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24「どうやら類は友を呼ぶようだ」

久々の更新です。

お待たせしてしまい申し訳ございません。



「まさに人に歴史ありってことかしら」


「で、出会った時からそんな感じだったんですね……」


再現VTRなんて便利な物はないため、俺と三沢は互いに確認しあいながら魔王(笑)さんと八神に俺達が出会った経緯を説明した。

最初はうろ覚えの記憶だったが、三沢と記憶を確認していくと、次第にその時の記憶が鮮明に思い出されてきた。

それと共に軽く黒歴史の一部まで思い出してしまったので、身を悶えさせる。

いきなりの俺の奇行に3人は絶対零度の視線を向けてきたが、おかげで冷静になれた。

冷静になった俺はふと気になった事を三沢に訊いた。


「ていうか何であの時三沢は俺に目を付けたんだ?」


今思い出してみると『俺と同じ非日常を求めている』って理由だけじゃないと思う。

三沢のことだから何か裏があったと思うんだが。


「なに、勿論それも理由の一つだが、一番の理由は極秘で手に入れたその年の体力測定のデータで、一ノ瀬が最も優秀な成績だったからな。純粋にその能力を見込んで声をかけたまでだ」


「あっ!その年のデータが紛失していると思ったら貴方の仕業だったのね!?」


「はて、なんのことやら」


見事に藪蛇を突いてしまった三沢。

魔王(笑)さんが詳しく話を追及しようとするが、三沢はのらりくらりと話を誤魔化している。

あの様子じゃ魔王(笑)さんの追及は無駄に終わるだろう。


「そ、それで体育祭当日はどうなったんですか?」


「……だってさ?記憶に残ってないみたいだぞ」


「むぅ、あれほど派手に盛り上げたというのに……。こうなれば今年の体育祭は一生忘れられないような派手な仕様で八神の記憶に焼き付けるしかないな」


「やめろ!?」


「えっ、えっ?」


八神の言葉に三沢の中の燃えてはいけないものが燃えてしまったため、至急消火しておく。

あの時以上に派手な仕様なんかにしたら、間違いなく怪我人が出てしまう。

むしろ、あの時怪我人が出ず無事に終わったのが奇跡なんだ。


「そ、そんな凄いことしたんですか?」


「……覚えてないか?体育祭最後の瞬間」


「さ、最後の瞬間って……ま、まさかアレってお二人の仕業だったんですか!?」


八神の驚いた反応に思わず俺と三沢は顔を合わせてニヤリと笑ってしまう。


思い出すのは体育祭最後の瞬間。

きっと、あの瞬間がなければ俺の学園生活は三沢と関わることなく平穏ツマラナイな日々を過ごしていただろう。


そう、それは今でも俺の記憶に鮮明に残る出来事――――




◆◆◆




「調子はいいようだな」


軽く流した汗をタオルで拭いていると、三沢がご機嫌な様子で俺に近づいてきて、スポーツドリンクを投げ渡した。

俺はそれを片手でキャッチし、そのまま蓋を開けて飲む。


「流石だな。まさか出場競技全て1位とは」


「はんっ、あんな奴ら欠伸しながらでも勝てるぜ」


「貴様と走った奴は陸上部の期待のホープだったんだがな」


俺達の後ろからは「韋駄天の蘇二駆が負けた!?」「馬鹿な!?」「殺人的な加速だ!?」「まさか、あれがバーストリンk」なんて聞こえてくるが無視だ、無視。


「だが、いくら貴様が一人活躍しても学園1位は厳しいか」


「まあ個人で競いあうならともかく、クラスでの勝負だからな」


中高合わせて全44クラスが参加するこの体育祭。

現在俺達のクラスの順位は13位。

中学1年生のクラスがここまでの順位になるだけで充分快挙といえるが、俺達が狙うは優勝。

このままでは優勝どころか入賞するのも難しい。


「何も問題はない」


「ありまくりだろ。もう得点が取れる競技なんて最後の混合リレーぐらいしかないんだぜ?いくらそれで1位になっても逆転は無理だろ」


「知らんのか?最後の混合リレーで1位のクラスには1億点が与えられるそうだ」


「バラエティー!?」


何だその今までの時間を全て無駄にする得点は!?

