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23「どうやら出会ってはいけない男と出会ってしまったようだ」

彼らは現在進行形で厨二病を患ってます。



「一ノ瀬夏樹だな」


――俺が奴に抱いた最初の印象は、『胡散臭い奴』だった。


金持ちが通うということで有名な中高一貫の学園に入学して早2ヶ月。

環境が一変し、俺の日常も劇的に変化すると期待したのだが、俺を待ち受けていたのは小学校と変わらない――むしろ余計につまらなくなった日常だった。


授業を受け、休み時間が来たら他愛ない話をする。

それを繰り返したと思ったら、ただ帰るか部活に向かうだけ。

周りと同じように熱中出来る部活を見つければまた違ったんだろうが、残念な事にこの学園には俺が熱中出来るような部活は見つからなかった。


違う。

俺が望んでいたのはこんな日常ではない。

こんなありふれた日常を過ごすために俺はいるんじゃない―――!


そんな時だ。

放課後になり、教室から立ち去ろうとした俺の目の前に胡散臭い笑みを浮かべた男が現れたのは。


「お前は確か同じクラスの……み、み、み、三上?」


「三沢だ」


そう、確か目の前の男の名前はそんな感じだった。

勘違いしないでほしいが、これは決して俺が2ヶ月経ったというのにまだクラスメイトの名前を憶えられていないというわけではない。

もうクラスメイトの顔と名前は一致するが、この男だけは例外だ。


つい最近まで出席番号順に席に座っていたため、名前が後ろの奴とはあまり話す機会がなかったというのもあるが、何よりクラスにいないのだ、この男は。


教室で見かけることがあっても、次の授業中にはどこかに消えており、戻ってきたと思ったらまた姿を消す。

最初は不思議に思っていたが、最近ではどうでもよくなっていた。

そんな男が今更俺に話しかけてきたことはかなり驚くべきことだ。


「で、何の用?用がないなら気安く話しかけるなよな」


「無論あるとも」


しかし、見れば見るほどおかしな男だ。

衣替えになって、男子は全員半袖のワイシャツになっている。

更に一部の男子はズボンからシャツを出したり、ズボンを限界まで下げダボダボにしたりと着崩しているが、目の前の男はこの暑い中未だ学ランを着ている。

それどころか第一ボタンまでしっかり留めている。

徐行は平然とサボるくせに服装だけは真面目って、どうなんだろうか。

ていうか衣替えが過ぎたのに学ランを着るのは校則違反じゃないのか。


「ちなみに腰パンはアメリカではだらしないから条例で禁止している州もあるそうだ」


「マジ?……って、聞いてねえよ!?」


いらん豆知識を知ってしまった。

まあ、あって困るもんではないからいいんだけどさ……。


「一ノ瀬夏樹、貴様は来週に何があるか分かっているだろうな」


「来週って……体育祭ぐらいしか思いつかないが」


「それだ」


体育祭がいったい何だと言うんだろうか。

目の前にいるのが普通のクラスメイトなら、ここからくだらない談笑が始まるんだろうが、生憎目の前にいるのは普通ではないクラスメイト。


俺の第六感が何も聞かないで今すぐ立ち去れと告げている。

だが、日常に刺激を求めていた俺は湧き出る好奇心を抑えられなかった。


「体育祭が何なんだよ」


「全学年が行うイベントは体育祭が初。名を挙げるには絶好の機会だとは思わんか」


