのは良くないって母ちゃん言ってたし。」
「あんま一緒にいなかったから、どうしたんだろうって皆で言ってたんだ。」
「番が離れるのは良くないんだぜ。」
子供って…。
そのセリフを聞いて、クルビスさんと顔を見合わせて、また笑ってしまった。




