14話 青年は人を集めるべく尽力する
説明&人集め回です。
今回の登場キャラクターの「ノア」はウルオイさんから、「テトラ」「ニャルラ」は言葉さんからです。ありがとうございます!
オリキャラ企画たくさんのご応募ありがとうございました。おかげでいろいろなキャラと出会えて私自身執筆意欲が掻き立てられて良かったと思います。
それでは、本編をどうぞ!
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メイ達とゴブリンの森へ行ってきた何日後のこと。ワースはブラウンマウンテンにいた。
ブラウンマウンテンを歩くワースの表情は決意と期待が入り混じっていた。
ここまでの攻略状況を説明しておこう。
ゴブリンの森に行ってきた次の日に、やっとゴブリンキングと邂逅するためのアイテムが発見された。その名前は『黄金の豚まん』。ブルームンに店を構える肉屋から始まるクエストのクリア報酬だ。
その情報は瞬く間に広がり、ようやくゴブリンキングを討伐するパーティが現れた。そのパーティは念には念を入れた準備の末、勝利を手に入れた。そしてゴブリンの森を越えた先にある街、ユリレシアの存在が確認された。
それと同時にブルームンにあるNPCが経営するお店では揃いに揃って『ユリレシアへのスクロール』が置かれた。8000cかかるものの、このアイテムを使うとユリレシアに転移される。つまりゴブリンの森を突破することなしにユリレシアに行くことが出来るようになった。お金に余裕があるものの戦闘はちょっとというプレーヤーはこぞってこのアイテムを買い求めた。そのため現在『ユリレシアへのスクロール』は品切れ状態に陥っている。本来ならばNPCの店では品切れはありえないのだが、このアイテムに関しては時間あたりの数が決められているようだった。
新しく発見されたユリレシアは、始まりの街に匹敵するぐらいの大きさで、街全体を石塀で覆っている街だった。ユリレシアは貴族であるマクダウェル・セラス・ユリーカが治めているという設定で、ユリレシアには冒険者ギルドがある。冒険者ギルドとは、様々なNPCから寄せられた自由に受けられるクエストを扱っているところである。特定の条件を満たした時に発生するイベントクエストと違い、特定の条件を満たすことなく自分で好きな時にここからクエストを受けることができる。ギルドのクエストにはランクが決められていて、プレーヤーがクエストを多くこなすことにより、ランクが上がり受けられるクエスト数が増えていく。
ユリレシアには他にも鍛治屋や服飾屋といったそれまでの街のものより一歩専門的な店があったり、『職業斡旋所』などがあったりとプレーヤーに便利な施設が揃っていた。
ユリレシアからは東西と北に道が伸びていて、東はトレントの森、西はユリレシア巨大古墳群、北はアラス洞窟へ繋がっている。
ユリレシアが開放されたその後、レッドフォレストは状態異常耐性を上げ、麻痺耐性を身につけたパーティによって無事攻略され、その先の街:レインルークの存在が明らかになった。
ボスであるレッドキングバタフライの攻略方として鍛えた状態異常耐性のメリットないしはアクセサリーがあれば突破は可能であることが直ちに広まり、いち早く状態異常耐性を鍛え麻痺耐性を手に入れたプレイヤー達はこぞってレインルークを訪れた。
レインルークは常に雨が降っている街で、そこにいるNPCも陰気で全体的に寂しい印象を与える街だった。レインルークからは西と東に道があり新たなフィールドへ繋がっていると見られているがそれぞれ障害物に阻まれその先へ向かうことはできなかった。廃人的プレーヤー達は街でNPCに話を聞きクエストが存在するか検証しているところだ。
その後、すぐにブルーベイ洞窟が攻略され、ボスであるブルーキングクラブも突破された。ブルーキングクラブは見た目は見上げるほどの大きな蟹だ。攻撃手段は鋏と脚で、HPが減ると泡攻撃が追加される。
ボスが倒され、その奥に行くと、海に出た。たどり着いたプレーヤーは誰もが美しい景色にため息をついた。
