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トカゲと散歩、私も一緒  作者: *ファタル*
ドラゴンの一族
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 深緑の森を越え、ルシン君を助けた崖も通り過ぎ、どんどん山が近づいて来る。

 山の頂上付近になると、樹は少なくなり赤っぽい地肌が目立つようになってきた。



 ルシェリードさんは山頂の真ん中で切れ目のような形になっている谷に向かっているようだった。

 谷の入口に2体のドラゴンがいるのが見える。薄い緑のドラゴンと青い体色のドラゴンだ。



『おかえりなさいませ。ルシェリード様。』



『ようこそおいで下さいました。開場っ。』



 歓迎の言葉と共にムワりとした暑い空気が周りを囲む。

 さっきまで少し肌寒いと感じていたのに、今はルシェモモの街中と変わらないか少し蒸し暑いくらいだ。



「これは…。」



『結界だよ。いきなり暑くなって驚いたかな?』



 私の驚きにルシェリードさんが答えてくれる。

 結界…。ファンタジーな単語出たーって感じだ。



 山の上は寒いから、ドラゴンに快適な温度にしてあるんだろう。

 子供たちはここで育てるって聞いたし、寒いのはいけないんだろうな。



「はい。驚きました。ここは暖かいんですね。」



『生まれたばかりの子は弱いからな。暖かくしてある。』



 予想したのと同じ答えが返ってきた。

 やっぱり子育てのためか。



 ドラゴンって強いイメージだったけど、生まれた時はそうでもないみたいだ。

 まあ、すぐに強くなるんだろうけど。それにしても、中に入ってからちょっと息苦しいような…。



 そんなやり取りをしつつもルシェリードさんはどんどん下に降りていく。

 思ったより深い谷だ。真ん中がぽっかりと開けていて、そこが広場なのかたくさんのドラゴンが並んでいた。



(っっ。うわあ。壮観。ドラゴンが整然と並んでるって迫力…。魔素もすごい。息苦しいのってこれのせい?)



 色とりどりのドラゴン達が広場を囲むように並び、皆が一様に胸に右手を置き尻尾に左手を添えている姿はそれぞれの強い魔素も相まって迫力満点だ。

 ルシェリードさんの背中に乗ってなかったら、とてもじゃないけど近づけない。



 濃厚な魔素に皮膚がピリピリする。

 圧迫感を感じて息が苦しい。



 メルバさんが正式な招待は自分以来だって言ってたのが良くわかった。

 これは無理だわ。よっぽど強い魔素を持ってないとドラゴンの魔素にあてられて倒れるだろう。



 周囲に満ち溢れている魔素に身体が反応して硬くなるのがわかる。

 まずい。深呼吸しないと。吸って~、吐いて~。吸って~、吐いて~。



 私が呼吸を意識して自分を宥めている間に、ルシェリードさんは滑るように着地した。

 その着地がお見事で、振動もほとんどなかったから、ルシェリードさんは背中に誰かを乗せるのに慣れているんだろうと思った。



 到着したので、クルビスさんが私を抱えて飛び降りる。

 悲鳴は耐えた。怖かったけど。ビルの屋上の高さから素で降りるってどんな罰ゲームですか。



 そのままルシェリードさんの前に行く。

 周りに里のドラゴンはすべて集まっているので、ここで名乗ることになっている。



「ハルカ。…大丈夫か?」



「はい…。降ろして下さい。」



 幸いなことに飛び降りた怖さで身体の硬直も溶けたようで、名乗りはスムーズに出来た。

 もう何回もやってるから慣れたようだ。良かった。ドラゴンが最後で。



 それよりもその後がすごかった。

 きっと一生忘れられない光景だろう。



 ルシェリードさんとは名乗りは終えてるから、一言挨拶があると聞いてた。

 だけど、まさかあんな内容だったなんて思いもしなかった。



『異界から来た娘よ。世界に認められし者よ。我らの系譜の伴侶になること嬉しく思う。その身のある限り我ら一族の尽力を約束しよう。』



 ルシェリードさんの一言の後、その場にいたドラゴン全員が一斉に頭を下げた。

 単に長い首を下に降ろす動作をしただけなんだけど、それがとても重い意味を持つものだと感じた。



 それに答えるために、私も膝を付いて正式な礼を取って精一杯の感謝を込めて「ありがとうございます。」と声に出した。

 声が震えそうになったけど、隣で同じく跪いてくれたクルビスさんが手を握ってくれたので何とか言えた。



 ただの小娘には分不相応な程の加護。

 畏れ多い話だ。でも、これは受け取らなくれはいけない。



 ジジさんが心配していたように、ドラゴンの一族は皆クルビスさんを心配している。

 自分たちの長がかつてそうであったように、その孫がまた同じようにたった1つきりの道を歩こうとしていたのを。



 そして、私を得ても、私がいなくなれば同じことになることも。

 だから、守ると言ってくれた。



 クルビスさんと共にあれるように。

 クルビスさんが狂わないように。



 これは願いだ。

 ジジさんの名乗りの時に感じたのと同じ。



 私の命はもう私ひとりのものじゃなくなった。

 わかってたことをさらに実感する。



 実感した途端、クルビスさんから不安そうな魔素が流れ込んでくる。

 いけない。私の畏れ多いと思う気持ちが伝わってしまったようだ。



 繋いだ手をギュっと握って、クルビスさんに微笑んだ。

 大丈夫です。これからずっと一緒ですよ。



 そんな気持ちを込めて魔素を膨らませると、クルビスさんの魔素も呼応して膨らんでいく。

 それが周囲に広がって、私たちの不安も緊張も吹き飛んでいった。

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