誰も納得しないだろ!?


「なんでも今年生徒会に入った一つ上の人間が『私は皆に教えたいの。最後まで希望を捨てなければ道は開けるということを!そして、私がどれだけ偉大かつ慈悲深い女神的存在なのかを!』と言ってゴリ押しで決めたらしい」


「最後ので色々台無しなんだけど!?それ本当に生徒会の人間の言葉!?」


もし本当なら生徒会の人間とは関わらないようにしよう。

てか、そんなんで生徒会大丈夫なのか……。


「そういうわけだから、貴様は最後の競技に備えて身体を休めておけ」


「なあ、それなら俺が今までの競技で頑張った意味ないんじゃないか?」


「…………」


「…………」


「むっ、女子のハードル走が始まるようだ」


「誤魔化した!?」


これ以上追及しては余計疲れるだけ。

納得いかないまま俺は女子の競技に目をやった。


たゆんたゆんだった。


何がって?察しろ。


「ハードル走って競技を考えた人は天才だと思う……あっ、転んだ」


「呼吸が荒くなっているぞ……と、また転んだな」


「明らかに競技の選択ミスだろ、あの子」


黒髪や茶髪といった子の中、金髪ということもあり一際目立っている少女。

律儀なことにハードルを毎回跳ぶたびに毎回足を引っ掛けて転んでいる。


これが男子なら会場は爆笑なんだが、その子はかなり可愛い上に必死に涙を堪えて頑張っている。

そんな姿を見せられると、こっちは保護者にもなった気分で心配過ぎて目が離せない。

競技に参加してる子なんてあそこまで相手に転ばれると、その子を無視してゴール出来ないようで明ら

かに戸惑っている。


たかが50Mのハードル走に誰が数分もかかると予測出来ただろうか。


「お兄ちゃん」


「ん?」


競技を眺めていると、後ろから服の裾をくいっと引っ張られた。

俺の事をお兄ちゃんと呼ぶ人間はこの世に1人しかいない。


「アキ?」


「私よ」


「おふくろかよ!?」


妹かと思って振り返ってみたら、そこにいたのはおふくろだった。

完全に今妹の声だったぞ……。


「頑張ってる?」


「何事もなく話を進めないでくれる?」


「世の中は流れゆく川。それに乗れなければ死ぬわよ」


「アンタの流れが激流過ぎるんだよ!?」


何処にいようと独特の雰囲気を崩さないマイマザー。

一気に調子が乱れた気がする。


「てか何しに来たんだよ」


「決まってるわ。ナツの応援……という建前を利用して仕事を休みたかったの」


「息子の応援を建前って思っても言うなよ!?」


「んっ」


「今更黙っても遅いわ!」


「我が儘ね」


おふくろのペースに惑わされて、競技以上に疲れてしまった。

騒ぎ過ぎたせいで、周りの視線を集めてしまったようなので、俺は観客席におふくろを連れていく。

というより、いつの間にか三沢が消えてるんだが……まあ、いいか。


「で、アキは?」


「あそこ」


僅か3文字で説明したおふくろは少し先を指差す。

その差された方向に目を向けると、まだ幼さが残る妹がいた。

……ピンクの法被に鉢巻。さらには馬鹿デカいうちわを持って。


「……なにそれ」


「凄いでしょ?ほら、背中とうちわにはちゃんとお兄ちゃんの名前が書いてあるんだよ!」


「いつから俺はジャニーズになったんだ」


妹は今年で12歳。

来年には俺と同じ中学生になるのだが、心配でしょうがない。主に頭の問題で。


「お前、学校は?」


「お母さんからサボりの許可を得てあるから大丈夫」


「義務教育なんてサボッてなんぼよ」


「駄目だから!?義務教育こそちゃんと受けるべきだから!?」


結局ここでも視線を集めてしまっている。

しかも、身内贔屓抜きにしても2人は目立つ容姿をしているので先程より余計に視線を集めている。

……法被のせいでもあるが。


「つーか応援なんていらないって言っただろ。今時家族が応援とかねーよ」


「聞いた、アキ?これが思春期特有の反抗期よ。きっと内心嬉しいのに、そういうのを表に出すのが恥ずかしいと思ってるのよ」


「お兄ちゃん、大丈夫?腰に巻くチェーンでもあげよっか?」


「なんなら制服に『夜露死苦』って刺繍してあげるけど」


「…………」


確実に馬鹿にしているおふくろに対して、わりと本気で心配している妹。


……皆は反抗期ってどんなだったって訊かれたら、どう答える?