「名を挙げるって……ただ目立ちたいってことかよ」


「ある意味ではな」


この言葉を聞いて俺は心の中で溜め息を吐いた。


同じだったのだ、この目の前にいる男は。

ただ目立ちたがりのクラスメイトと。

正直がっかりだ。

これ以上訊く事は何もないと判断し、三沢に背を向け立ち去ろうとする。

だが、そんな俺を引き止めるかのように三沢の声が聞こえた。


「今の日常が退屈だと思っているのは貴様だけではない」


「……なに?」


「目を見ればわかる。貴様は俺と同じだ。望んでいるのだろう?刺激のある日常――いや、非日常を」


今思えば、俺はいつの間にか三沢の言葉に惑わされていたのかもしれない。

少なくともこの時の俺は三沢の言葉に特別な力があるように感じられた。


「……そこまで言うなら俺を楽しませてくれるんだろうな」


「それは貴様しだいだ」


お互いに顔を身わせてニヤリと笑い、手を交わす。

こうして、俺と三沢の最初の悪巧みが始まったのだ。


……後にこの時の事を三沢に訊くと「初めての共同作業」とか言う。頼むからその表現は止めてくれ。



◆◆◆



体育祭まで残り数日。

時間は限らているということで、俺と三沢は学校を出て早速作戦会議をすることにした……したのだが。


「おい……なんだ、ここは」


「なんだ、そんなことも知らないのか」


三沢はドリンクの入ったグラスを机に置き、ソファに座る。

そのままある装置を手に取り、装置の画面にタッチして何かを打ち込んでいく。

随分と手馴れた様子だ。


「見ての通りカラオケだ。まさか初めてか?」


「カラオケぐらい知ってるわ!?俺が言いたいのは作戦会議をするってのに何でカラオケに来てんだってこと!」


思わず熱くなる俺に対して、何食わぬ顔でマイクの音量やらミュージックの音量を調節する三沢。

なにこれ?俺が間違ってんの?


「何を言うか。カラオケの部屋は防音・遮音対策に優れている。これなら相手が一流の密偵ではない限り盗聴される恐れもない」


「お、おおっ!……おお?」


一瞬なるほどと頷きかけたが、そもそもたかが学生の体育祭の作戦会議に送られる密偵って何だ。

どんだけ暇なんだ、その密偵。


「なにより学生二人が訪れても怪しまれんし、個室で値段もリーズナブル。更にありがたいことにドリンクバーは飲み放題だ」


「いや……もういいけどさ」


入ってしまった以上は仕方ないと思い、俺は諦めて三沢と少し間隔をあけてソファに座る。

ドリンクを一口飲んでから、俺は本題に入ることにした。


「んで?誘ったからにはある程度作戦はあるんd「---この世に生を受けて早十三年」……は?」


「辛い事、悲しい事もありました。けれど私は生きてます」


「えっ、ちょっ、待って。色々待って」


目を閉じて、何かを語り始めた三沢。

そしてカッ!と目を見開いた。

同時に部屋から音楽が流れ正面のテレビ画面に文字が写し出された。


「――三沢、歌います」


「演歌歌手!?てか作戦会議は!?」


「エンダァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!!」


「曲選!?」


この後、俺は勢いに流され時間が来るまで歌い続けた。

悔しい事に三沢は美声だった。

次までに歌える曲を増やしとこ…………あれ?



