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「それは、何というか…すごいですね。悪い意味で。」
「ああ。色を偽ってもすぐばれるのにな。やめようとはしない。あの連中も何を考えているのか…。色は確かに自分の力を示すものだが、それが全てでは…いや、俺も似たようなものだな。黒は優遇され、白は冷遇される。今日までそういうものだと思っていた。」
そう言ってクルビスさんは苦笑する。
黒は優遇され、白は冷遇される…それって、ケロウさんのことかな?
幸いの竜の話はみんなとても驚いていた。
子供たちに話そうと思ってたけど、この分だと街で話したらもっと驚かれそうだ。
話す前にメルバさんやフェラリーデさんに相談してみた方がいいかも。
色のイメージって結構強烈だしなあ。
日本でだって、白は結婚や祝い事、黒は喪服ってイメージがあるくらいだし、個人的には赤は熱血で青はクールなイメージがある。
そんなイメージを否定するような話をするんなら、反発されることも想定しておかなきゃね。
「色のイメージってどうしてもありますから、それは仕方ないですよ。私だって、白はお祝いごとに使う色で、黒は喪服や抑えるための色だって思ってますし。」
フォローのつもりで自分の中の色のイメージを伝えると、クルビスさんが不思議そうな顔をしている。
目を見開いて驚いているのに、首を軽く傾げている。最近、この仕草が可愛いと秘かに思ってるやつだ。
「偲ぶための服…?何に使うんだ?」
え。偲ぶための服?
そんなこと言ってない…あ。そっか。こっちでは魔素で言葉の意味が伝わってるから、喪服が「偲ぶための服」って伝わったんだ。喪服ってないのかな。
「ええっと。故郷では誰か無くなっても消えたりしないんです。だから、遺体を土に埋めて、お墓を作って、亡くなった方が無事に眠れるように、未練を残さないように祈ります。その時に専用の服を着るんです。」
で、いいよね?
喪服の意味なんて考えたこともなかったけど。
「消えない…。そういえばそう言っていたな。こっちでは個別に思い出にひたることはあっても、わざわざ集まったりはしないな。」
死に方だって違うもんね。そりゃ死に対する認識だって違うでしょう。
こっちでは魔素が無くなると消えてしまう。
「存在する力」が無くなるんだから当たり前だけど、そのせいかこっちでは死に対する忌避感や恐怖が薄いように思う。
まあ、ドラゴンとか見てたらちょっとやそっとで死にそうにないし、そのせいもあるかもしれない。
「そうか。白が祝いの色で、黒が抑える色か。本当に色の認識が違うんだな。」
「ええ。育った環境が違えばそんなものですよ。最初は髪に注目されるのがよくわからなくて困りました。」
何度も同じようなことを言ってるのがおかしくて笑ってしまう。
でも、たくさん話さなきゃ。それだけ違うってことなんだから。
「ああ。そうだな。そんなものかもしれない。」
「そうですよ。」と答えようとしたらクルビスさんの姿がない。
あれ?クルビスさん、どこ?
探そうと首を巡らせると、ぎゅっと抱きしめられた。
お尻の下が固い感触に変わっているのに気づく。
慌てて確認すると、いつの間にかクルビスさんに膝だっこされていた。
(えええっ。いつっ。どうやってっ。というか、クルビスさんそこで本気ださないで下さいよっ。)
内心驚きで絶叫しつつ、どうしたものかと考える。
密室にふたりきり。手を出されてもバレない状況盛りだくさん。
「あの、クルビスさん?」
「…笑った顔が可愛くて、つい。」
ついで、いきなり膝抱っこしないっ。
文句を言おうと顔を上げるといい匂いが鼻をかすめて、くらりとなる。
くう。魔素全開のクルビスさんは威力が半端ない。
いい匂いするしっ。力が抜けるっ。
「俺はもうハルカを手放せない。苦労をかけると思うが…一緒にいてくれるか?」
は?今さら?
今度は何を気にしてるんだろ。
苦労をかけるって、ああ、黒塗りの女性たちとか、黒に群がるひと達のこと?
そんなに面倒な相手なのかな。ありそうだけど。
白の冷遇に対して黒の優遇かあ。
きっとそのひと達は「黒=権力」とか思ってるんだろうな。
実際、嫌がらせはしてたみたいだし。失敗してるけど。
この分だと、式当日に邪魔して来そうだよね。心配するならそっちかな?
まあとりあえず、何だか弱ってる婚約者を慰めましょうか。
程ほどにだけど。まだ、こっちの身体は持たないから。
一応、一区切り。
いちゃいちゃは乗せるか削るか考え中。




