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トカゲと散歩、私も一緒  作者: *ファタル*
ドラゴンの一族
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12

 シリアスな空気に困ったけれど、幸いなことにそれは数秒で終わった。

 ルシェリードさんからの『いや。まったくめでたいことよ。さあ、皆も飲め飲めっ。』という一言で、また宴会に戻ったからだ。



 その後、何でか飲み比べが始まったんだけど、ドラゴンの飲む量は半端ないから、お酒が途中でなくなった。

 開始5分で終了。これには笑ってしまった。



 そしたら今度は、お酒が無くなったことに不満のあるドラゴン達が並べられてた果物を使ってお酒を作り始めて。

 果物と水の魔素を操ってどうこうと説明を受けたものの、魔素については初心者な私にはさっぱり理屈がわからなかった。



 そのうちルシェリードさんが『ええい。まだるっこしい。』と言って、かなり大きな魔素を操ったと思ったら、お酒のシャワーがドラゴンの里に降り注いだ。

 歓喜したドラゴン達は歌って暴れ始めるし、どんどん振ってくるお酒で辺りはドロドロになるしで、宴会はすっかりカオスだ。



 その辺でフィルドさんが『悪いね。こうなったらもう止まらないから。ここはいいから、寝床に案内するよ。』と言ってくれて、現在に至る。



 カポーン



 そんな音が聞こえそうな巨大な木製の湯船のお風呂を目の前にしています。クルビスさんと。

 大事なことだから2回言う。クルビスさんと。



「まさかこれ程の温泉があるとは…。」



 クルビスさんもあまりの広さに驚いている。

 まあ、そうだよね。体育館より広そうだもん。端が見えないし。



『下に湧いてるやつと繋げてあるんだ。うちの一族は好きだからね。メルバ様が作って下さったんだよ。』



 案内してくれたフィルドさんが説明してくれる。

 こっちのドラゴンは温泉が好きらしい。



 というか、メルバさん、絶対あー兄ちゃんから聞いてたでしょう。

 香りがヒノキなんだよね。この湯船。



 こっちではどんな木材なのか知らないけど、贅沢な気分になるお風呂だ。

 ドロドロだし、ありがたく入らせてもらおう。でも、その前に。



「あの。女性用のお風呂場は…。」



『ここだけだよ?大丈夫。私は退散するから。ふたりでごゆっくりどうぞ。』



 いやいやいやいや。待って下さい。

 まさかの混浴なんですかっ?



「ドラゴンは本体で入るらしいからな。男女で分けるという概念が薄いんだ。」



 クルビスさんがため息をつきながら教えてくれるけど、今はそれどころじゃない。

 結婚前に混浴って。え。こっちでは普通なの?私の普通ではないのですが。



「…俺は外に出てるから、ゆっくり入ってくれ。」



 私がプチパニックを起こしていると、クルビスさんがきびすを返して外に向かって歩いていく。

 た、助かった。さすがに明るいところで裸見せるとか無理。



 待たせてもいけないのでぱぱっと脱いで、近くに積んであったこれまた和風な桶で身体を流し、ゆっくりと湯船に浸かった。

 ドラゴン用のお風呂なのに、木で出来た湯船の淵はなぜか階段状になっていて、そこに腰かけることが出来た。



 これ、たぶん、メルバさんが作っておいたんだろうなあ。

 自分が入るために。



 フェラリーデさんと日本の話をした時、木で出来た湯船をずいぶん珍しがっていたから、たぶん、こっちでは何かの理由で木製の湯船は作っていないんだろう。

 でも、メルバさんはヒノキのお風呂を作ってみたかったんじゃないかな?



 世界樹の家の中には実家とそっくりな台所とトイレとお風呂があったけど、実家のお風呂は一部だけだけどヒノキ風呂だった。

 お父さんのこだわりらしいけど、一部だけでもお金がかかって仕方なかったってお母さんがこぼしていたあのお風呂。



 あー兄ちゃんは好きだったもんなあ。

 それでたぶん、メルバさんはヒノキの香りを知っていて、ヒノキだけの湯船のお風呂のことも聞いていたんだと思う。

 


 まあ、どちらにしろ、私にとってはラッキーなことだ。

 ふう。久しぶりだなあ。ヒノキのお風呂なんて。



 昼間からこんな景色のいいところで露天風呂かあ。なんて贅沢。

 久々にほっこりすると、着替えはないので洗っておいた服を巻きつけクルビスさんを呼びに行った。



「クルビスさん。上がりましたから、次どうぞ。」



「早いな。温まったのか?」



 私が声をかけるとギョッとしたようにクルビスさんが振り返る。

 入口からカオスな宴会の様子を伺っていたようだ。



 お酒の雨はもう止んでいる。

 きっと、果物がなくなったんだろう。もしくは酔いつぶれたか。



「ええ。とてもいいお湯でした。」



「ああ。だが、その服は…。ジッとしててくれ。」



 私の濡れた服を見て顔をしかめると、クルビスさんの魔素に包まれる。

 ふわりと暖かい空気に包まれたと思ったら、髪も服も乾いていた。



「これでいい。身体が冷えてしまうからな。」



「ありがとうございます。」



「ふっ。じゃあ、俺もさっさと入ってくるとするか。」



 お礼を言うと、ふわりと微笑まれて膝から力が抜ける。

 何とか耐えてる間にクルビスさんは温泉に向かってしまった。



(危なかった…。もう、ドラゴンの里に来てから、クルビスさん魔素全開なんだもん。うっかりキュンキュンしちゃったじゃない。力はいんないし。)



 内心ぶつくさ言いつつ、フラフラしながら近くの岩に腰を下ろす。

 これからお泊りなんだよね…。魔素全開のクルビスさんと。



 私、大丈夫なのかな?

 すでに腰がガクガクなんですけど。

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