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「リッカさんこそ今日も素敵ですね。そういうデザインは初めて見ました。その端の模様は刺繍ですか?」
「これですか?実は染めで模様を出して刺繍を組み合わせてみましたの。こう見えてココの布ですのよ。」
ココといえば紅型に似た染物だ。
こっちに来た初日に私が持ってた紅型のシュシュを見て、クルビスさんが教えてくれた。
実物を見るのは初めてだけど、確か全体に色とりどりの染めの模様が入るはずなのに、リッカさんのは端の方にグラデーションになりながら花の模様が描かれているだけだ。
さらに凝っているのは花の模様の上を同じ色の糸で所々刺繍してあるところ。
その部分が光沢があって、いいアクセントになっている。
服のデザインはドレープがたっぷりとってあって、胸元に生地のたるみをもってくるものだから、装飾はあえて端のほうに持ってきたのかもしれない。
その端の方も、前後をきっちり合わせずにひらひらとさせてあり、袖の短いチュニックのようにも見える。布の量の多さで肌が見えないように作ってあるみたいだ。
肩に留め金があるのといい、何だかローマ風にも見えるデザインだなと思った。
「染めと刺繍ですか。刺繍が良いアクセントになって目を引きますね。首飾りのお花と同じ…もしかしてこれも刺繍ですか?」
「まあ。わかっていただけまして?同じ模様を刺繍して、その部分だけ切り取って飾りにしてますの。軽くて華やかでしょう?」
「ええ。とても綺麗です。いいですね。刺繍糸には色がたくさんありますし。どんなデザインでも作れそうです。」
リッカさんの首飾りは花と真珠が連なった可憐なもので、リッカさんの雰囲気にとても合っていた。
刺繍で花の部分を作ったのには驚いたけど、ドレスと揃いで作ったというのにも驚いた。
やっぱりスタグノ族はお金持ちだとつくづく思う。
オシャレにかける情熱が違うってアニスさんが言ってたけど、周りの熱視線も含めて十分納得できる。
どんどん私たちの周りに人垣が出来てるしね。
これがドレスを見るためだと思うと苦笑するしかない。
「何事かと思えば。皆さんでしたか。」
声がしたと思ったら、人垣が左右に割れる。
モーセみたいな登場をしたのはアースさんだった。
「クルビス様、ハルカ様おめでとうございます。キィ兄上もお久しい。成る程。山となっている理由は伴侶様たちでしたか。これは華やかですね。」
「アース様。ありがとうございます。」
「アース。久しいな。そうだろう?どちらも花のようだと思わないか?」
「ええ。まったく。リッカがフェルエの花とすれば、ハルカ様はローゼの花ですね。どちらも目を引く。」
花のようだなんて、そんな、嬉しい。
こういうセリフを嫌味なくサラッと言うあたり、キィさんもアースさんもそつがないなあ。
「ふふ。そうでしょう?ハルカ様のは故郷のものを再現されたそうですわ。」
「ほお。故郷の?」
リッカさんの発言にアースさんが目を輝かせる。
え。男性でもドレスに興味あるの?
疑問に思ったところで、アースさんの服に目がいく。
スカイブルーの光沢のある生地で、花の地模様がある高級そうな服だ。
そういえば、アースさんは生地の取引をされてるんだっけ。
それなら商売柄、服にだって興味あるよね。
「ええ。深緑の森の一族の方に再現して頂きました。レースはミネオさんの作品です。」
「おおっ。あの方のっ。愛されておりますなあ。ハルカ様。」
「え?」
誰に?クルビスさん?
意味がわからなくて、クルビスさんを見ると、苦笑していた。
「いえ。これは私からではなく、ミネオ殿からの祝いの品なのです。気が合ったようでして。」
「それは、また。すごいですね。」
え?え?何のことでしょう?
キィさんもリッカさんも目を真ん丸にしてる。
ちょ。クルビスさん。説明して下さい。