俺は反抗する暇もなく一瞬で終わりましたって答えるね。


「まだ出番はあるの?」


「後は最後の男女混合リレーだけ。ちなみにアンカーは俺」


「我が息子なら流石のステータス。どうしてそのステータスを少しでも頭に回さなかったのか」


「典型的なステ振りミスだね」


「よし、帰れお前ら」


俺だって自分でステ振りしたわけじゃない。

出来るんだったら、こんな脳筋ステータスじゃなくてちゃんと平等にステ振りしたかったわ。


『男女混合リレーに参加する生徒は至急1番ゲートに集まってください。繰り返します。男女混合リレーに―――』


「っと、出番か」


「頑張ってね、お兄ちゃん」


「ふぁいてぃん」


家族からの声援で何とかなる気がしてきた。

……というより、それはファイトって事でいいんでしょうか、お母様?




◆◆◆




男女混合リレーは各クラスで選ばれた代表男子2人女子2の構成で行われる。

第一走者から第三走者は200Mあるトラックを半周、つまりは100Mを走る事になる。

第四走者のアンカーだけはトラックを1週する。

予選で一位となったクラスだけが決勝戦に進め、そこで一位になれば1億点という馬鹿げた得点を獲得することが出来る。


運が良かったのか俺達のクラスの予選グループは中学生だけというかなり偏ったグループだったため、なんなく予選を突破する事が出来た。

……ここで三沢の勝ち誇った顔が頭をよぎったのは気のせいだと信じたい。


そして決勝戦。予選を突破した計7クラスが集結。

最後の競技で、これが全てが決まるということで全校生徒が注目。

この競技は例年かなり盛り上がるらしいが、今年は例年の比じゃないらしい。


「が、頑張ろうね、皆」


「お、俺達なら大丈夫さ!なあ、一ノ瀬」


「そ、そうよね。一ノ瀬君がいるし!」


クラスで選抜された他のリレーメンバーが緊張した様子で声をかけてきた。

体育祭まではろくに話したこともない連中だったが、どうやらこの体育祭に俺の株が急上昇したらしい。

視線からは俺への信頼の気持ちが感じられる。


ちなみに三沢だが、先程から姿が見えないままだ。

ただ競技が始まる前にメールで『何が起きても足を止めるな』とだけ連絡が来た。

……何をするつもりだ三沢は。

というか俺アドレス教えた記憶がないんだが。


『それでは第一走者は所定の位置についてください』


「待っててくれよ……必ず一番にバトンを渡すからよ」


第一走者の男子……秋月君だっけ?が、そんなセリフを残して、自分のレーンに向かった。

お願いだから無駄に死亡フラグを建ちあげないでほしい。

しかも構えがロケットスタートなんですけど。

さっきまで普通にクラウチングだったよね?

第一君、帰宅部だよね?


