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 結局、私の意見が通って追放はなしになって、イグアナのお嬢さんは一族内の地位は血縁によるものだから保留だけど、その他の一切の優遇と将来持つ権限をはく奪された。

 取りまき達も同じで、通常の訓練を中止し、学校に行って一からやり直すこととなった。



 驚くことに、イグアナの一族はある程度大きくなるまで、子供を外には出さないらしい。

 陽球を扱えるという一族特有の力のせいで、誘拐騒ぎが絶えないのだそうだ。



 子供じゃまだ使いこなすことも出来ないし、教えてもらわなくては陽球を作ることも直すことも出来ないのだけど、一族で独占しているが故に外に情報が出ないので、誘拐しようと企むひと達が減らないらしい。



 ここでも技術の保護による情報の規制が引っかかっているわけだ。

 取りまきの子たちは通常のイグアナの一族よりかなり早く学校へ通うようになったのだけど、これはかなり大変なことみたいだった。



 イグアナの一族は戦闘の訓練をほとんど受けないのだそうだ。

 限られた血族しか使えない貴重な能力とあって、魔素の扱い重視の特別メニューが組まれる。



 でも、それも名前だけの地位になった彼らには通じない。

 彼らは守備隊には入るようなごつい子たちと対等に訓練を受けることになるそうだ。辛いだろうなあ。



 もしかしたらいじめられるかもだけど…いじめられる前に生き残れるかなあ。

 こっちの体育にあたる訓練って、本当に訓練なんだよね。



 授業の内容が巨大なルシェ山の麓10週ランニングとか、南地区の海を数キロ離れた向かいの島まで20往復で泳ぐとか聞いたけど…うん、死なないでねと願うしかない。



 これを決定したのはメルバさんだ。

 これはこの街の司法によるのだけど、技術都市である以上、もめ事は技術に関わることが多いし、またそのもめ事によって特定の技術に影響が出る場合、調停者を選抜する。



 今回は陽球を扱えるイグアナの一族の令嬢とレシピの無料公開を行おうとしている私のもめ事なので、調停者を選ぶ必要があった。



 調停者はどちらの一族でもなく立場が上であることが条件で、さらに揉めた時に取り押さえられる程の魔素の持ち主でないといけない。

 あの場ではメルバさんしかいなかった。



 片やトカゲの一族の次代の家長の伴侶で、片やイグアナの一族の長から数えて第4位の立場にいる令嬢。

 …メルバさんが引き受けてくれて本当に助かった。



 調停者の選抜が出来ずに司法の場が開かれるのに100年かかった事例もあるのだそうだ。

 いくら寿命が長くたって、そんなに待てませんよ。



 それで、技術が絡んでいる以上、たとえ私があの場で彼女の追放…この世界では死刑に近い重刑を望んだとしても、最後に決めるのは調停者なのだそうだ。



 この街の司法はあくまで話し合い。

 手も足も魔素も使ってはいけない。技術者の身体を守るためだ。



 でも、もめてる当事者たちで話し合うのは難しい。

 そこで、調停者の出番になる。



 両方の言い分を聞き、事実を確認し、街の利益を最大限損なわない判決を取ること。

 これが調停者の役割だ。何て面倒で重たい役割だろう。100年決まらなかった理由もわかるかも。



 まあそれで、街の司法についてはまだ不勉強な私だけど、あまり怒ってないことをメルバさんはわかっていて、外に放り出すと各方面から問題の起こりそうなイグアナの一族を追放にしなくて済むように話を持って行ったらしい。



 らしいというのは、今、お茶を飲みながらそういう話を聞いているから。

 私にどうしたいのか聞いたにも関わらず、メルバさんが最後淡々と通達していくから、昼食を取った部屋に戻るとメルバさんに問い詰めたのだ。



「いや~。助かったよ~。今回の件は派手にやってくれたからね〜。表には絶対に出るから、判決は出さなきゃいけないし~。なのに、重罪犯したあのお嬢さんはもう陽球が作れる程の腕前だっていうから~。街の外に放り出したらあっという間に誘拐されて拷問されて一族の秘儀を吐かされただろうしね~。あの子は学校には簡単に出せないなあ。見張り兼護衛を見繕わないとね~。」



 メルバさんは大きなため息をついて、事件についてとこの街の司法について説明してくれた。

 クルビスさんは私の横で普通に話を聞いている。どうやら、メルバさんが出てきた時点で、街の司法が技術の保護を中心に動いたことを悟ってたみたいだ。



 未成年うんぬんは本当だけど、髪を切ろうとした重罪にはそれほど影響は与えられないのだそうだ。

 相手の色を傷つけることは相手の存在を傷つけることだと本能的にわかっているので、小さい子でもまずやらなくて、これに関して年齢はあまり考慮されないらしい。



 それで、相手にそこそこの罰しか与えられないとわかったクルビスさんは、イグアナのあの親子がまた調子に乗らないようにきっちり脅しをかけて、私なら目の前で謝る相手に酷い罰は下せないだろうってわかってて、「相手は未成年だ」と強調した上で「私の意志」を聞いたのだそうだ。



 いや、まあ確かに目の前の子供相手に「野山に放り出せ」なんて、「死ね」っていうのと同じ意味になる決定なんて下せませんよ。

 泣きそうになりながら謝ってるのに。反省してるのは魔素でよくわかったし。



 何より、私は一般人だ。

 ひとの生き死にに関わったことのない普通のひとだ。



 そんな重い決定できるわけないでしょうが。

 事情はわかったけど、ひとり蚊帳の外な自分が納得出来なくて私は膨れていた。



 でも、そこにメルバさんの鋭い突っ込みが入る。



「でもね~。ハルカちゃんがテンプレにふらふら引き寄せられなきゃ良かったんだっていうのも、頭に入れとこうね~?あーちゃんもそうだったけど~。ハルカちゃんも基本的に危機感がないからねえ~。隙が出来やすいんだよ~。ハルカちゃんは女の子なんだから、気を付けなきゃね~?」



 う。…その通りです。

 面白がって厄介な事態に首を突っ込んで、騒ぎを大きくしたのは私です。



 隣に座るクルビスさんに向き直って、頭を下げる。

 クルビスさんは驚いてるようだけど、納得してもいるようだった。バレてたのかな。



「…ごめんなさい。ちゃんと、これからはクルビスさんにも周りのひとにも相談して、自分の手に余る可能性のあることには首を突っ込みません。」



「是非、そうしてくれ。心配で目が離せない。」



「そうだね~。イグアナがこんなことしでかしたってことは、カメレオンも何か動きそうだしね~。厄介ごとは終わってないから~。」



 うええ。そうでした。

 まだ問題のある一族があるんだっけ…。

昨日の結末は、「日進月歩~」の時点で決めていた街の制度を思い出してそれに合うように書きなおしたものです。

初期の活動報告のどこかに調停者の話をちらっと書いてます。

…知らないひとの方が多いだろうなあ。

長い設定の垂れ流しの中にちょろっとですから。

ヒントは街を出るときに行きあった喧嘩です。…バレバレですかね?

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