3
しばらくの間、感動と喜びに沸き立っていたけど、今日の目的はそれだけじゃない。
タイミングを見て、メルバさんがデルカさんに目で合図した。
「それでは、次はわしがハルカ様が確認されました新しい生き物についてご説明しましょうかの。」
デルカさんの一声で緩んだ空気が引き締まる。
実はあの綿ボコリのような生き物については、私もクルビスさんも詳しくは聞いてない。
何せ見えるひとと見えないひとがいるから、調査にあたるひとの選抜も難航したらしい。
そのため、メルバさん自ら陣頭指揮を取り、フェラリーデさんを始めとした精鋭チームでぎりぎりまで調査していて、守備隊の隊長達にも報告できていなかった。
最近、フェラリーデさんの姿を見ていないなあと思ってアニスさんに聞いたらそう説明された。
フェラリーデさんには後で甘い物を差し入れしとこう。本当にお疲れさまです。
「小さな綿の塊のような姿をしておりますが、見える者と見えない者がおります。ふわふわと浮いて移動するため、綿が風に飛ばされたようにも見えますな。他には、微弱な魔素を持つ生き物から魔素を吸収して成長するようです。その正体ですが、結論から申しますと、あの生き物はキックリのヒナです。」
「ええっ!?」
「あれが?」
キックリって何でしょう?
皆さん驚いているから、有名な生き物なのかな?
「ハルカ様はまだこちらに来たばかりでしたの。キックリとは雨季の後に現れる美しい羽を持つ虫です。水場で羽を光らせて求愛するのですが、その光景が非常に美しいので有名な虫です。」
デルカさん、説明ありがとうございます。
顔に出てたみたい。恥ずかしい。
話を聞く限り、キックリって蛍みたいな虫だ。
羽が光るなんて、それはそれで綺麗だろうなあ。見てみたい。
こっちは空気も水も綺麗だから、きっとたくさんいるだろう。
でも、蛍みたいな虫の幼虫が綿ボコリかあ。
「あの形から光る虫になるなんて…。」
「わしらも非常に驚きました。最終的にどのような生き物になるのか知るために、特殊な術式を組み上げて、あの綿ボコリの時間の経過を早めてみたのです。すると、キックリになりました。」
「似ても似つきませんわ。」
「姿の変わる虫…ということですね?」
長老さんの説明にラズベリーさんとオルファさんが声を上げる。
ラズベリーさんは驚きに大きな目が零れ落ちそうだ。
対するオルファさんは冷静に事実を受け止めているように見える。
グレゴリーさんは…あれ?顔色が悪い。
「ええ。他に集めた個体も同じようにしましたが、皆、途中で姿が変わり、キックリになりました。」
「ですが、キックリのヒナはどうして見えたり見えなかったりするのでしょう。」
「持っている魔素が非常に少ないのです。そのため、視覚を操るのに長けた者なら見えるようです。見えなかった者も意識的に目の魔素を高めれば見えるようになりました。」
へえ。そんな理由だったんだ。
あれ?でも、私は目の魔素なんて操れないんだけど。
呼吸で魔素を安定させるくらいで、最近、ようやく抑えたり出来るようになった。
それでキックリのヒナを捕まえられたんだけど…。
「捕獲されたハルカ様は視覚が優れていらっしゃるようですな。訓練すれば、立派な術士にもなれますぞ。」
私が内心首を傾げていると、デルカさんがニコニコとこちらに話を振ってきた。
皆さんが「凄い」みたいな顔で見てるんですけど。どう反応しよう。