『それでは位置について、よーい……』


ドンッという空砲の音が会場に鳴り響く。

その開始の合図とともに第一走者達が一斉にスタートした。

……一人を残して。


「なにやってんの!?」


スタート直後から派手に転んだ秋月君。

ロケットスタートなんて素人が格好つけるからだ。


慌てて立ち上がった秋月君は遅れを挽回せんと、転ばなければ満点の走りで第二走者にバトンを渡す……が、手を滑らせてしまったかバトンを落としてしまった。

ここまでいくと狙ってろんじゃないかと疑いたくなる。


それでもすぐにバトンを拾って第二走者の女子が走り出す。

凄まじい速度で相手選手との距離を縮めている。

……距離を縮めているといっても6位の相手との距離だが。

1位との距離は絶望的なほど開いている。


第三走者にバトンが渡ると、ようやくビリから脱出。

このままいけば一位は無理でも上位には食い込めるかもしれない。


俺は覚悟を決めて第三走者が来るのを待つ。

既に何人かのアンカーがスタートを切っている。

けれど諦めるわけにはいかない。

信頼してくれたんだ。

それに答えられなければ皆に合わせる顔がない。


「一ノ瀬君――――!」


バトンが渡される。

それと同時に俺の中の血が全身に巡っていくような感覚がした。

いける。そう俺は確信した……が、アイツがこのまま何もしないわけがなかったんだ。


『注ぅぅぅぅぅぅ目っ!!』


俺が走り出した瞬間、奴の声が会場中に響いた。

予期せぬ出来事に選手達は足を止めてしまう。

三沢に足を止めろなと伝えられていたが、あまりにも予想外の出来事に俺も呆気に取られて動けずにいた。


そして次の瞬間、黄昏迫る夕刻の空に爆音と共に季節外れの花火が上がった。


「はっ?」


状況が理解できなかったが、直ぐに三沢の仕業だと気づいた俺は誰よりも早く正気に戻って全速力で走りだした。

ぽけーっと呆気に取られた様子で空に打ちあがった花火を眺める選手達を横目にゴールまで駆ける。

選手達が気づいた時には俺はもうゴールテープを切っていた。


『あっ……ご、ゴォ―――――――――――ルッ!な、なんと一位になったのはちゅ、中等部1年!1年生だああああああああああああっ!』


「は、ははは……」


目標通り1位になったというのに、全く嬉しさが込み上げてこない。

それどころか俺の口から出るのは渇いた笑みだけ。


『たーーーーーまぁやぁーーーーー!』


とても優勝したとは思えない空気の中、三沢の心底嬉しそうなだけが途切れることなく会場に響き続けた。




◆◆◆




「……昔から滅茶苦茶な奴だったのね」


「あ、あははは……」


呆れた様子の魔王(笑)さんに、苦笑いを浮かべる八神。

そして何故か誇らしそうにフフンと鼻を鳴らす三沢。

頼むから俺を三沢と同一視しないでほしい。


「にしてもよく花火なんて用意出来たわね」


「あー……それな」


「なによ?」


当時俺もよく花火なんて用意出来たなと三沢に問い詰めた事がある。

すると、どうだ。


花火自体は三沢が予め学園に申請して許可を貰っていたのだ。

派手な事が大好きな学園だ。

正式な手続きを踏めば大抵の事は許可される。

ただ、三沢は閉会式に花火を打ち上げると学園に伝えていたのを、大幅に時間をズラして打ち上げたのだ。

競技中に打ち上げ他のクラスの足を止める。

その打ち上げのため早い段階から姿を消したわけだ。


しかも花火自体は学園が許可していたため、三沢にそれほどの処罰は与えられなかった。

俺に話しかけるところからあの花火まで全て三沢の計算通りだというのだから本当に食えない男だと思う。


「なに、一ノ瀬の活躍だけは俺の予想以上の働きだったさ」


「そりゃあどーも」


そういえば出会った当初は俺への呼び方は「貴様」だったのに、呼び方が「一ノ瀬」に変わったのは体育祭が終わってからだった気がする。

そう考えると、やはり体育祭の一件が俺と三沢の腐れ縁のきっかけなのだろう。


「ふふっ」


しばらく黙って考えていると、急に魔王(笑)さんと八神が俺と三沢の顔を見て笑い出した。


「なんだよ?」


「い、いえ、なんでもないです」


「そうよ。ただ―」


「ただ?」


楽しそうに笑みを浮かべたまま魔王(笑)さんは俺達に向かってこう言った。


「類は友を呼ぶってのは本当だったって思っただけよ」


この時、俺は自分の顔を鏡で見れたら間違いなく嫌そうな顔をしていると思う。

ただ、ここで仲良く食事している時点で二人もその類友だって思ったのは・・・まあ、言うまでもないだろう。



過去編で主要キャラをさりげなく出そうと思っていたんですが、読み直してみたら美羽先生や親父、それどころか魔王(笑)さんを忘れてました……。

まあ、美羽先生や親父はともかく魔王(笑)さんは会場の隅でぼっちだったということでw(オイ



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