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帰ってきたおふたりを皆で立ち上がって出迎える。
きっとこのまま名乗ることになるだろう。
それにしても迫力のあるご夫婦だ。どうにも目が追ってしまう。
私と目が合うと、メラさんがニコリと微笑んでくれた。ぐふっ。
見惚れるほどの美形にクルビスさんによく似た微笑みをされると、ダメージが計り知れない。ごちそうさまです。
メラさんは深緑の森の一族で、見上げるほどの長身の女性だ。
腰まで伸ばした黒と見紛う紺色の髪、切れ長の一重がクールな印象を与えるけど、ルシェリードさん譲りの華やかな雰囲気の迫力のある美形で、男装の麗人としても有名だ。
中央の守備隊の術士部隊の隊長さんで、術式の扱いが別格だと彼女を知るひと達が口をそろえて言う程の実力者でもある。
隣にいるクルビスさんのお父様も長身で、クルビスさんよりも少し高いかもしれない。
メラさんと同じ紺色の体色で、メラさんとは対照的にもの静かな雰囲気なのに目を引く不思議なひとだった。
どちらも見上げる程の長身で、お互いがお互いを引き立ててるから余計に目立っているようだ。
これがクルビスさんのご両親だと思うと、おふたりの迫力に押されてさらに緊張してきた。
「おかえりなさい。」
「おかえり。さて、揃ったなら紹介しよう。先程簡単に挨拶したが、こちらが私の伴侶イシュリナだ。娘のメラは知ってるだろう?その横にいるのがメラの伴侶フィルドだ。」
ルシェリードさんが紹介してくれるとイシュリナさんが一歩前に出た。
年長のものから名乗るのが礼儀だから、この中では私は一番最後だ。
「きちんとご挨拶させて頂きますね。シーリード族、カメレオンの一族の端くれイシュリナです。どうぞよろしくお願いします。」
イシュリナさんが一歩下がるとルシェリードさんがメラさんたちの方を向く。
メラさんは一歩前に出ると上体を少し傾ける。綺麗な紺色の髪がさらりとゆれて目を引く。
「あらためて名乗らせてもらおう。アリエスとイシュリナの娘、深緑の森の一族が一葉メラだ。これからよろしく。ハルカさん。」
そういってウインクしてくれる。
それがまた嫌みでなくて、似合っている。
思わず見とれてしまったけど、メラさんが下がってクルビスさんのお父様が前に出てくると我に返った。
いけない。しっかりしなきゃ。
「初めまして。あなたの話は伴侶からよく聞いています。シーリード族、ドラゴンの一族フィルドです。息子がいつもお世話になっているようで。一緒に休憩を取ってくれるのだって?」
フィルドさんはクルビスさんを見て笑った。
クルビスさんを休ませるためにお菓子を差し入れしつつ一緒にお茶をしているのがばれているみたいだ。
クルビスさんは苦笑している。
そんなふたりは見れば見るほどよく似ている。
笑った感じはメラさんの方が似てると思うけど、全体的に静かな雰囲気とかお顔立ちが良く似てる。
メラさんが「伴侶の方がよく似ていると言われる。」って言ってたけど、これだけ似てればそう言われるだろう。
フィルドさんが一歩下がったので、今度は私の番。
一歩前に出て、皆さんにご挨拶。
「初めまして。異世界から参りましたヒト族の里見遥加と申します。里見が家名で、遥加が名前です。どうぞ遥加と呼んで下さい。クルビスさんと一緒に、お互いの手をとって生きていきたいと思っています。どうぞこれからよろしくお願い致します。」
普段、外では名乗らない異世界のヒト族と名乗る。
クルビスさんが驚いてるみたいだけど、これは最初から決めてたことだ。
これから家族になるひと達には本当のことを知っててほしかった。
ルシェリードさんから聞いているだろうけど、私からもきちんとお話しておきたかった。
そして、私のクルビスさんへの思いも。
異世界に残って一緒にいるって決めたのだと、クルビスさんと一緒にいると決めたのだと、精一杯心をこめて伝える。
ゆっくりと顔を上げると、皆さん穏やかに微笑んでいた。
…受け入れてもらえたかな?どうかそうでありますように。




