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21「どうやら女性陣がお見舞いに来たようだ」

更新が遅れてしまい本当に申し訳ありません。

これからは以前のペースに戻ると思いますので。


―――身体が熱い。


身体の芯から火照るようなこの感覚は久方ぶり……いや、もしかしたら初めてかもしれない。


動悸が激しいのが自分でも分かる。

喉の奥から出てこようとするものを抑える事が出来ない。


いっそ、ここで死んでしまった方が楽なんではないかと思うぐらいだ。


そう思い、俺は全てを外へ吐き出した。


「ぶぇっくしょん!!……あー」


咳をすると喉が痛む。

さらに俺のマーメイドのような美声がダミ声になってしまっている。


「私的にはマーメイドよりもスー○ン・ボ○ルを推すわ」


「どうでもいっゴホッ!!」


「いっゴホッ?」


「咳だと察しろ!」


「はい、これ脇に挟んで」


会話が噛み合っていない。

キャッチボールを試みたのにゴルフクラブで打ち返えされた気分だ。

が、反論する気力もないので俺はおふくろから渡された体温計を脇に挟む。


1分と経たない内に体温計からアラームが鳴る。

取り出して確認すると、そこには予想通りの結果が。


「38度1……やっぱり風邪ね」


そう。八神の家にお見舞いに行った翌日、俺は見事に風邪を引いてしまった。

俺としては健康である事が自慢なのに、まさか見舞いに行ったぐらいで風邪を引いてしまうとは……。


「まったく。いったいどこの女からもらってきた病気なの」


「言い方ってものがあるでしょ!?」


なんだ、その蔑んだ視線は。

別に俺は何もヤッてないからな。


たがら風邪で苦しんでる息子をそんな視線で見ないでほしい。


「今日は学校休んで」


「うう……親公認で学校休めるのは嬉しいが、皆勤賞が……」


中学から今までずっと皆勤賞を貰ってきたのに。

これで俺の記録も途絶えてしまうのか。


「……やっぱり行こう」


「ダメよ」


「おふっ」


ベッドから起き上がろうとしたが、おふくろに額を押され再びベッドに押し戻された。

抵抗しようにも身体に力が入らない。


「そんな身体じゃ無理よ。明日のためにも今日はゆっくり休みなさい」


「……わかったよ」


おふくろが珍しく正論を言い、俺は渋々諦める。

ふっ、と目を閉じると今だ額に当てられたおふくろの手の感触がはっきりと伝わってきた。


「あー……なんか冷たくて気持ちいいかも」


「ナツは熱いわ」


「熱だからな」


おふくろは手を離さず、俺の額に当ててくれている。

そういえば手が冷たい人は心が温かい人だと聞いた気がする。

これを言ったら間違いなくドヤ顔してくるだろうから、言うのは止めておくが。


ふと、おふくろの顔を見てみると、おふくろは優しげな表情で俺を見つめていた。

その表情に俺は母親らしいなと思った。

……いや、まあ、実際に母親なんだけどさ。


「……なんか嬉しそうだな、おふくろ」


「だってナツもアキも滅多に風邪引かないから、今まで看病とか出来なかったもの」


「……看病したかったのかよ」


「母性愛が刺激されそうじゃない」


……返事に困る。

まあ、確かに俺と妹は病気どころか風邪になった事も数えるぐらいしかない。


それに両親が仕事だから邪魔にならないように、自分の事は自分でやるように俺達兄妹はしてたからな。

母親としては子供の世話をやけないのは不満なのかもしれない。


「あっ、そういや学校に連絡してくれた?」


「抜かりはないわ」


「……何でだろう。その言葉に全く安心出来ない」


「大丈夫よ。ツイッターで拡散してもらうよう頼んでおいたから」


「伝わるか!?」


サムズアップして携帯を俺に見せ付けるおふくろ。

画面には『馬鹿息子が風邪なーーーーーうwww馬鹿でも風邪引くとはw』と。


「ほら」


「ほら、じゃねーよ!?余計なお世話な上に学校休む旨がまるで書かれてないんだけど!?」


「きっと三沢君と二階堂さんが見てるわ」


「他人任せすぎでしょ!?」


そもそも休みの連絡は家族がしないと駄目というか信じてもらえない。

残念な事に魔王(笑)さんは違うクラス。

同じクラスである三沢が俺の休みを伝えたとしても、どうせまた何か企んでるんだろと思われてサボり扱いになるだけだ。


「……なんか熱が上がった気がする」


「叫ぶからよ」


「アンタのせいだよ!?」


俺は布団を頭までかