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25「どうやら騒がしい夏休みになるようだ」

 肌をジリジリと焦がすような暑さの中、俺は用紙に汗が滴れようが無視してペンを走らせる。

 教室の外からは蝉がミンミン鳴いており、喧しくて仕方ない。

 地下からようやく地上に出れて必死でメスを呼ぼうと鳴くのは分かるが、出来るなら余所で鳴いてほしい。


 が、そんな俺の願いを嘲笑うかのように蝉は更に鳴き声を上げた。

 蝉が止まっている木を思い切り蹴り付けたい衝動にかられるが、何とか抑えて俺は再び集中する。

 そこから数分、用紙に書き込んでは睨めっこするというのを繰り返して、ついに最後の空欄を埋めた。


「終わったぁー!」


 ペンを投げ捨てるように置いたのと同時に、俺は椅子の背もたれに倒れこむ。


 長年刑務所に囚われていた人間の気持ちが今なら分かる。

 辛かったんだよな。

 ここから逃げ出したかったよな。

 けど、もうそんな気持ちとはおさらばだ。

 何故ならば、俺は今、自由という名の翼を手に入れたのだから……!


「はい、お疲れさま」


 俺の机から用紙を回収した美羽先生が天使の如く柔らかな笑みで俺を労ってくれる。

 それだけで俺の疲れは一瞬で吹き飛ぶというものだ。

 つい先程までは鬼か悪魔の類にしか見えなかったが……いやはや、やはり美羽先生は笑顔がいいね。


「全部、一ノ瀬君がいけないんでしょ……」


 俺以上に疲労した様子で呆れる美羽先生。


 ……それについては本当に申し訳ない。

 なんせ1週間近く放課後の時間、美羽先生を拘束してしまったようなものなのだから。

 けど、分かってくれ。

 俺だって好きでやったわけじゃないんだ。


「だったら、ちゃんと勉強してよ……」

「さーせん」

「全然反省してないでしょ……」


 今日は夏休み前日、つまりは1学期最後の日。

 既に終業式も終わり、ほとんどの生徒は明日からどう過ごすか計画しながら帰路に就いただろう。


 なら、なぜ俺が教室に美羽先生と2人きりで教室に残っているか。

 それには当然理由がある。


 実は『巨乳教師と放課後課外授業〜先生の全てを教えてア・ゲ・ル〜』とAV的な展開…………だなんて事は全くない。

 まあ、放課後課外授業というのは事実なのだが。


 今日が1学期最後の日。

 そのため、10日程前までに学期末テストが行われてたのだ。

 そのテストが返却されたのが、つい1週間前。


 ……ここまで言えば分かるだろ?

 赤点だったのだ、俺は。


 それでも魔王(笑)さんの勉強会というなの拷問のおかげで、ほとんどの教科は赤点以上平均点以下という歴史的快挙を果たせた。

 けれど、数学……数学だけは駄目だった。

 図形の角度を求める問題は、小学生の頃まではなんとなくの勘で角度を書いたら百発百中だったため、今回も勘を頼りにしたのに何だよ答えに「√」が入るって。

 んなん勘で当たるわけないじゃん。

 ちゃんとした数字を答えにしろよ。

 アレか?出題者は誰かに角度を訊かれたら「√」で答えるのか?違うだろ?


