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「…。」
どうしてこうなったのか。
入退場の練習のためにメラさんが会議室を見に行ってもらったはずなのに。
「あの、クルビスさん?」
準備が出来たと呼ばれたのに、どうして目の前にクルビスさんがいるんだろうか。
シードさんの提案で、式の当日まで私のドレス姿は見ないことになってたのに。
「こうなると思った。明日、初めて見てたら、動けなくて予定がズレる所だったな。」
「いやあ。見とれるとは思ったんですけどね~。まさか、ここまでとは。」
少し離れた所でメラさんとシードさんがやれやれといった感じで話している。
どうやらメラさんがクルビスさんに私のドレス姿を見せることにしたみたいだ。
確かに、ここまで見つめて固まられると、ちょっとどうしたらいいかわからない。
明日こうなってたら、困ったことになってたかも。
「フィルドも式の前日に私の衣装姿を見たんだ。そしたら、離れなくなって、引きはがすのに苦労した。こんなところまで似なくていいのだが。」
「その話マジだったんですね…。親父の誇張だと思ってました。」
肩を竦めながらメラさんが話す内容に、シードさんも顔を引きつらせている。
…フィルドさん、前の日から離れなかったんだ。
クルビスさんもそうだと困るなあ。
もしかして、クルビスさんを引きはがすためにシードさんが残ってるんだろうか。
「しかし、このままでは入退場の練習にならんな。クルビスっ。」
うわ。魔素の圧力がいきなりかかった。
ほんの一瞬だけど、クルビスさんが正気にかえるには十分だったみたいだ。
「っ。何です。いきなり。」
「お前が見惚れて固まってたからだ。伴侶の声も届かなかったくせに文句を言うな。ほら、入退場の練習をやるぞ。ドレスの形が変わってるから、お前も一緒に歩いておいた方がいい。」
文句を言ったクルビスさんにしれっと言い返し、メラさんが練習を勧めてくれる。
そうだ。裾が長いから、クルビスさんが裾を踏んでしまったりするかもしれない。
自分の足に裾が絡まるくらいならともかく、歩いてる時に裾を踏まれたらドレスが破れてしまうだろう。
一応、夜に布を巻き付けた状態で一緒に歩く練習はしてたけど、本物のドレスでの練習も必要だろう。
入退場の仕方がまた変わっていて、一歩ごとに首を左右に振らなくてはいけない。
森の中で危険な獣から身を隠すために必要な動作が、形式化したものだそうだけど、歩きにくいんだよねえ。
まっすぐ前を見れない上に下も見れないから、裾を踏んでしまう可能性は大いにある。
メラさんがいてくれて助かった。このまま明日を迎えたら、クルビスさんに裾を踏まれて扱けてたかもしれない。