◆◆◆



「今日こそは作戦会議をするぞ」


「何を言うか。昨日ずっとマイクを放さなかったのは貴様ではないか」


「うっ……」


昨日の反省を活かして、今日こそは真面目に作戦会議をすることにした俺は、同じクラスということもあり三沢と一緒に昼飯を食べていた。


「ところで貴様のそのパンは購買の物か?」


「ん、ああ。本当は三種の神器っつーのを買いたかったんだけど、俺が着いた頃には売り切れだった」


「ふむ。この学園の購買は激戦区と聞くからな。教室が最上階の1年の間は無理かもしれんな」


「はんっ!如何に俺に不利な要素が重なろうと、それが俺の敗北に繋がるとは限らない!必ず俺は今年中に栄光を掴んでみせるぜ!」


「コロッケ貰うぞ」


「ただのキャベツパン!?」


普段1人で静かに食べている俺や、教室にいることが珍しい三沢。

そんな俺達が一緒に昼飯を食べて騒いでいたら、当然クラス中から注目を集めてしまった。

見てんじゃねよと怒鳴り散らそうとしたが、三沢がそれを片手で制した。


「気にするなとは言わんが、慣れろ。人の上に立つためには好奇な目で見られることに慣れなければならん」


「お前は何になるつもりだ……」


コロッケパンからキャベツパンへと数ランクダウンしたパンを食べ、心を落ち着かせる。

なにこのヘルシーさ。

少なくとも育ち盛りの男子が食べるパンではない。


「仕方ない。食いかけだが俺のコロッケをやろう」


「マジか!サンキュー……じゃねえ!?元から俺のだし、食いかけを返すな!」


「……ツッコミセンスがないな。特にノリツッコミは酷いを通り越して怖いぞ」


「やかましい!?」


こうして騒いでいる間に昼休み終了を告げるチャイムが鳴り響いた。

仕方なく俺は自分の席に戻り、次の授業の準備を…………あれ?



◆◆◆



「何もしてねえ!?」


三沢と出会ってから数日が経過した。

ここ数日は基本三沢と一緒に行動していたため、今日も特に考えることなく三沢と帰宅しようとして気づいた。


いつの間にか体育祭は前日にまで迫っていたし、作戦会議と称して実際にやったのはカラオケやら食事やらボーリングやぶらぶら歩くことだけ。

俺は慌てて三沢に問い詰める。


「どーすんの!?体育祭は明日っだってのに俺達何も考えてねえよ!?」


「案ずるな。作戦なら俺が考えてある」


「あっ、そうなの?」


その言葉を聞いて俺は安心する。

なんやかんやで抜かりのない男だ。


「うむ。最初から貴様の頭には何も期待していなかったからな」


「あれ、もしかしなくとも俺馬鹿にされてる?」


「なあに、適材適所というものさ」


「あ、ああ、テキサステキショねテキサステキショ。うん、知ってるよ」


「……はあ」


露骨に溜め息を吐く三沢。

その神経を逆撫でするような仕草はここ数日で嫌なほど味わったため、この程度では動じなくなった。


「でも実際は何をすんだ?どのクラスが優勝するか賭けるとか?」


「賭け事か。それもありかもしれんが、たいして盛り上がらんだろうな」


「なんで?楽しそうじゃん」


「賭けをしようにも俺達はまだ最下生。何処の誰だか分からない奴が行う企画に参加する者は少数だ」


そういうものなのか。

俺にはよく分からないが三沢が言うならそうなのだろう。


「今回の目的は最初に言ったように名を挙げる。つまりは俺達の名を学園中に広める事だ。そうすれば次回から動く時に人を集めやすいからな」


「はー……色々考えてんだな、お前」


三沢が本当に俺と同い年というのが信じられなくなる。

まあ、三沢なら年齢詐称していても不思議じゃないけど。


「名を挙げる。つまりは目立てばいいということだが、どうすれば目立てるかわかるか?」


「そりゃあ優勝することだろ」


「その通りだ」


三沢は俺の答えに満足そうに頷くと、黒板に文字を書き込んでいく。

『100m走』に『リレー』。『障害物競走』やら『綱引き』など。

どれも明日行われる種目の中で得点が高いものだ。


「いくら高等部とは別に行われるとしても、下級生が上級生を差し置いて優勝するのは厳しい。優勝を目指すにはこれらの種目で1位を狙わなければならない・・・と言っても、クラス単位で動く体育祭ではそれは不可能だ」


「まあ、そうだろうな」


そんなのスポクラでもない限り無理だろう。

そうなると俺達が優勝するのは無理なんじゃないか。


「ただそれは」


「ただ?」


勿体ぶって言葉を切る三沢。

俺がそのまま聞き返しても中々言い出さないので痺れを切らそうとした瞬間、ようやく三沢の口が開かれた。


「———普通ならの話だ」



大事な事でもう一度言いますが、彼らは現在進行形で厨二病を患ってます。


魔王(笑)「続くの!?」

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