海であるもの、そこは浅瀬で腿ぐらいまでしか水に濡れない程度の深さだった。そこから少し歩いたところに、海に隣接する街:シーパエリアがあった。シーパエリアはまさに南国の町並みだった。シーパエリアは北と西が海で、南に道がある。南へ行くとセイガイ洞窟へ繋がっていた。
一方、ブルームンの南にあるフラワーロードは、状態異常耐性を持ったプレーヤー達によって攻略が進められていた。
また、ブラウンマウンテンに関して、攻略したプレーヤーが出たという話はあったものの、肝心のその先の街に関しては全く情報がなかった。プレーヤーの中には、ブラウンマウンテンの先に何かあると睨んで攻略しようとしているところだった。
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さて、ワースの話に戻ろう。
ゴブリンの森が突破されたと聞いたワースはユリレシアに向かおうとはせず、始まりの街で準備をしたりゴブリンの森でレベル上げをしていた。全てはブラウンマウンテンを突破するため。そしてその先に待っていると自らの勘が伝えている新たな亀に出会うため。
ワースと他3人のプレーヤーと共にブラウンマウンテンに訪れていた。
初め、『チョコレート・カレーライス』か『五色の乙女』に頼んで一緒に攻略しようとしたが、『チョコレート・カレーライス』はアラス洞窟、『五色の乙女』はセイガイ洞窟の攻略に専念しているようで断念した。
そんな中、ワースは一人はレオからの紹介で、後の二人は始まりの街にて、なんとかパーティを集めた。
その日の午前のこと。頼みの二つのパーティから断られたワースはすぐに行動に移した。
パーティメンバーを探すべく、ワースは始まりの街を歩いた。他の街でも良かったが、出来ればどこかを攻略している最中ではないプレーヤーを探したかった。
ワースはミドリを脇に連れ、始まりの街中央にある『連絡掲示板』に訪れた。ここは様々なプレーヤーがパーティメンバーを誘ったり個人的な依頼を頼んだりできる場所だ。
ここならばワースと共にブラウンマウンテンを越えてくれそうなプレーヤーを探したり、自分から募集したりできる。
ワースは膨大な募集が貼ってある『連絡掲示板』をタップし、検索ワードに『ブラウンマウンテン』と打ち込み、検索にかけた。しかし、検索にヒットした該当数は少なく、相手が求めている条件に見合わなかったり、こちらが求めている相手ではなかったりした。ワースが求めているのは、身軽な武器攻撃職だ。壁役となる前衛ではなく、相手の注意を引き付けつつ高い攻撃力による殲滅ができる相手が欲しかった。人数は自分を含めて最低4人。これくらいあればブラウンマウンテンは攻略出来ると踏んでいた。
「はぁ……」
ワースはため息をつき、額に手を当てた。そんなワースを慰めるかのようにミドリはワースの足に頭をこすりつける。
そんなワース達をじっと見つめる人がいた。
「なかなか面白そうな奴だな」
名前はニャルラ。ぱっと見、女にしか見えないほどの超絶美麗な容姿だが、れっきとした男だ。赤と黒のストライプが入ったコートに金属製の胸当て、それに中にはシャツを着ていた。ズボンは柔らかな素材の布製だった。背中には特に飾りのついていない簡素な金属の片手剣が吊り下げてあった。
ニャルラはにやりと笑みを浮かべながらワース達の様子を少し追ってみることに決めた。
ニャルラは『鑑定』メリットのスキル『簡易閲覧』を使い、ワースの名前を知った。
「どうも楽しめそうだ」
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ワースは『連絡掲示板』に募集を貼って、街へ繰り出した。道具屋でポーション類を買い、ふとマリンの鍛治屋に行ってみることにした。
「いらっしゃーい、……ってなんだーワース君か」
「なんだーって酷くないですか、姐さん」
ワースが中に入ると、一人の客と、大剣を整備しているマリンがいた。
「今日は何の用事?」
「いえ、しばらく暇が出来たのでここに来ました。ショーケース見てますね」
「もうちょっとでコレが終わるからねー」
