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驚いたことに、お任せで出て来た食事はカレーだった。
ルーをかけるタイプじゃなくて、ドライカレーってやつだ。
見た目は蛍光の緑色だけど。暗闇でも光りそうだ。
…うん。そのあたりは考えても仕方ない。
香りはどう嗅いでもカレーのものなんだから、それでいいじゃない。
どうか、味もカレーでありますように。
それにしても、異世界でカレーに出会うことになるとは。
もしかして、ラーメンもあるのかな?
…暑いからないか。さすがに。
でも、和食があるなら、うどんくらい…あったらいいなあ。じゅるり。
「まあ、カリーね?久しぶりだわ。」
「私も久しぶりです。」
意外なことにイシュリナさんとビルムさんがとても喜んでいた。
と、いうことは、これってエルフのメニューってことかな?
たしか、イシュリナさんはお父様がエルフで、魔素が大きすぎる娘をメルバさんに預けたんだよね。
だから、エルフの里で暮らしていたことがあったはずだ。第二の故郷の味なんだろう。
「うちの料理長のおすすめっす。近くの深緑の森の一族の方もよく食べに来られるっすよ。ちょっと辛いっすけど、ハルカ様もこれくらいなら大丈夫だって聞いてるっす。」
私はこの世界で一部の食べ物の辛味を強く感じる傾向にある。
だから、辛いものを食べるときは注意が必要なんだけど、お墨付きが出てるなら存分に食べられる。
これも、食事にいちいち付き合ってくれたアニスさんやフェラリーデさんのおかげだ。
食べ物が安心して食べられるって幸せだなあ。
エルフの食べ物なら、カレーはあー兄ちゃんが元ネタだろう。たぶん。
ありがとう、あー兄ちゃん。よくぞ伝えてくれました。
暑い季節に食べるカレーは絶品だ。
水が注がれたコップが置かれると、早速スプーンに手を伸ばした。
「「「いただきます。」」」
スパイシーな香りに食欲をそそる刺激が舌の上に広がる。
ドライカレーだから、ルーがアツアツというわけでもなく、丁度いい温度ですいすい口に入っていく。
細かく刻まれた野菜も緑に染められて、中々すごい色合いだけど、味はしっかりカレーだ。
日本のカレーっていうより、インド料理やスリランカ料理のお店で食べるような味のカレーだけど、これはこれでとても美味しい。
南国のここではぴったりな味だと思う。
辛味はベルさんに言われた通りちょっとピリッとする程度で、これくらいなら問題なく食べられる。
久々のカレーを楽しみながら食事をしていると、先に食べていた子供たちが話しかけてきた。
西地区の子供たちだから、エルフの料理が珍しいんだろう。
「変わった匂い~。どんな味~?」
「ちょっとちょーだいっ。」
「あ、僕もー。」
「子供には辛いからダメっすよ~。もっと大きくなってからにするっす。」
手を伸ばしてくる子供たちをベルさんが諌める。
子供たちはそれでも興味が尽きないようで、ちらちらとこっちのお皿を見てくる。
まあ、スパイシーな香りに一皿で一人前の料理っていうのが珍しいんだろうなあ。
自分たちの食事と違うもんねえ。
子供たちの食事は色とりどりの原色の野菜や肉が使われた、バランスの良さそうな食事だった。
もちろん、子供たちが食べやすいように細かく刻んである。
こういう心遣いが素敵だよねえ。
きっとルドさんの指示だろうな。
「ふふ。ちょっと辛いから、もう少し大きくなってからね?」
「大きくってどれくらい~?」
イシュリナさんが宥めていると、子供特有の返答に困る質問がきた。
辛いものが食べれるようになるのは個人差だからなあ。イシュリナさんはどう答えるんだろう。
「そうねえ。西の料理は辛いものが多いから、皆なら50くらいになったら食べられそうねえ。」
「え~。じゃあ、後…10年だっ。」
「あたし、12年っ。」
「僕、後4年だ…。」
おのおの一斉に計算し始めた。
子供って、「後何年で~」ていうのよく言うよね。
それで納得したのか、みんな普通に食事をし始めた。
良かった。これで落ち着いて食べられる。
「…こちらの子供たちは元気ですね。」
ビルムさんが微笑みながらしみじみとつぶやく。
西の守備隊には転移陣で動かすのが危険な小さな子供がいるって聞いたことがある。
小さな子は体力も無いから、こっちに来ている子と回復に差があるんだろう。
心配なことだ。でも、こうしてビルムさんがこっちに来れるくらいだから、回復してはいるんだろう。
早く西の守備隊にいる子供たちも元気になるといいなあ。
子供は元気が一番だ。
「毎日この調子っすよ~?あ、でも、目立って元気になったのは、ハルカ様のおやつが出るようになってからっすねえ。」
へ?私のおやつって、和菓子のこと?
おやつが嬉しかったのかな?守備隊ではおやつが出ないって聞いたし。




