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26「どうやらゲームの世界に入るようだ」

週末に更新する予定がまさか月末に更新することになるとは誰が予想できようか。

……いや、本当に更新遅れてすいませんでした。


合宿の話を期待した方もいるかもですが、まだです。

しばらくは私の書きたかった話でも(えっ


『テストプレイを頼めんか』


 ――夏休み。

 部活動で早朝練習がある生徒でもまだ寝ているだろう時刻。

 まだ意識が覚醒しきらない状態で、主人の安眠を妨害せんと鳴り響く携帯を手に取った。 

 その第一声がこれだ。

 目覚め一番に聴かされた声が三沢とか何の罰ゲームだ。


 お前合宿の企画はどうしたとか、時間考えろとか突っ込みたい気持ちはあったが、三沢の当然の行動には慣れている。

 けれど俺は起きた直前に突っ込みを入れられるほど芸人魂が鍛えられていない。


「……テストプレイってあれか?発売前のゲームをチェックする……」

『うむ、その認識で間違いない。詳しくは一ノ瀬が来てから話そう。集合場所は今から地図を送る』

「あっ、ちょ、まっ」


 一方的に電話してきたと思ったら一方的に電話を切られた。

 一言たりとも了承していないのだが……。


 寝なおすか、そう思った瞬間に今度は違う着信音が鳴り響いた。

 確認すると言ってた通りに地図の画像が添付されていた。

 本文には「二度寝はするなよ。なあに、後悔はさせんさ」と。

 ……その詐欺師染みた常套句はもう聞き飽きたのだが、テストプレイには多少興味はある。

 俺だって人並みにゲームは好きだし、発売前のゲームを誰よりも早く体験できるというのは魅力的な話なのかもしれない。

 ただ三沢が持ちかけた話である以上、どうしても不安が付きまとうのだが……。


「まあ、話だけは聞いてやるか」


 毎回三沢に巻き込まれて痛い目見る。

 これは三沢が的確に俺の興味のツボを突いてくるせいなのだが、それをわかっていながら話に乗ってしまう俺の自業自得だったりするのかもな。




◆◆◆




「来たか」


 指定された場所に電車を乗り継いでようやく到着。

 到着した場所は見上げてしまうほど高いビル。

 中に入った瞬間に受付のお姉さんに「お待ちしておりました」とペコリと頭を下げられてから「こちらです」と奥に進んでいく。

 戸惑う俺を置いて淡々とした様子で歩いていく受付のお姉さん。

 慌てて後を追い、馬鹿みたいに長い廊下を進んだり、耳がキーンとなるようなエレベーターに乗らされたりとトムなソーヤもビックリな冒険を繰り広げられてようやく三沢の下に辿り着いた。


「お前……今更ながら本当に何者だよ……」

「愚問だな。俺は一ノ瀬の友。それ以上でもそれ以下でもない」

「なんだろう……凄くいい言葉なのに全く胸に響かない」

「照れるなよ」


 ……もう何も言うまい。

 さっさと本題に入るとしよう。


「で、テストプレイって?」

「一ノ瀬はVRMMOというのを知っているか?」


 質問に質問で返すなと言いたいが、まあいい。

 不本意だが周りから馬鹿と呼ばれる俺でも流石にその言葉は知っている。

 

 VRMMO。

 正式にはバーチャルリアリティなんとかかんとかオンライン。

 日本語だと仮想現実なんとかかんとかオンライン。

 Web小説やアニメ・ゲームの世界などではよく見かける単語だ。


「……流石は一ノ瀬。その馬鹿さは相変わらず期待を裏切らないな」

「ほっとけ!」

「正式にはVirtual Reality Massively Multiplayer Online。日本語なら仮想現実大規模多人数オンラインだ」


 そう、そんな感じだった。

 いや、知ってたよ?

