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「とにかく、部屋にお戻りください。あなた方は容疑者です。これ以上の勝手は審議の必要なしとみなされますよ。」
話を聞かない相手に、フェラリーデさんが静かな声で通告する。
…ちょっと魔王様入ってるなあ。これ。ぶるぶる。
「まああ。まさにそのことについてお話したいと思ってますのよお。ですから、クルビス様にお取次ぎを。」
…ホントに聞いてないんだなあ。
あの声音のフェラリーデさん相手に普通にしゃべってる。
見かねたのか、キィさんも助け舟を出す。
「捕まえたのは西地区だ。北の守備隊のクルビスは何も出来ない。それが街のルールで、お前さんもそれに従っているはずだが?」
「ええ。もちろんですわあ。でも、クルビス様にもお話しませんとお。」
引き下がる気がなさそうだなあ。
…もしかして、聞いてないふりして、わざと言いたいこと言ってるとか?
「お前さんとは関係ないだろう?クルビスにはルシェリード様が見つけて来た伴侶がいる。」
「…。私、ルシェリード様にはお目にかかったことありませんわよお?」
「ああ。お前さんじゃねえからな。カメレオンの一族の長もお前じゃないって言ってるぜ。来たら追い返してくれってな。」
気をつけてくれっていうのは聞いてるけど、追い返せとまでは言われてないはずだけど。
…まあ、長が見放してるって意味では同じことかな?
そこまで会話が進んだ時、効きなれたブザーの音が部屋に鳴り響いた。
ビービービー
転移陣が発動したんだ。おかしいな。
メルバさんが迎えに行ったなら、守備隊の転移陣は無視して連れてこれるのに。
「何ですのお?うるさい音お。もう、皆さん聞いて下さらないし、いいですわあ。私、自分でクルビス様にお会いして来ますう。」
え。もしかしてこっち来る?
もしや、ホントに居場所がわかってて、一応話は通そうとしてたってこと?
うわあ。どうしよう。
クルビスさんと顔を見合わせると、クルビスさんは顔をしかめて私を庇うようにドアの前に立った。
彼女と直接対峙する気なのかな。
そんな不安に襲われていると、冷たいフェラリーデさんの声が響く。
「お待ちなさい。面識のない者の面会には事前の許可が必要です。今日、クルビスに面会の予定はありません。」
「まあ。そんなの…。」
「関係大ありだな。お前は息子とは面識がない。私がたたき出したからだ。」
話を聞かないカメレオンの女性の言葉を遮って、凛とした声が響きわたる。
声の主はクルビスさんのお母様、メラさんだった。
「あら。変わった色の方ねえ。どなた?」
もう一つの声にギョッとして思わずクルビスさんを見上げる。
…イシュリナさんまで。何があったんだろう?
「母上、あれがクルビスに付きまとっていたカメレオンの一族だ。面識はおありか?」
「ないわねえ。こんな色の子は育てたことがないもの。」
穏やかだけど厳しい言葉だ。
お前なんて知らないって言われてるんだもん。
「まあまあ。お初にお目に…。」
「いらぬ。聞いている。お前たちがやってきたことは。お前の兄がやったこともだ。毒を流すなど言語道断。証拠はお前のその塗りたくっているものだ。それは毒だ。リード隊長、キィ隊長、中央本隊隊長の権限で命じる。この女を取り押さえろ。」
「「はいっ。」」
「ちょっと、何なさるのお?お父様あ。お母様あ。誰かあ…。」
助けを求める声は小さくなって、また静かになった。
あっという間の急展開。
どうしようかと思ってたのに、メラさんが片付けてくれた。
…助かった。
本心からそう思う。
正直、怖かった。
あんな話の通じないひとには会ったことなかったから。
イグアナの令嬢と対面した時とは違う。
正真正銘おかしいひとだった。
詰めていた息をゆっくり吐いて、いつも間にか握っていたクルビスさんの隊服をそっと離した。