ワースは壁に掛けてある武器を見たり、ショーケースに入っているアクセサリーを見ていた。ミドリは勝手を知ったように部屋の隅で静かにしていた。
ショーケースを見ている時にふと視線を感じ、ワースは後ろを振り向いた。じっと見つめていたのは大剣を整備してもらっている男だった。あまり高いとはいえない身長で体は細く、頭と身体をすっぽり覆う水色のローブを着ており、顔の表情は鼻から上が見えない男だった。
「何か、変なところありますか?」
ワースはそのローブの男に話しかけた。
「えっ、いや、あの亀って君のですか?」
その声は少し高く、男とも女ともどちらともとれるような声だった。いきなり話し掛けられて驚いているようだった。
「うん、そうだよ。あっ、もしかして興味ある?」
「あぁ、なんかいいなーって思うね」
「そうかそうか、ミドリおいで」
ワースの呼び声に、それまで目を瞑っていたミドリはパチリと目を開け、すすっとワースの下へ来た。ミドリの何か期待する目を見て、ワースはミドリの甲羅を撫でた。
「いい子だ、ミドリ」
「きゅー」
「えぇっ、しゃべるの?」
「あぁ、気が付いたらしゃべるようになっていた。だけど、俺達には言葉はいらないよな」
「きゅー」
「凄い……意思疎通できてる。じゃあ、こっちも……召喚」
ぽんと音を立ててローブの男の手元に水玉が現れた。それは空中でふわふわと浮いていた。
「これは『下級召喚術』で出した水の妖精で、名前はぽるん」
「へぇ……、こういうのもいるんだな。かわいいな」
ワースは物珍しそうに見つめていた。
「君は大剣を使っている上に召喚術も使えるのか」
「うん、そうだよ。君は?」
「まぁ、見たまんまのテイマーの魔法使いだ」
「『魔法使い』職はもうなってる?」
「もちろん。ソロの時は魔法で敵を殲滅しつつ、ミドリに攻撃を防いでもらう戦法だ」
「俺は……うーん、今は大剣で敵に突っ込みながらバックアップをぽるんに任せている。だけど、まだ模索中」
「そうかそうか……」
ワースとローブの男はしばし黙りこくった。気楽な話のネタに尽きたというのと、話し掛けるか躊躇しているのと両方の理由だった。
マリンの整備している音が辺りに響き渡り、ワースは口を開いた。
「この後、何か用事あったりする?」
「ん、ないな。いつも通りソロでゴブリンの森に潜るだけだけど」
「もし良かったら、俺と一緒にブラウンマウンテンに行ってくれないか?」
「……」
ローブの男は俯き黙りこくってしまった。
「俺は、ブラウンマウンテンを越えた先に行ってみたいんだよ。あの先にはきっと何かあるはずなんだ」
「一つ、いいか?」
「何?」
「なぜ、俺を選んだ?怪しげな格好して召喚術を使うのにあえて大剣を使う変な俺なんかに……」
「なぜって言われてもな、なんか気に入ったからじゃダメかな」
「……わかった。いいぜ、君とならうまくやれそうだ。
俺の名前はノア。よろしくな」
「あぁ、俺の名前はワースだ。ノア、一緒に頑張ろう」
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ワースとノアは、マリンが今後の予定について話しながら大剣の整備が終わるのを待って、店を出た。
ワースは杖を片手に、ノアは身の丈ほどの大剣を背中に差していた。
ふと、ワースは新着メールのアイコンが視界隅に表示されたのが見え、自分宛にメールが来たのがわかった。
「ちょっと、メールが……」
「わかった」
ワースは店の前で立ち止まり、ステータス画面からメーラーを起動し新着メールを確認した。
From:レオナルド
Tittle:早急に返信頼む
Sub:さっきの話だけど、俺は行けない代わりに知り合いを紹介したいんだが。相手はおそらくお前と相性は悪くないはずだ。短剣職で高機動型だからな。もし良かったら返信してくれ。相手の都合もあるから出来るだけ早く返信してくれ。
「なるほど……」
ワースはメールを見るなり、返信フォームを開く。
To:レオナルド
Tittle:Re.
Sub:ありがたい。一人でも多くいた方が助かる。今から30分後に始まりの街北門前の銅像に来てもらうってことを伝えてもらっていいか?