 でも時々分かっていても言葉が出ないときあるじゃん。


「実は我が社でVRMMOの製作の話があってな」

「製薬会社のくせに!?」

「こちらはあくまでサポートとしての参加だがな。主軸となるのは二階堂グループだ」


 ……現実離れした話のくせに知っている奴の名前ばっか出てくんだけど。

 君ら学校だけじゃなく社会的にも繋がりがあったのか。

 世の中狭すぎるでしょマジで……。


「以前からそれの実用化の話が出ていてな。まだ実用化にはほど遠い上、オンライン環境も整えられていないが、一人用としてなら充分な性能の試作機が出来上がったのだ」

「マジで!?VRMMOって実現はまだまだ不可能だって聞いたのにどうやって……」

「最先端技術のおかげだ!」

「そっか、最先端技術か」


 最先端技術のおかげなら納得だ。

 きっと俺では想像もつかない技術で不可能を可能にしたのだろう。

 すげーぜ、最先端技術!


「その試作機のテストプレイを我が社が頼まれてな。たまたま父に一ノ瀬の話をしたらぜひ一ノ瀬にテストプレイをとのことだ」

「はっ?何で俺に?」

「なに、安い賃金でも文句言わず、おだてれば非常に扱いやすい。そして何よりいい感じに厨二な一ノ瀬はまさにVRMMOのテストプレイに最適…………おほんっ。一ノ瀬なら企業秘密も守れるだろうと信頼したまでだ!」

「漏れてる!?もう最初に本音がダダ漏れだから!?」

「嘘を付けない性格は辛いな」

「よし、表に出ろ」


 むしろ嘘で身体が構成されているような奴が何言ってんだ。

 

 いつものように俺を思う存分馬鹿にした三沢は「こっちだ」と一言だけ告げ、また別の場所に案内する。

 案内された場所に付くと、モニターやらパソコンやら訳が分からない機械ばかり。

 その中でも一番目を引くのはやはり部屋の中央にある機械。

 その機械は幾本ものケーブルが接続されているベッドのような何か。  

 ……いや、まあベッドで間違いないんだろうけどさ。


「随分仰々しいな……」

「時間が惜しい。説明するぞ」


 そういうと三沢は俺に向かって何かを投げてきた。 

 これは……ヘッドギア?


「それを付けてベッドに寝ろ」


 あっ、やっぱりベッドでよかったのかソレ。

 どうでもいい疑問が解決されたところで俺は言われた通りにヘッドギアを付けベッドに横たわる。

 そこで今更ながらこれはただのゲーム体験ではなくテストプレイということを思い出した。


「つ、つーか、テストプレイって言われても何していいか分からないぞ俺?」

「難しい事は何も要求せんさ。一ノ瀬にしてほしい事は動作やNPCとの会話。後はスキルの確認だけだ」

「それだけなら……って、スキル?そういやコレって舞台は何なんだ。ファンタジー?」

「ああ。他にもいくつかの候補があったらしいが両社の社長の強い要望でファンタジーに決定したらしい」

「ふーん……」


 まあ、俺としては近代的な世界よりは剣や魔法のあるファンタジーの世界の方が好みだし、ありがたいけど。


 「スキルの確認のため既にプレイ開始時点で全スキルを覚えた状態に設定し、熟練度も全てMAX。ついでにストーリーも確認したいから序盤のストーリーまで一ノ瀬には体験してもらう」


 つまりはチートスタートってことね。

 欲を言えば一からスタートしたいんだが、我が儘は言えまい。


「ゲーム中も俺は天の声として一ノ瀬をサポートする。なに、気楽に楽しめばいいさ」

「はいよ」



 そう言ってから三沢は近くにあるパソコンを操作し始めた。

 慣れた様子でブラインドタッチをする三沢はなんというか様になっている。


「では叫べ!バー〇トリンクと!」

「それアカンや」


 つ、と言おうとした瞬間、俺の意識は波に揺られるかのように遠のいていった――




◆◆◆




「……んっ、んん」


 俺が目を開けた瞬間、目に入った景色はあまりにも日常とはかけ離れていたものであった。

  

