第七章
山の中だ。
壁のような石の崖の、その間に這うように生えている植物。
上は靄に包まれているが、平地から見ればあれは雲なのだという。
片側は崖だ。
冥がいるのは細い道で、足下は滑る苔が密集して生えている。道の岩は脆く、今もからからと石が崩れて落ちていく。視界の下を鳥が飛び交って、大木の頭が小さく見える。時折風が吹く。見えない掌が、空から執拗に地面を押してくるようだ。冥はそのたびに、崖に這った蔓を摑んで耐えた。
布で胸にくくりつけた赤ん坊が、また小便を漏らしたようだが、処置は出来ない。おむつの換えもない。場所もない。乳もない。冥はまだこの時────冬宮に入ったあの日だ。いくつだったろう?
見たとこ三歳ぐらいかねぇと誰かが言った。
誰かに手を引かれて歩いていて、疲れて眠って、目が覚めたら知らないところにいたのだ。
そうしたら、あのひとが、花びらを何枚もくっつけたような服を着たあのひとが、色のついた朝露みたいな石を沢山つけた、まるで朝の星のようなあのひとが言ったのだ。
「もう誰もしたくないことをお前がしてくれるなら、ここにいていいわ。ごはんと、寝る場所と着物をあげるわ」
疲れ切った声だった。全てにうんざりした声だった。美しい服を着た美しい人なのに、同時にぼろ布のようだった。
ごはん。
何か食べたかった。
かたくないもの。にがくないもの。できれば、あまくてやわらかいもの。
そのひとは力のない足取りでいなくなり、その場で待っていたら老婆がやってきた。
「これを山に捨ててきなさい」
と老婆が言って布にくるまれた赤ん坊を渡した。火がついたように泣いていた。
そうかこれを山に捨ててくればごはんがたべられるんだと思った。
赤ん坊はあたたかくてふにゃふにゃしていて、尻が小便と大便で汚れていたけれど、赤ん坊独特のいい匂いがした。すごくうるさかった。冥華は抱き締めて、くんくんと飽きずに匂いを嗅ぎ、山に向かって歩き出した。
重たかったが、あたたかくて、やわらかくて、あまい匂いがした。大便と小便でくさいはずなのに、あまい匂いがした。腕と足が疲れると赤ん坊の匂いを嗅いだ。赤ん坊は次第に静かになって力が抜けていった。
あの時の山はここまで来なくて良かった。
こんな、奥まで。
こんな、高いところまで。
いや、そもそもこんな過酷な場所ではなかった。
だってあのあと、このあとは。
そうかこれは夢だと冥華は気がついた。
気がついてしまえば、かんたんだ。
これは私の夢。
ならば。
抱いていた赤ん坊は、するりと腕の中から伸びて、黒猫になって空中をかるがると走っていった。冥華は、黒潭、と呟く。黒潭は振り向かない。あれは黒潭ではない。これは冥華の夢だ。場所はここでいいが、風は邪魔だと思ったら風は止まる。ついでに暖かい方がいいから季節は春にして花を咲かせた。天気もいい方がいい。雲はかき消え、風景ははるか彼方まで見える。いざというとき飛べるように、自分の背中に大きな白い羽根を生やす。白い小鳥を従える。
「老師!」
冥華が呼ぶと、白い雲が降りてきて、その上には翡翠色の袍を着た子どもが乗っていた。
「冥」
「回りくどいですよ。用事があるなら、もっと」
「お前が寝てるついでじゃ」
話し方は老人だが声が子供だ。
「で、なんです?」
「宮学は今、お前の宿におるよ」
「あっすれ違ったかな」
「最短の道を宮学は敷いとるから、それにのればいいだけじゃ」
「わかってますけど回りくどいな。お互い宮廷の中にいるのに」
「その宮廷が魔窟も同然。叩いて開いた扉が間違っていれば一生どこにも行けぬのだからしょうがあんめぇ」
