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「法の改正、ですか。」
クルビスさんが難しそうな顔でつぶやき、アースさんが重々しく頷く。
法っていうのは、当然、技術の保護に関してだろう。
でも、部屋の重苦しい雰囲気からして、簡単ではなさそうだ。
どこの世界でも法の改正は難しいみたい。
「長たちの間ではそれがここ数年の議題です。皆さん、現状のままではいけないと思っていらっしゃる。しかし、技術者である一族の者に反対されては、動くに動けないようです。」
「…そうでしょうね。今の制度で富を築いた者ならなおさら。」
「ええ。ですから、ハルカ様のレシピ公開は、現状への大きな一手になると思っております。」
え。ここで私ですか。
レシピ公開は珍しいとは言われたけど、法の改正にまで影響するものなんだろうか。
「そんなに影響があるのでしょうか?」
「ありますわっ。今まで誰もレシピの公開などしなかったのですもの。思い付きもしなかったはずですわ。『故郷の味を無くしたくない』という理由も反発を買いにくいですし、今のままでは無くなってしまう味もあると気づく方々だっているはずです。」
私の疑問にリッカさんがきっぱりと返答してくれる。
たしかに、私の立場って都合がいいよね。誰かのレシピと被ることがないし、新しい技術が手に入るならって受け入れ体制になってる。
前例が1つ出来れば、そのうちポツリポツリと次の例が出てくるだろうし。
上手くいけば、そのまま技術の保護に対する考え方だって変わるかもしれない。
そういう意味では、私のレシピ公開は影響が大きい。
「そう、ですね。言われてみると、確かに。…ただ、美味しいお菓子を気軽に食べたかっただけなんですけど。」
何だかプレッシャーを感じるなあ。
そんな大きな話になるとは思ってもいなかったんだけど。
「だから良かったのではないですか?ハルカ様のその気持ちが他の方にも伝わったのです。今のままではお菓子を作る場所が限られていて、菓子自体一般的ではありませんでした。手軽に作れるゼリーに人気が集まったのはどこでも食べられるからです。
きっと、ハルカ様のレシピもゼリーのように広まるでしょう。…少々難しいことを言いましたが、皆、新しい菓子に期待しているということです。それはご理解下さい。」
私がプレッシャーを感じているのを察して、アースさんがフォローをしてくれる。
リッカさんも頷いている。そうか、これは助言だ。
注目を集めているのは知っていたけど、それがルシェモモという街にまで影響するなんて考えもしなかった。
でも、クルビスさんの傍にいるなら、それもちゃんと考えなさいって言ってくれているんだ。
「はい。ありがとうございます。」
言ってもらえるのはありがたいことだ。
ありがたく聞いておこう。




