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「どうして、それが私だけに効くと思ったんでしょう?」
疑問を口に出すと、周りの視線が私に集まる。
でも、考え出したらいろいろとおかしなことがあるんだよね。
私は北の辺境出身となってるから、どの種族とも違う身体の構造をしているのは周知の事実だ。
ヒト族がいないこの世界で私の身体のことをちゃんと把握できてるのは、メルバさんやお年寄りのエルフたちだけだろう。
そんな私に効く毒物をどうやって知ることができるというのか。
しかも私だけに効くだなんて、何の根拠があったんだろう。
「恐らく、受け継いだ知識を流用したのが原因だね~。」
メルバさんが私の疑問に困ったような笑顔で答える。
クルビスさん達も頷いてるから、知られた話なのかもしれない。
「カメレオンはね~。厳しい環境の中で生きていたから、子供を育てる途中で親が死んじゃうのも当たり前でね~。知識の遺伝なんて能力が発達したのも、そのせいだって言われてる~。最低限生きていけるようにってね~。昔はそれで良かったんだけどね~。
街に移ってからは、受け継いだ知識の更新を怠る子が増えちゃって~。しかも、自分たちの知識を表に出さない習慣はそのままだし~。今回のも、古い知識だけを受け継いだ子が、知識の更新をせずにうろ覚えでやっちゃったってことだね~。」
メルバさんは困ったような笑顔のまま、私が教えてもらってないことを丁寧に説明してくれる。
リリィさんが言ってた怠け者ってこういうことか。
「たぶん、彼らには鉛はほとんど効かないんじゃないかな~?それをシーリード族全体でそうだと勝手に解釈しちゃって、そうじゃないハルカちゃんにって、これを流そうとしたんだと思うよ~。知らないって怖いよね~。」
知識って更新しないと、どんどん遅れていくもんね。
それなのに、表に出さないってことは、自分たちの知識が間違ってても気づけないってことになる。
「怖いですね…。」
知らないことは怖いことだ。
私は異世界に来て、知識が足りないことがどれほど不安なものか身を持って体験した。
「そうだね~。捕まったのって、若い子なんだよね~?」
「ええ。妹をクルビスにとしつこく勧めていました。ここにも押しかけてきたことがありますよ。」
フェラリーデさんの答えにクルビスさんが顔をしかめて頷いている。
妹のために私を亡き者にって?そんなドラマや映画じゃあるまいし。
「ああ。あの話を聞かないお嬢さんな~。ハルカ、気をつけろよ~?見た目は大人しやかなご令嬢だがな、自分に都合のいいとこだけ聞くタイプだ。お前さんのとこに現れるかもしれないぜ。」
話を聞かないタイプかあ。
もしかして、その毒を流したお兄さんも?うわあ、だとしたら厄介な話だ。
追放されたとしても生き残って逆恨みされないかな?
危険な場所に暮らしていた種族なら、もともと身体の作りは丈夫だろうし、毒の知識のあるひと達を放っておくのは危険な気がするんだけど。
カツカツカツ
早いノックの音が聞こえたと思ったら、リリィさんだった。
硬い表情にまたやっかいなことが起こったことが伺える。今度は何?
「犯行を行った者の家族だと名乗るカメレオンの一族がやってきました。…クルビス隊長に面会したいと。」
イグアナの時と似てるなあ。
でも、今度はクルビスさんに会いたいかあ。ちょっとやだなあ。