 ――何十人もの人間が収まってしまいそうなほどの広間。

 広間を二つに分かつように敷かれた深紅の絨毯。

 その絨毯には決して足を踏み入れず、ただ剣を構えているだけの大勢の騎士達が一定間隔で配置されている。

 敷かれた絨毯の先に目を向ける。

 そこには玉座に座り、王冠を被った白髪白髭のオッサンがいた。


『オッサンはオッサンでも設定上は国王だがな』

「のおっ!?」


 突然、三沢の声が聞こえてきた。

 ただその声が何処から聞こえてきているか分からない。

 すぐ耳元から聞こえるような気もするが、遠くから話しかけているようにも聞こえる。


『言ったであろう、天の声として一ノ瀬をサポートすると。今はシステムアナウンスを通してゲーム上のプレイヤー……と言ってもプレイヤーは一ノ瀬しか存在せんから、一ノ瀬専用の通信機能だな』

「んっ?なら俺の声はどうやって拾ってんだ?」

『モニターからだ。当然、映像もあるぞ。王城だというのに一人場違いな顔のプレイヤーがいるせいで雰囲気が台無しだが』

「大きなお世話だよ!?」


 そんなこと言い出したら誰もプレイできない気がするのは俺だけか。

 まあ、実際に発売したらいちいちシステムアナウンスで茶々を入れられる事はないだろうから、いらん心配か。


『で、身体アバターの出来はどうだ?』

「身体?」


 そういやVRMMOに限らずオンラインゲームでは自分の分身となる身体アバターを作るキャラクターメイキングは必須だよな。

 けど、何もないまま始まっているんだけど……。


『今回はあくまで動作に関するテストプレイだからな。違和感をなくすために性別や身長、体重などは現実の一ノ瀬と同じにしておいたが、顔や髪は初期設定で我慢しろ』

「ああ、言われれば特に違和感は感じな…………おい」

『むっ、どうかしたか?』

「顔が初期設定なら場違いでもなんでもないんじゃ……」

『…………さて、そろそろストーリーを開始させるぞ』

「無かった事にしやがった!?」


 会話しか出来ないからって都合の悪い事は聞こえないフリしてやがる……!

 ここがゲームの世界なのが今だけは憎い。


「よくぞ参られた。選ばれし光の勇者の末裔の一人よ」


 言った通りゲームを開始させたようで、今までピクリとも動かず黙っていた国王が急に喋りだした。

 そ、それと何だ。

 今もの凄く胸熱なフレーズが聞こえたんだけれども!


 プレイヤーである俺には分かる。

 この国王の言葉は、これから始まるであろう壮大な物語の幕開け。

 プロローグともいえる最初の開始イベントなんだと。


 胸がドキドキしてきた。

 これは、そう。

 クリスマスプレゼントの中身を開ける時のドキドキと似ている。


 期待に胸を膨らませ、国王の次に言葉を待っていると、国王の言葉を遮るように三沢の声が響いた。


「実は今この世界h『長いからスキップするぞ』―――――ということだ」

「おまっ、おまあああああっ!?」


 リスニングテストだったら誰一人として聞き取る事すら出来ないスピードで喋った国王は最後に「では頼んだぞ」と俺に告げ、NPCでありながら期待に満ちた表情を俺に向けてきた。

 それと同時に今まで広間に控えていた大勢の騎士たちが一斉に腕を上げ万雷の声をあげた。

 ……まるで周りのテンションに付いていけない。

 今この世界においては間違いなく俺はたった一人の主人公なのに、なにこの置いてきぼり感。


「台無しじゃねーか!何してんだ、お前!?」

『俺はもう内容をすべて把握しているからな。聞くだけ無駄だ』

「俺が把握してないんだよ!?初見のゲームでイベントスキップとか一番やっちゃいけないことだからね!?」


 国王をはじめとした周囲のNPC達は既に俺たちの仕事は終わったと言わんばかりの態度で適当に広間から去っていく。

 察するにもうイベントは終わった。

 本来ならここでプレイヤーは国王に頼まれたであろう最初のクエストに向かうのだろうが、何も聞かされ ていない俺にはその場で立ちつ?%

近代なら最先端技術。ファンタジーなら魔法と説明すればなんとかなるのはお約束ですよね?


VRMMOモノを書いてみたいはいいが設定が難しくて絶対無理!ならちょっとした話で書けばいいんじゃね?と思ったのがこの話です。

ツッコミどころ満載ですが、あれです。

突っ込んだら負けなんです(えっ

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