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レンガのような灼熱の赤、青緑の草の青、黄土色の大地の黄色。
3つの色が一か所に集まるとそれだけで華やかだけど、身を飾っている宝石やきらめく布がさらに華やかさを演出している。
ここは青の一族の長のお宅。
小さな建物ばかりが集まっていると思っていたけど、奥に中くらいの建物があって、そこが丸まるホールになっていた。
今日はスタグノ族へのお披露目の日。
丸い天井からは綺麗な布が幾重にも垂れ下がり、その間から綺麗に装飾されたランプがのぞいている。
会場は少し暗めだけど、それがまた雰囲気を出していて幻想的だ。
「まるで夜みたいですね。」
「そうだな。まだ昼前とは思えないくらいだ。」
クルビスさんと作りこんだ会場の雰囲気に魅入っていると、キィさんとリッカさんが近づいてくるのに気づく。
皆が同じような色味の中で黄緑とピンクの夫婦は酷く目立つ。
好意的な視線からあまり良くない感じの視線まで、あらゆる意味で注目を集めていた。
それとなく観察すると、好意的な視線は若いひと達、良くない視線はお年を召したかたが多いように見える。
キィさんが術士部隊の隊長さんだからか、若いスタグノ族のひと達からは「キィ様だ。」という歓声が上がっているし、リッカさんの方にも若い女性達から衣装に熱い視線が注がれているから、若いひと達からは支持されているようだ。
「おめでとう。うちの隊の連中は都合がつかなくてな。俺が代表して来た。皆、来れなくて残念がってたよ。」
「ありがとう。今はどこも忙しいからな。キィが来てくれただけで嬉しいよ。」
「友の祝い事だ。時間くらい作るって。」
キィさんとクルビスさんが話し始めると周りの注目がさらに強まった。
北の守備隊の隊長同士が話してるからだろうか、それにしては注目が集まり過ぎてる気がする。
聞き耳を立てられてるのがよくわかる。
これはうかつなことは言えないなと肝に銘じておく。
私が笑顔の下で緊張を持て余していると、リッカさんが飲み物の入ったコップを差し出してくれた。
こういうさりげない気遣いがリッカさんの素敵な所だと思う。
「おめでとうございます。素敵なお召し物ですわね。ハルカ様。」
「ありがとうございます。リッカさん。深緑の森の一族の方の作品なんです。ミネオさんってご存知ですか?」
「ええ。存じてますわ。当代一のレース網みの技術者ですわね。」
今日の私の服装はコーラルピンクのドレスに金のレースの帯、さらにミネオさんから送られた金ラメのレースのショールを羽織っている。
評判は聞いていたけど、リッカさんの反応からしても、ミネオさんってすごい職人さんだとつくづく思う。
「そのミネオさん作品なんです。服もお孫さんのトモミさんが作られたもので、とても気に入ってます。」
私がそう言うと、周りがざわつく。
ミネオさんの作品は大人気で、小さい物はともかく、ショールくらいの大きさになると中々手に入らないのだそうだ。
スタグノ族は珍しい物を持つのがステータスになると聞いて、少し暑いけどこのショールは羽織ることにした。
ショールはミネオさんが、ドレスはトモミさんが結婚のお祝いにと急いで作って送ってくれたものだ。
トモミさんは私があー兄ちゃんの血縁者だと聞いてはしゃぎ、ミネオさんにどうして黙ってたのかと詰め寄っていた。ミネオさん困ってたなあ。
ふたりの好意が嬉しくて、ドレスも素敵だったから、これを着るのは一番華やかな場にしようって決めたんだよね。
スタグノ族のパーティーは華やかだって聞いてこの衣装にしたけど、大正解だったみたいだ。
皆の視線が羨望の物に変わる。ちょっと優越感を感じる。
「まあ、それで。素晴らしいレースだと思いましたの。それに、ドレスのデザインも見たことの無いもので、素敵ですわ。ハルカ様によくお似合いです。」
「ありがとうございます。故郷の衣装の形の1つなんですけど、お話ししたら作って頂けました。こちらと違って脇の下は縫ってしまうんですよ。」
今日のドレスは首元はシンプルな鎖骨の見える丸首で袖はもちろんノースリーブ。
ただし、脇から下は縫われていて、胸までは同色のレース生地が重ねられているものだけど、身体のラインに沿った作りになっている。
胸の下には柔らかい同色の花のコサージュが幾つもつけられていて、その下に細い金の帯が飾りのように巻きつけられている。
そこから下は切り替えたように光沢のあるピンクの生地がたっぷりと使われ、歩くたびにふわふわと揺れるようになっていた。
ルシェモモでは全体に色と素材が同じ布を使うのが主流だから、私の衣装はまさに思ってもみなかったものだろう。
皆さん、デザインを良く見ようと移動まで始めている。
視線にも拒否されてる感じはないし、こういうデザインも流行ってくれるといいな。
服のバリエーションは多い方がいいもんね。




