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クルビスさんを慰めて、そのままその日は一泊した。
何をするわけでもなくただ一緒にいた。
そんな穏やかな夜を過ごして翌朝部屋に戻ったら、アニスさんが少し緊張した表情で待っていた。
嫌な予感だ。
「おはようございます。アニスさん。」
「おはようアニス。」
「おはようございます。ハルカさん。クルビス隊長。少しよろしいでしょうか?」
そして聞いた話は驚くものだった。
私のドレスを狙ってマルシェさんの工房に泥棒が入ったらしい。
幸い、自宅の方にいたマルシェさんにケガは無かったものの、彼女は襲われた後ドレスを持って急いで近くの守備隊に駆け込んだのだそうだ。
ドレスはマルシェさんが自宅に持ち帰っていたらしく無事だった。
本来は仕事を自宅に持ち帰るのはいけないことなのだけど、今回の仕立ては急ぐものだったから、特別の許可が出ていたらしい。
相手はそこまでしているとは思わなかったらしく、工房に侵入したわけだ。
着替るとすぐに医務局に行く。
奥の部屋にはマルシェさんとメルバさん、それにフェラリーデさんとリリィさんがいた。
「マルシェさん。大丈夫でしたか?」
「ええ。私は何とも。ドレスも無事ですよ。近くの工房の方が気づいて下さって、知らせてくれたんです。それで、急いでドレスをカバンに詰めて、守備隊に駆け込んで、長に知らせて頂きました。」
「ご無事で良かった。マルシェさん。それに、ハルカのドレスも。」
元気そうなマルシェさんにほっとし、横にかけられているドレスを見てさらにホッとする。
式は明日なのに、ドレス何かあったらどうしようもなかったところだ。
クルビスさんも同じ気持ちみたいだった。
ちなみに、クルビスさんの衣装はすでに出来上がって、隊長室の私室に置かれていたため、こちらももちろん無事だ。
「ホントに無事で良かったよ~。うちの一族狙うなんてどこのバカ~?ま、心当たりあるけど~。絶対、許さないから。」
メルバさんはぷりぷりと怒っている。
当然だよね。マルシェさんは深緑の森の一族。長のメルバさんからしたら皆子供みたいなものだ。
最後のセリフに込められた冷気には、犯人の末路がタダじゃすまないことが伺える。
メルバさんの言う心当たりは私もある。
「カメレオン…でしょうか?」
フェラリーデさんが眉をひそめてつぶやく。
誰かに聞いているというより、確認してるようだ。
でも、遠回しな嫌がらせをするくらいなら、用心深い相手なんじゃないの?
クルビスさん達は頷いてるから、可能性は高いのかもしれないけど…。
「他にドレスにチョッカイかけてきたのがいないしね~。イグアナは花の手配の邪魔に貴金属類の買い占めだったかな~。それでも工房には手を出さなかったよ~。流通の邪魔くらい~。あそこも技術者の一族だからね~。技術者に被害は出さない矜持はあったみたい~。」
メルバさんも頷きながら、私にもわかるように教えてくれる。
そうか。イグアナの一族は陽球を作れるんだっけ。
流通の邪魔はいけないけど、作るひとの邪魔はしなかったんだな。
だから、カメレオンの一族ってことになるんだ。
嫌がらせの筆頭はイグアナの一族に並んでカメレオンの一族だもんね。
式が明日に迫ってとうとう実力行使しにきたってこと?明日大丈夫かな?




