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「はははっ。そうでしたか。長老様なら仕方ないですね。」
何だか誰かに似てる気がするなあ。
誰だろう?
(あ。そっか。)
キマイラさんのにっと笑った顔を見て思い出した。
メラさんだ。クルビスさんのお母様。
(きびきびした感じといい、豪快な印象といい、種族は違うけど似てる。)
おふたりとも誰かの上に立つ仕事をしているからかもしれない。
でも、メラさんと印象が重なったことで、私の中にあった彼女に対する警戒は薄まった。
「香料のお仕事をしてらっしゃるとお聞きしました。」
「ええ。スタグノ族は匂いに敏感なので、それぞれ独自の香りを持つのです。それを他の一族の方々にも紹介しています。良い香りは心身を良い状態にしてくれますから。」
あ。それはわかる。
日本では、いい匂いの石鹸やタオルを使うとその日一日いいことがありそうな気がして、石鹸や洗剤には気を使ってた。
「最近は、深緑の森の一族との共同開発で、花から採れる蜜や香油で美容製品も扱っております。」
その一言に先日デルカさんにもらったお祝いを思い出す。
花の香料といっても、地球で流通していた香水のように強い香りではなく、自然の花の香りそのままって感じのほのかな香りで使いやすいものだった。
香りの調整は難しいと聞いたことがあるんだけど、こっちの世界ではそうでもないみたいだ。
「それ、この間、深緑の森の一族の方たちからお祝いに頂きました。香りもちょうど良くて、肌になじんでとても使いやすいです。」
「ありがとうございます。使って下さってるんですね。」
私が感想を言うとキマイラさんは嬉しそうに微笑んだ。
自分のとこの製品が褒められるって嬉しいよね。
自分にも憶えのある感覚に私も嬉しくなる。
日本で働いてた頃、自社製品を使ってる人を見るとしばらくその人を見ていた。
今考えるとただの危ない人だけど、自分が携わった商品が誰かに使われてるのが嬉しくて仕方なかった。
お互いにニコニコとしていると、違和感を感じてドアの方を見る。
(あれ。クルビスさんだ。)
違和感の正体はクルビスさんの魔素がいつの間にか近づいていたからだった。
でも、いつもよりとても弱い。だから違和感を感じたんだけど。
クルビスさんは立場もあってか、あまり自分の魔素を抑え込まない。
周囲に影響を与えない程度で、どこにいてもはっきりクルビスさんの魔素だとわかる。
でも、今はその個性がわからない。
普段から親しくしてないと気づかないんじゃないだろうか。
「どうなさいました?」
「いえ。伴侶が探しに来たみたいです。」
たぶん、いつまでも戻らない私を探しに来たんだろう。
最近、離れていられる時間がどんどん短くなってる気がする。
ふたりっきりになると膝に乗せようとするし。
う。思い出したら恥ずかしくなってきた。




