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トカゲと散歩、私も一緒  作者: *ファタル*
ドラゴンの一族
155/360

15

今回も長い。

2600字程。

 落ち着いたクルビスさんを室内に誘導して、隅につまれていた座布団を敷いて座ってもらう。

 どう座ったらいいのか悩んでいたけど、私がさっさと腰を降ろしたら胡坐をかいて座ることにしたようだった。



 クルビスさんにとって、ここにあるものはティーポット以外何もかも馴染みのないものばかりだ。

 周りをきょろきょろと見渡しながら、どこか落ち着かない様子を見せている。



 そんなクルビスさんを見ながら、きっといつもは私があんな風なんだろうなと思ってちょっと笑ってしまった。

 お茶の用意をしようとポットに手を伸ばすと、ずしりと重さが手にかかる。



「あ。お茶も用意されてますね。今、入れますね。…緑茶なんですね。再現が細かい。こっちにも緑茶ってあったんですねえ。」



 慣れた香りに湯呑を覗き込むと、中に入ってたのは緑のお茶だった。

 ちょっと青っぽかったけど、それは異世界仕様ということで。



「これは、深緑の森の一族が飲む茶だ。生のまま加工するから葉の色がそのまま出る。…ハルカの故郷でも飲むのか?」



 生のまま…まんま緑茶だ。

 後でメルバさんに分けてもらえないか聞いてみよう。



「ええ。どちらかというと、緑茶の方が一般的です。加工の過程の違うお茶も飲みますけど、やっぱり緑茶があると落ち着きますね。」



「そうか。これは街でも売っている。今度買いに行こう。」



 クルビスさんが嬉しい情報を教えてくれる。

 街でも売ってるんだ。是非買いに行こう。



「そうなんですか?行きましょう。行きましょう。…ふふ。デートですね。」



 湯呑を差し出しながら、二人で街を歩く姿を想像して思わず笑いがこぼれる。

 だって、お披露目に忙しくて、クルビスさんと二人で出かけたりなんてしたことないもんね。



 楽しみだなあ。

 あ。でも、クルビスさんって休み取れるのかな?



 休日のクルビスさんなんて見たことないんだけど。

 …休みも仕事してるとかないよね?



「…クルビスさんのお休みってどれくらいの頻度であるんですか?10日に1回とかですか?」



「え。…あー。隊の規約では10日に1度だな。ただ、隊長職は書類仕事もあるから、不規則になることが多い。」



 そう言って視線を逸らすクルビスさん。

 これは休んでないな。後でシードさんに確認しよう。



「そうなんですか。お休みになったら一緒にお出かけしましょうね?」



 あえて突っ込まずに笑顔で休みを誘う。

 するとクルビスさんが上機嫌で頷いてくれる。上手くいったかな?



 これ以上は追及しないでおきましょう。

 クルビスさんに自主的に休ませるのが最終目標だけど、今はこれまで。



「それにしても、こちらの葉は青みが強いんですねえ。慣れましたけど、最初に見たときは驚きました。」



 辺りさわりのない話を振ると、クルビスさんが強張った顔つきになる。

 あれ?なんかマズイ話題だったかな?



「それなんだが…ハルカ。色について聞いておきたいことがある。」



「色ですか?」



 何かあったっけ?クルビスさんの顔は強張ったままだ。

 空の色が違うとか話すことはあったけど、今まではそんな深刻な感じじゃなかった。



「ああ。黒がこちらで強い色なのは知ってるだろう?」



 聞かれて頷き返す。

 だから、黒の単色のクルビスさんはとても強いって聞いている。



 でも、それが何?

 あまりいい話じゃなさそうだ。



「それは逆に、色が薄い程、力が弱いということなんだ。」



 言われてケロウさんの姿が浮かぶ。

 真っ白なドラゴン。



 最初に挨拶したときも白どころか淡い色のドラゴンは目につかなかった。

 前に出てたのは色の濃いドラゴンばかりだったから。



 フィルドさんに紹介されて、初めて水色やラベンダー色のドラゴンを見たくらいだ。

 これが何を意味するのかくらいわかってるつもりだ。



「…白い魔素のことですか?」



 単刀直入に聞くと、クルビスさんの顔が固まった。

 当ってたみたいだ。



 街に下りるって話だったし、これからも接触する機会はあるだろう。

 その時に今日のような私の反応は異端なんだろうな。



「ああ。濃い色に比べて、魔素の量も質も低い上に、白の魔素持ちは自身のためには力を使えない。周囲の魔素を自動的に取り込んで吐き出すだけなんだ。…つまり、魔素を自由に操ることができない。だから、白の魔素は「魔素なし」と罵られることもある。」



 魔素なし…。それってかなりひどい言葉だよね?

 魔素とは存在する、生きるためのエネルギーそのものだ。



 それが無いってことは、生き物じゃないって言ってることになる。

 目に見えてわかる分、その差別は酷いものだろう。



 市場でゼリーを買ったお店のヘビのお姉さんを思い出す。

 薄い黄色がかった白に近い体色に赤っぽい瞳のアルビノ色のひとだった。



 おおらかに笑っていたけど、彼女も苦労したんだろうか。

 市場の終わる時間だったけど、他の店と違って彼女のお店にはお客さんはいなかった。



 そういうことなんだろうか。

 私が見てるのはまだ一部だから、これで決めつけるのはよくないけれども。



 でも、クルビスさんがわざわざ私に教えてくれるのは、それが「常識」だからだ。

 そのことはわかっておかないといけないだろう。



「ハルカがケロウ殿に「幸いの竜」と言っただろう?あれはこちらには無い発想だ。本来なら色で差別されることなんてあってはならないことだが、それでも言う奴はいる。ハルカは色に対しての差別がないから戸惑うかもしれないが、それは覚えておいてくれ。」



「はい。わかりました。…「幸いの竜」の話はしない方がいいですか?」



「いや。それは積極的にして欲しい。ハルカは育った環境が違うと皆知っている。だから、場所が変わればとらえ方も変わるものだとはっきり示して欲しいんだ。ルシェモモは発展した都市だけに、そこから外に出ることはあまり無い。だが、最近は外からの移転者も多くなって、多種族が揃う都市になっている。住民もあらゆることをおおらかに受け止められるようにならなくてはいけないんだ。」



 成る程。クルビスさんと婚約した私は外から来たとハッキリしてる上に、お菓子のおかげでそこそこ影響力がある。

 その私が白を絶賛すれば、考え方が変わるきっかけにはなるだろう。



 それで、すぐにどうこうなるわけじゃないだろうけど、何かは変わるはずだ。

 とりあえず、手始めに守備隊にいる子供たちに「幸いの竜」のお話でもしてみようかな?

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