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ちょっとシリアスな感じの話が続きます。
今回も長い。書き足したんでおよそ2300字。
「で、でも、そんなことってあるんでしょうか?スタグノ族は各一族独立してるって聞きました。」
だから、各一族に挨拶に行って、個別に交渉して、それからお披露目をした。
共通する部分もあるけれど、基本的に一族至上主義と伝統で固まってるって教わった。
スタグノ族と言ってはいるけど、シーリード族ほどは種族としてまとまってないというのが私の印象だ。
それが手を組んでまで、赤の一族の長やそれに近しい関係者を殺すだろうか?
「それは、今でもそうだな。…だから、当時はわからなかった。目立った理由も見当たらなかったし、実行したやつも共犯だったと思われるやつも赤の一族だったしな。だが、黄の一族の情報が入るようになってわかったんだが、当時はちょうどどの一族にとっても変革の時期だったんだ。」
変革の時期?
どういうことだろう。
「赤の一族は当然リッカとその両親の披露目があった。青の一族は、当時はキィが術士部隊の隊長に就任したばかりで、各方面から注目を集めていた。あの頃のキィはスタグノ族で初めて隊長職についた天才と称えられていて、キィの両親も一族の若者に術士になって街に所属する意識を高めようとしていたそうだ。
そして、黄の一族は街に移ったばかりの頃で、長が一族の子ども達に一族の教えではなく、街の教育を受けさせようと青の一族の長や赤の一族の長と積極的に交流していたらしい。」
どれもスタグノ族の一族至上主義に反することばかり…。
それが3つの一族で同時期に起こっていた?
「どれも自分たちが一番だと思っている連中には面白くなかっただろう。特に、黄の一族は街に移って間もなかったから街への拒否反応が酷かったらしい。グレゴリー殿に聞いたが、色が変わる可能性を聞いてからは、元の場所に戻るよう主張する連中が連日詰めかけてきたそうだ。…毒が盛られることもあって、気の抜けない日々だったとか。」
聞くだけでも大変そうな話だ。
グレゴリーさん苦労したんだろうなあ。
「先代が早くに亡くなったのも、命を狙われていたことに加えて、一族をまとめるために「声」を使い過ぎたせいだとグレゴリー殿は考えているようだった。そんな過剰な反応の黄の一族に感化されたのか、当時は一族至上主義の風潮がかなり強くなっていたそうだ。」
先代の長さんってオルファさんのお父さんだよね?
苦労して街に出て来たのに、身内は好き勝手言うわ毒を盛られるわなんて、踏んだり蹴ったりだ。
そもそも、元の場所に戻るなんて無茶な話がよく出たなあ。
話に聞いた通りなら、元の場所なんて戻っても水も食べ物も無くて、どうしようもなかっただろうに。そんなことは考えなかったんだろうか。
命よりも一族の「色」の方が大事だって思ったんだろうか。
キィさんやリッカさんへの冷たい視線を思い出すとありそうだけど…日本で育った私にはわからない考えだ。
「そんな時に各一族の改革派の有力者たちがまとめて集まる場が出来た。それが、リッカとその両親の披露目の場だ。」
そのお披露目が成功してたら、きっとますます一族の改革は進んでいただろう。
だから、このまま手を取り合われては困るひと達が行動を起こした。
状況が揃い過ぎてるし、スタグノ族の偏った意識はお披露目の時に実感したから、ありえる話だとは思う。
…けど、私が聞いたのは転移陣の細工の可能性だけなんだよね。
それも青の一族がキィさんへの嫌がらせにやっただろうなっていう話だ。
それでどうして青の一族も関わってるって話になるんだろう。
キィさんのご両親も亡くなっているけど、彼らは招待客だ。
赤の一族の殺人に巻き込まれたって思うのが普通じゃないのかな?
むしろ、一族のことに関してはお互いに不干渉の立場を取ってるスタグノ族なら、その方が自然な考えだろう。
「でも、確かに転移陣の細工の可能性は聞きましたけど、それは青の一族です。そうじゃなくて、何もかも全部、赤の一族のひとがやったってことは無いんですか?」
私が疑問を挟むとクルビスさんは不思議そうな顔をして、何か考えているようだった。
すぐに何かに気づいたように頷く。
「ああ。そうか。そういうことか。…スタグノ族は商売に精を出してるから知られてないんだが、転移陣を操れる程の魔素の量とそれを操る技量を持つのは青の一族だけなんだ。」
クルビスさんはそう言って、青の一族や当時の事件について、今までにわかったことも含めて教えてくれた。
青の一族はもともと魔素の豊かな水源で生活していて、水を魔素で操ることによって水の浄化や湿度のコントロールをしながら生活していたのだそうだ。
水の操作は難しいらしく、独自に術を操るのに長けた青の一族はかなりの技量なのだそうだ。
実際、現在の北の守備隊の術士部隊は半分が青の一族だ。
ただ、それも最近の話で、保守的な青の一族は長いこと一族のためにだけ力を使っていたそうだ。
その一例が青の一族がほとんど占有している花の売買だ。
水を操ることで、年間通しての花の栽培を成功させ、街の花の流通を一手に引き受けるようになったのだとか。
花を栽培するくらいにしか使われていなかった能力だけど、キィさんが術士部隊の隊長になったことで、青の一族の術式に関する才能は一躍有名になった。
それから一族で積極的に術士になる気風が高まるようになったのだけど、当時はまだまだ知られていなかったそうだ。
キィさんの話だと、「よそ者に一族の力を与えるなど、何を考えているのか。」と罵られることもあったとか。
青の一族も黄の一族と似たり寄ったりなことをしている。
キィさんの苦労がしのばれる話だと思った。