「わかってますよ」
「おまえのとこに鬼いるだろ。アレの男が教えてくれた。道具にして悪いがまあ仕方ない。あいつちょっと神通力があったみたいだな。生きてりゃ道士にもなれただろうにな。じゃあ言いたいのはそんだけだから。あとお前ほんと酒弱いな。道士っぽくない」
「うるさいなぁ! 起きますよ!」
新しい墨の匂いがする。いい紙の匂いも。甘い、鋭い匂い。
食べ物ではない。けれどとても贅沢な匂いだ。この匂いがするところには文化と金と権力がある。だから、食べ物がある。
冥華は目を開ける。
暖かい床の上だ。
身体の上に布がかかっている。
身じろぎして起きたら声をかけられた。
「手伝いなさい」
「え」
礼貴は机に座り、横の机に積まれた紙の束を開いて、新しい紙に筆で写し取っていた。逆側の机には、書き終わった紙が、一枚一枚布に挟まれて置かれていた。
「あなた仮にも萌宮に上がっているなら、書の嗜みもあるのでしょう。そこに道具箱があるから、一枚書き写して見せて。使えるようなら仕事を分けるわ」
「はい」
冥華は起きて、礼貴に言われたようにした。時々しゃっくりが出た。まだ少しふわふわとしている。
一枚を書き写し終わるころ、昼の膳が届けられた。小麦を錬ってふかした花捲と、羊の肉の煮物、それに百合のつぼみの湯通しと、大豆の胡麻和えだ。冥華は茶を淹れて礼貴に出した。
どうぞ一緒に、と言われて、食卓に着く。落ち着いてから、礼貴は言う。
礼貴の箸の使い方はとても優美だ。
「あなたここへは何しに来たの」
礼貴の問いに、冥華は言う。
「河は流れるべきであり、大地は新たな種を育てるべきです」
礼貴は、百合のつぼみに象牙の箸を伸ばして言う。
「私にできることがあれば、言いなさい」
「私、これから街に行かなくてはならないのです」
「私にあなたがここにいるように振る舞えと言うのね」
礼貴は、少し沈黙を落としてから言った。
「……それは、大地と種のこと?」
「はい」
「ならば、行ってらっしゃい」
冥華は食事を済ませ、礼貴の庵から下がった。礼貴の決断に心から感謝していた。
冥華の庵で縫い物をしていた薫玲が、冥華の戻りに慌ただしく立ちあがって迎えた。
「冥華さま」
薫玲の姿に、冥華が驚いて言う。
「薫玲、自由にしてていいって言ったのに」
「やることもあるので」
「いいのに」
「でも、この薫玲がいると、冥華様のお力になれるのですよ?」
にやりと笑って言われた言葉に、冥華は複雑に返す。
「……助かるわ」
「そうです。これからどうなさるんですか?」
「街へ行きます。着替えるわ」
冥華は鏡のある部屋に入る。薫玲は帯をほどき、冥華は息を合わせて脱皮する蟬のように服を脱いだ。二人で無造作に櫛や簪を引き抜いて、卓の上の螺鈿の箱に入れる。
すつかり髪のほどけた頭をがしがしと搔いて、下着姿で冥華はのびをした。
「んーあ!」
薫玲は冥華が脱いだものをとりあえず脇に押しやり、必要になるであろう、昨日と同じ平民の服を出す。広げながら文句を言う。
「いくらなんでももう少し娘らしい服をお求めなさいませ」
「どうして?」
「むさ苦しすぎて、目立ちます」
「なるほど」
確かにそれはよくない冥華は格好いいと思って着ていたのだが。
「今夜は迎えに来なくていいからね」
薫玲は、冥華が脱いだ服を片付けながらあきらめて言った。
「お気をつけあそばしてくださいよ。怪我やなんかには。揉め事などにももちろん」
「もちろん」
「お渡りの時間には戻られますよう」
「わかってる。猫の世話だけお願い」
「わかりました」
