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しばらくしてパックを取ると、今度は綺麗に顔を濯ぎまたオイルを塗った。
やっと終わったとホッとしてると、今度は髪の手入れだった。
髪の手入れだって、毎日自分でもケアしてるし1日1度はヘアパックもしてもらってるから、もうやることないはずなんだけど、今日のは1日後に髪が光り輝くというスペシャルパックらしい。
「これをするだけで、明日の髪の艶が段違いですよ。我が一族では特別な時に使うものなんです。」
アニスさんが丁寧に髪を洗い流して、まるで蜂蜜のような液体を私の髪に揉みこんでいく。
何だかいい匂いがしてきた。眠いなあ。
「ふふ。休んでください。準備はまだまだありますから。」
そうだよねえ。やることはたくさんある。
エステが終わったら、ドレスに不備がないか再度確認して、えっと、それから?
会場は中央の守備隊本隊のある広場だけど、それは今日設営して関係者以外立ち入り禁止だからお任せだ。
花の手配は1週間前と4日前にもしている上に、今日の確認はリリィさんがやってくれてるから大丈夫。
ドレスのことがあったから、どこも警備の数を増やして悪戯されたりしないようにしてるし、点検もやり直してもらってる。
そっちはクルビスさんに任せたから、大丈夫でしょ。
う~ん。あ、式の時の名乗りと挨拶の手順確認しなきゃ、出来たらドレス着た状態で練習したいなあ…。
そんなことを頭の片隅で考えてたら、いつの間にかずいぶんと眠り込んでしまっていた。
「ハルカさん。起きて下さい。もうお昼ですよ。」
アニスさんに優しく起こされ目を覚ます。
視界に飛び込んできた光り輝く女神の微笑みに悩殺されつつ、言われたことを思い浮かべる。
もうお昼なんだ。お腹すくはず…え?お昼?
そんなに寝てたの?ドレスの合わせもあったのにっ。しまったあ。
「すみません。すっかり寝入ってしまって。」
「大丈夫ですよ。少し騒がしかったものですから、そのまま寝ていて頂きました。」
あれ?そういえば、アニスさんだけだ。
イグアナの令嬢の件があってからは、常に隊士がふたりはついていたのに。
「…何かあったんですか?」
「カメレオンの一族が捕まりました。街に毒を流そうとしたんです。」
返ってきたのは思いもしない事実だった。
毒って、もしかして私に飲ませるために?そんな、どうしよう。




