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部屋を出て、すぐ近くの医務局に向かう。
クレイさんは応接室を兼ねた会議室に通していると聞いたから、今向かってる方向は階段を中心に反対側だ。
後ろからついてくるアニスさんには何も言わない。
さっきから表情があまりないから、何を考えているのかわからなかった。
カッカッ
「はい?」
フェラリーデさんの声が聞こえたので、名前を名乗って中に入らせてもらった。
笑顔で出迎えてくれたけど、その視線がアニスさんに向かった途端軽く見開かれる。
「これは…。とにかく、中にどうぞ。」
「失礼します。…クレイさんがアクセサリーの確認にいらしたらしくて、それをアニスさんは私に知らせてくれたんですけど、様子がおかしくてここに来ました。」
アニスさんが中に入ってドアを閉めたのを確認すると、ここに来た理由を説明する。
そう。黒に近い灰色なクレイさんが私を訪ねて来たって、慎重なアニスさんならいきなり私に知らせたりはしない。
きっと、普段の彼女なら上司であるリリィさんかフェラリーデさんに先に報告するだろう。
そして、その結果、私が会う方がいいならリリィさんかフェラリーデさんの伝言と言う形で知らせてくれたはずだ。
何より、彼女はいつも光り輝く女神のごとき笑顔だ。
硬い表情で事実だけを告げるなんて今までなかった。
だから、私は違和感を感じて、アニスさんとこれ以上話す前に医務局に駆け込んだというわけ。
フェラリーデさんは私の説明を聞くと、すぐにアニスさんを座らせて幾つか質問を始めた。
戸惑うように答えていたけど、私の話になると表情が固まった。
「ハルカさんを、連れて行こうと、思います。」
「あなたも一緒にですか?アニス。」
「はい。頼まれました。」
誰に、何て聞かなくてもわかる。
言葉も途切れがちで何だか不自然だ。
フェラリーデさんは頷くと「ハルカさんは私が連れていきます。あなたは少し休んでいなさい。」と指示を出し、アニスさんは部屋にいた他の隊士さんに連れていかれた。
部屋には沈黙が漂う。
「…おそらく、催淫にかかっているのでしょう。連れて来て頂いて助かりました。」
ため息のようにフェラリーデさんが話し始めた。
アニスさんの不自然な行動はクレイさんに術をかけられたからだったようだ。
「あれが術にかかった状態なんですね。…クレイさんが来たようなのですが、どうしたら良いでしょう?」
アニスさんのことも気にかかるけど、今は待っているであろうクレイさんのことだ。
私ひとりで会うのは論外、だけど、今のアニスさんを見ると一緒に連れていくひとだって簡単には選べ無さそうだ。
「そうですね。術に耐性のあるアニスでああですから…。」
「ただいま~。」
フェラリーデさんが考え込んでいると、部屋にいきなりメルバさんが現れた。
これかあ。メルバさんの法則無視な転移。消えるとこは見たことあったけど、現れるの見たのは初めてだなあ。ホントにいきなりだ。
「長…いきなり現れないで下さい。」
「ごめんごめん~。クレイ君がそっち行ったって聞いてさ、急いで戻って来たんだ~。間に合った?」
フェラリーデさんにお小言を言われながら、メルバさんが穏やかに笑う。
話してる内容は緊急の話なんだけど、いつものテンポがホッとする。
「ええ。しかし、アニスが催淫にかかりました。今、クレイがハルカさんに会いに来て待っている状態です。」
フェラリーデさんが端的に事実だけ述べると、メルバさんが頷く。
そして、何故かそれはそれは良い笑顔で私の方を振り替えると、まるで決まっていたかのように話した。
「うん。じゃあ、ハルカちゃん。クレイ君に会いに行こっか~。」