猫は定位置と決めたらしい、窓際の椅子の上で眠っていた。
「黒潭っていうのよ」
「猫にお名前をつけるだなんてお珍しい」
冥華はふふ、と笑った。
市街に出て、蛾楼門に向かう。行き交うロバの鈴の音。ついて歩く子供たちの声。早足で歩いていたら明導が駆け寄ってきた。
「冥」
「明導」
「昨日の兄さんたちが、蛾楼門に来てるよ」
よし、と冥華は思う。
今日、蛾楼門で会うように、宮学が仕組んだはずだ。
自分がこんな時間に外に取られたことは、仕組みから外れているはずなのだが。
「いいのかなあれ。みんなで出てきちゃってさ」
歩きながら明導が呟く。冥華も足を止めずに明導を見る。
「なに、ばれてるの?」
明導は短く息を吐いた。
「みんな知ってるよ。紛れてるつもりだろうけど護衛があんなぞろぞろついて歩いてちゃさ。おかげで、あの三人の行くところだけは、治安がすごくいい。けど、そのぶん俺たちみたいなのは、邪魔だって言われていられなくなるから」
「迷惑?」
「ちょっとね」
「どうしたらいい?」
「今のままでいい」
明導は即答して、冥華は驚いた。
「どうして?」
「冬の夜はきついけど、なんとかなってるから今のままでいい。俺は家がないし親もないけど、ここはなんとか食えるからそれでいいよ」
「そうなの?」
「そうだよ」
そうかな、と冥華はもう一度呟いて会話を終わらせた。
「あっねぇ明導、私、薫玲に言われたんだけどさ」
「なに」
「もうちょっと娘っぽい服着ろって」
明導は、冥華を一度上から下まで見て頷く。
「そうだね」
「何よ、いいじゃないこれ! 毘族の服よ! 見てここの刺繡なんか洒落てるわ!」
「目立ちたくないなら、もっと目立たない服着なよ」
「う」
「年頃と、季節と、その土地に合ったヤツ」
「わかった」
「じぁおれ今日はこれで」
明導は小路を入ってどこかに行き、冥華は蛾楼門に向かった。
昼の街は、明るい日に照らされてて、夜とは別の顔をみせている。
近隣から農作物や、手工芸の品を持って来たものたちや鍛冶屋や木地屋たちが、道の端、筵の上に道具や売り物を広げて、商売をしている。
それを求める客たちの往来も多く、役所に手続きをしにいく旅人たちも行き交っている。
親と家のない子供たちも、何かその日の仕事にありついて働いている。
大路も夜ほどの混雑はなく、しらけて穏やかな空気だ。雲が動いて太陽を隠せば寒い。
店の前に打ったらしい水の残りが、道のくぼみに溜まって、輝いている。
冥華は面白くそれらを見て歩く。
冬宮は、厳しい寒さの、けれど美しいところにあった。
冬宮は、帝の妃が下げられる場所だ。
帝と、自分の娘を結びつけたいものたちは、常におり、帝も政治上受けなくてはならない。 上がってくる妃が、一日の後、すぐに冬宮に下げられるとわかっていても。
何と惨めでかわいそうな、と民たちが言うのを聞くことがあるが、冥華の知る冬宮はそうではなかった。
冬宮の妃たちはそれぞれ教養に満ちていたので、冥に歴史を語って聴かせてくれるものも複数いた。それぞれが違うことを話したが、それは山をどこから見るかで形が違うようなものだった。同じものでも見方が変われば語ることも違うのだ。
何も知らない娘に、何人もの妃が一度に歴史を語る場は、一歩まちがえれば争いの種にもなりそうだったが、瑙正一品がそこにはいた。瑙正一品は誰にも賛同せず、ただ、討論の流れを作った。公正だったし、そのための配慮もあった。
学問は最高の退屈しのぎだと彼女は言い、歴史書と帳面を手にし妃たちの討論を聞いていた。