 ……話を戻そう。

 それで、1教科とはいえ赤点を取ってしまった俺。

 中間も赤点だった俺は、これはマズいというわけで、学園側から救済処置がとられた。

 それが今回の放課後の課外授業、つまりは補習だ。

 期間は終業式までの1週間。

 内容は毎回数学教師から出されたプリントをこなせばいい。

 なぜ追試試験ではなく補習という形で落ち着いたかというと、要は追試しようがダメなもんはダメだろうと俺の実力を正しく把握している学園側の情けだ。


 その補習の監督役は美羽先生。

 多分、美羽先生なら俺も逃げないだろうし、やる気も出るんじゃないかという教師達の策略だろう。


 その通りだ。



 ちなみに、前回は美羽先生目的で大勢の生徒(ほぼ男子)が参加したが、今回の補習参加者は俺のみ。

 どうやら皆、美羽先生との補習より夏休みの方が優先度が高かったみたいだ。

 ふっ、所詮アイツらの美羽先生への想いはその程度だったということか。


「本当に私の事を想っているなら赤点なんて取らないで欲しいんだけど」

「想いってのは強過ぎると相手を傷つけてしまうものなんですね……」

「悟り切った顔しないでくれる?」


 ……1週間も付き合わされたのか、心なしか美羽先生の突っ込みが普段より5割り増しで厳しい。

 けど、俺だって好き好んで付き合わせたわけじゃないんだって。


「でも今日で終わってよかったね。もし1日でもサボったりしたら夏休みも毎日登校してもらうところだったよ」


 ……ここ1週間の俺マジでよくやった。GJだ。

 皆が夏休みを満喫している間、俺だけエブリデイスクールとか鬼畜すぎる。


「じゃあ、寄り道しないで帰ってね」

「あっ、いえ。三沢達がまだ待ってるんで」

「ふぅん……何か予定でもあるの?」

「何か夏休みの計画立てるらしくて」


 三沢の事だ。

 どうせまたブッ飛んだ計画を立てているんだろう。

 アイツは夏休みですら俺を休ませてくれる気はないらしい。

 まあ、夏休みの間ずっと暇を持て余すよりはマシなんだろうが……。


「いいねー……友人と過ごす夏休みって。きっと海とかお祭り行くんだろうね……」

「先生も行けばいいじゃん……って、あっ。もしかして行く人いない?」

「相手ぐらいいるよ!ただ皆予定が合わないだけなんだもんっ!」


 腕を突き出し、顔を真っ赤にして反論する美羽先生。

 勿体ないから言いませんけど、腕を突き出してるせいで谷間がすごいことになってます。


 というより美羽先生がムキになる姿とか珍しい。

 どうやら美羽先生にも触れてはいけないとこがあったみたいだ。

 顔を真っ赤にしたと思ったら、今度は遠い目をして「いいよ、いいよ……私には仕事があるもん。生徒のために働いてると思えば海より楽しいし」とブツブツ呟いているし。

 ……うん、謝るから帰ってきて。


「じゃ、じゃあ、あんまり待たせても悪いからそろそろ行きます」

「うん、あんまりはめを外さないようにね……って、あれ?」

「どうかしたんすか?」

「ううん。ただ三沢君達はどこで待ってるのかなーって」

「科学部の部室ですよ。ほら、三沢がいるんで」


 そう伝えると美羽先生はキョトンと首を傾げて…………えっ、何その反応。


「私の記憶が正しければ科学部は数年前から廃部のままだと思うんだけど……」


 ……どうやら俺は知らぬうちに夏らしい出来事を体験してしまっていたらしい。

 てか、それ何てホラー?




◆◆◆




「…………」


 美羽先生からあんな話を聞いてしまったせいで、科学部の部室に入るのを躊躇ってしまう。

 いや、言ってしまえばこの部屋に入る時は毎回躊躇ってるというか、嫌なんだけどさ。


 しかし、ただでさえ俺の補習で待たせているのに、ここで更に待たせてしまっては魔王(笑)さんとか魔王(笑)さんとかにいらん難癖をつけらそうだからな。

 そんな面倒事は避けたいので、俺は大人しく部室の扉を開き、中に入る。


「あっ、やっと来た。もう遅いよ、お兄ちゃん」

「本当ね。こんな猛暑の中で何分待ったと思うの?」

「何%E

はい、ということで久しぶりの更新でした。

やはり妄想を爆発……ではなく、小説を書くのは楽しいですね。


ただ久々すぎて設定やらキャラの性格、伏線などがうろ覚えだからちょっと危ない(こらっ

ドラマチックに言うのならば「笑っちまうよな……。今の俺はお前にどんな顔で笑いかけたのかも思い出せないんだぜ……」みたいな感じです(謎


では、また次回です。

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