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「はああ~。それでこれをくれたの~?」
「見事な黒ですねえ。」
メルバさんとフェラリーデさんがため息をつきながら布を見つめる。
お祝いの品としていただいたのは『黒い布』だった。それも私とクルビスさんの黒色を1反ずつ。
1反もあるとすごく重いんだけど、2つともクルビスさんが軽々運んでくれて助かった。
大きい荷物だったから、帰りはずっと注目を浴びてしまったけど。
とりあえず、私の部屋に運ぼうとしたら、メルバさんに見つかってしまってこうして見せている。
私の茶色がかった黒とクルビスさんの青みがかった黒、どちらも色濃く染められてムラもない。
「これは、リビーだね~。」
「でしょうね。おそらく、ハルカさんと出会ってすぐくらいに発注しているでしょう。黒は染めるのに手間がかかりますから。」
フェラリーデさんの言葉を聞いてギョッとする。
出会ってすぐって、ひと月は前のことですよ?
そんなすぐに私とクルビスさんの分の布を?
リッカさん、どこまで見抜いていたんだろう…。
「リッカには改めて礼を言わないとな。」
「はい。」
ビービービー
クルビスさんと頷きあっていると、転移陣を起動させたことを知らせるアラームが鳴る。
フェラリーデさんが急いで転移陣の部屋に向かった。誰だろう?
「ああ~。デルカだ~。明日一緒に行くんだよ~。」
デルカさんといえば、黄色い髪の長老さんだ。
珍しい。長老さん達はいつも3人一緒なのに。
「ほら、うちの若い子が黄の一族の長を診断したでしょ~?あれが酷かったからさ~。お詫びをね~。
デルカは里に来たグレゴリー君と話してるから、ついて来てもらうことにしたんだ~。」
ああ。グレゴリーさんと面識あるんだ。
それなら、そういうひとについててもらった方がいいよね。
「じゃあ、明日は4つでお邪魔するんですね。」
「うんうん~。そういうこと~。ごめんね~。急で~。じじい達がお詫びに行くって聞かなくてね~。」
「いいえ。面識のある方がいらっしゃるなら、その方がいいですよ。」
「そうなんだよね~。僕だけだと、恐縮されそうだし~。」
負い目があるもんねえ。
メルバさんは気にしてないみたいだけど、向こうはそうはいかないだろうし。
「おお。おそろいですかの?」
デルカさんだ。手一杯の荷物を抱えて部屋に入ってくる。
慌てて荷物を受け取ると、デルカさんはふうと息を吐いた。
「丁度良かった。ハルカちゃん、うちの一族からのお祝いじゃ。」
青いガラスの小瓶にピンクの小瓶、キラキラ光る紫の壺に虹の模様の入った黄色い箱…。
小さい物がたくさんある。どれも装飾が施されていて、とても綺麗だ。
「ありがとうございます。…いろいろあるんですね?」
「使い方はアニスに聞くといいじゃろ。うちの一族が使う美容関係のものじゃ。式までに磨きをかけんとな。」
「特別なお手入れってやつだね~。」
あ。ブライダルエステ。
うわあ。それは嬉しい。
いろいろあるけど、きっと化粧水からパックまでひと揃いあるんだろう。
何だかウキウキしてきた。
「ありがとうございますっ。」
「うむうむ。女性はいつの時代も綺麗でいたいもんじゃからなあ。」
「布も手に入ったし、後は衣装の仕上げだけだね~。」
メルバさんの合いの手でデルカさんがテーブルの上の布に気づく。
「おお。これは見事な黒ですな。どちらから?」
「赤の一族の長様に頂きました。」
「リビーがね。気をきかせてくれたみたい。」
デルカさんは私とメルバさんの答えに納得したように頷いていた。
リッカさんのおかげで衣装も出来そうだし、何とかなりそうだ。