冬宮は、人々が言うよりも、冥にとっては楽しく、教養と、自らの、それぞれの技を高めるよろこびに充ちた場所で、宮廷から離れているとはいえ政に関わる妃たちも多かったし、周りの街にも妃たちは学校を開いていたりもした。冥はいろんなことを学んだ。
けれども、知識は知識であり、体験は体験だ。
冥華にとってここは初めての場所で、見る物すべてが新しかった。大きな街。交通の要所。 絹を抱えて商人が集まる場所。
知らない場所、知らない人々。
人の営み、様々な文化。歌も踊りも話す言葉も。
人々が担い営む、それぞれのすべて。
そして、自分の目的を必ず果たすときが、今、来たのだという高揚。
冥華は兆月の部屋の青い扉を叩いた。
「店主、店主」
中で動く気配があり、少ししてから、髪は下ろしたまま、男物の袍を肩に掛けただけの姿の、兆月が出てきた。
「日の高いうちからあたしを起こすとはいい度胸だね道士小姐」
「宮学、あるいは大宮学という者がいるはずです。部屋を教えてください」
敷布を山ほど抱えて後ろを通りかかった男が言う。
「もう出てったよ」
「え」
「あいつ髪も短いし、年もわかんねぇし、変な男だねぇ」
兆月が口を曲げて言う。
「彭、口が軽い男は出てってもらうよ」
「道士小姐は身内だろ。いいじゃねぇか。昨夜の立ち回りはおもしろかったぜ」
彭は笑いながら冥華の後ろを抜けて去っていく。
「ありがとう」
冥華は言った。兆月が言う。
「あんた、宮学になんか用なの」
「はい、すごく大事な用事があるんです。でも、もう出たのか……」
「そりゃ残念だったね。それとあんたに客が来てるよ」
「寝てたって言ってたのになんでわかるんです」
「ここで起きることは、全部知ってるだけのことさ」
「あの三兄弟でしょう」
「あれとは面倒は起こすんじゃないよ。いいね」
言うと、兆月は扉を閉めた。
金色の取っ手を摑んで扉を開けると、寝台の布団の上に、皇太子が三人並んで座っていた。
冥華は一瞬見とれて、噴き出した。
「雀みたい」
真ん中に座っていた第一太子、哄竜が笑う。
「鵬国の子であるからにはわれらは小鳥である。当然」
右に座っているのは第二太子、唱亀だ。今日の耳飾りは石榴石と金。
「たとえるにしたってもっと優美な鳥はないのかい」
左に座っているのが第三太子、鳴鳳。
「もっと強くて格好いいのがいいな!」
座っている姿勢がそれぞれ違う。優美で落ちついているのが、哄竜、足を組んでいるのが唱亀、膝が開いているのが鳴鳳だ。冥華は机の上に、懐から包みを出して広げながら言う。
「勝手に人の部屋に入って、みっつ並んで座ってりゃ、雀でしょ」
哄竜が笑う。
「おや、みっつとはひどい」
唱亀が顎を上げてて言う。
「そうだよ皇太子三人捕まえてさァ」
鳴鳳が不満そうに呟く。
「もっと強くて格好いい鳥はないわけ?」
冥華は支度の手を止めずに言う。
「護衛のかたどうなさったの」
三人は黙って微笑んでいる。冥華は口元を笑みの形に作って言う。
「上とか下とか横とかにいるわけね。まあいいです、お互い化粧もしないで、変な言い回しもなくお話できるのはうれしいわ。皆さんお化粧しないほうがすてき」
冥華は机の上に、丁寧に塩と米と、茶の葉を並べながら言う。
「あれはあれで、意味はあるのだよ」
哄竜が冥華の手元を珍しそうに覗き込んで言い、唱亀が微笑む。
「僕は化粧した顔もとびきり美しいぞ。なんだ見たこともないくせに」
鳴鳳が冥華に訊く。
「それ、何やってんだ」
「道士の技です。お気になさらないで。で、なんの用です。私、人を探すので忙しいんで」
唱亀が軽く手を広げて言う。