「ふぅ……」
「急ぎのメールだったの?」
ワースがメールを見るなりいきなり文章を打ち始めた様子を見ていたノアは少し不安げにワースを見た。
「まぁな。パーティメンバーについてだ……っと返信速いな」
From:レオナルド
Tittle:Re.Re.
Sub:わかった。伝えたから安心しろ。すぐ向かうってさ。
「ノア、始まりの街北門前に向かおう」
「新しいパーティメンバー?」
「あぁ、友達の知り合いだとさ」
ワースとノアは始まりの街北門を目指して歩き始めた。
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30分後。
ワース達は、レオナルドの知り合いの助っ人と対面した。
線が細く小柄な体格、可愛いというよりは綺麗という顔立ちの少女だった。クラスでナンバーワンではないものの上位にはいそうな美形だった。エディタで弄ったようには見えず、ままの綺麗さが伺えた。
ワースの前に立つ姿からは、一本の小太刀を思わせるような雰囲気を醸し出していた。服装は簡単な布で要所要所を被っているだけで、若干肌色成分が多かった。ぱっと見、女盗賊のように見えた。
「……あなたがワース?」
澄み切ったような触れるとすぱっと切られそうな声で、その少女は言った。
「あぁ、俺がワースだ。君は?」
「……私の名前は、テトラ。よろしく。そこの小さな少年は?」
「小さい言うな! 俺の名前はノアだ。これでも二十歳なんだぞ」
ノアは小さい背を誇示するように胸を張った。
「……ワース。あなたの目的は?」
「あれっ、聞いていなかったか?」
「……まだ聞いてない」
「わかった。俺達の目的はブラウンマウンテンの突破。ボスのブラウンキングモールを撃破することになるだろう。俺達はモグラを倒してその先にある街まで辿り着く。これが今回の目的だ」
「・・・OK。良かった」
「へっ・・?」
テトラの少し安心したような言葉にワースは思わず聞き返した。
「ん、レオにあなたが落ち込んでるかもしれないというから、少し心配してた。だけど、その決意の言葉に安心した」
「そっか、心配してくれてありがとな。そうだ、なんで今回手伝ってくれるか理由を聞いてもいいか?」
「それは、レオに頼まれたからっ。 ……それと、あなたに興味があったから」
テトラの後半のセリフは小さく呟かれた。
「それはありがとな」
「どうも」
「なぁ、ワース。これで3人な訳だがどうする?このままで行くか、もう少しメンバーを集めるか」
ノアがワースに問いかける。ノアの肩越しにぽるんがくるくる回っていた。
「あぁ……本当はあと一人ぐらい欲しいところだが、そんなに時間があるわけじゃないからな。どうしようか……」
ワースがうーんと悩んでいるところへ一人の男が声を掛けてきた。
「やぁ、お困りかい?」
その男の出現にテトラは腰に手を当て短剣を引き抜き、ノアは警戒の目を向けた。
「やぁやぁ、そんなに警戒しなくたっていいだろ?俺は怪しくないよ」
そうやって男は両手に何も持ってないことを示すように振った。
「俺の名前はニャルラ。こう見えても男だ。話は聞いていたよ。君達はパーティメンバーが足りなくて困っているのだろう?」
ニャルラは少しにやつかせた表情で言った。
「あぁ、そうだ」
「なら、俺が入るよ。それでどうだい?問題解決だろ?」
「なぜ?目的は?」
テトラが静かに殺気を放ち警戒しながら尋ねた。
「うーん、面白そうだから? かな」
ニャルラは臆することはなく飄々としたまま答えた。
「……それはありがたいのだが、実力は?」
ワースは無表情のまま問いかける。
「まぁ、それは実際に見てもらわないと。だけど、ある程度は保証するよ、君達の役には立つよ」
「それじゃあ、ブラウンマウンテンに早速行って実力を見ながら進むか」
ワースは皆の顔を見ながら言った。
「いいぜ」
「……もちろん」
「楽しみだねー」
かくして、ワースと他の3人はブラウンマウンテンに向かうのだった。