「人捜しなんて! 僕たちの力をもってすれば、たちどころにそれは叶うよ」
冥華は机の上の米と茶葉と塩を見て、部屋の隅に向かって言う。
桃色の薄い影しか見えない。女が一体だ。
「男はどうしたの」
鬼はゆらゆらと揺れるばかりだ。
その陰は三人の目にも見え、伯久は身を乗り出し、仲玄は顔をしかめ、叔翊は硬直した。
冥華は懐から細い剣を出すと、抜いて自分の指先を軽く切り、茶の葉の上に血を垂らした。
「男はどうした」
女は輪郭がはっきりとし、唇が動いた。
けされた
「誰に」
おうきゅうのどうしに
「ありがとう。あなたも消える?」
少しあって、女の鬼は頷いた。
「ひとりではさびしいものね。わかるよ。私に使われてくれてありがとう。さよなら」
言うと冥華は机の上の茶葉と米と塩を一気に手で払って床に落とした。
鬼は消えた。
冥華は三人に向かって言う。
「王宮の道士に会わなくてはなりません。男の鬼が、それに消されたと言いますから」
哄竜は冥華を見て言う。
「おや。道士小姐よ。おまえ、右目の色が昨日より青くなってはいないか?」
冥華はふ、と笑う。
「そうでしょうか」
唱亀が言う。
「生まれつきなのかい、それ。珍しくて美しい。見え方違うのか?」
「生まれつきではありません。道術の一つです。見え方は少し違いますね。明るいところに出ると、青い方だけ眩しい」
突然窓の外が暗くなった。
唱亀が懐に入れた短刀を掴んで立ちあがる。
窓の外は黒い板を立てたような闇だった。天候などの故ではない。道術だ。異様である。
冥華は全身の毛を逆立てて扉に向かい、開けようとする。開かない。取っ手を掴んでガタガタ鳴らしたがなんともならない。
鳴鳳が横から言う。
「俺がやる。冥華は灯りを」
鳴鳳は短剣を懐から出し、柄の部分で思い切り取っ手を打ち壊して外した。その上で蹴っても扉は動かない。鳴鳳は鼻から息を吹き出して言う。
「駄目だな」
「道士小姐。これは、なにが起こっているんだい」
唱亀の問いに冥華は答える。
「王宮の道士の仕業です。悪意ではない。けれど、追い込まれている。手数の少ない中でなんとかやっているという様子です。だから、必ず安全でもない」
冥華は手探りで蠟燭に火を点ける。部屋に明かりが灯る。
窓の外は黒い板を立てたような闇だったが、遠く鐘の音がする。いくつもの足音が遠く響く。
哄竜が悠然と冥華に問う。
「私たちはどうしたらいいかね、道士小姐」
冥華は紙挟みを取り出して、硯に水を入れ、残っていた墨で紙にざらざらと文字と図を書いて哄竜に渡した。
「これ持っててください。お二方は哄竜さまの袖でも握ってらして」
鳴鳳が言う。
「冥華はどうするんだ」
「ああ、私は──」
冥華は、鐘の音と足音の袍に視線をやる。足音はふしぎなもので、大勢が両足で跳んで着地し、やってくるような音だ。鐘の音と、足音は、徐々に早く、大きく近づいてくる。
「いいの」
遠く人影が見えた。
文人の死に装束の、黒地に鷺の刺繡のある黒い長衣に、つばがぐるりと立った帽子、沓底に生前の住所と氏と名と生まれた日時と死んだ日時が刺繡された沓という出で立ちで、顔の前には黄色い札が貼ってある。
足をそろえて跳躍して近づいてくるのだが、その跳躍の幅が橋一つほども大きい。
常ではない距離感と法則で動く者たちがやってくる。
鐘の音はいよいよ早く、カンカンカンカンと打ち鳴らされ、文人の死に装束のものたちは、どっと部屋の中に満ちて天井まで溢れ、冥華を飲み込んだ。
「冥華!」
誰かが名を呼んだ。手を摑まれた。飲み込まれた冥華の視界が暗くなった。




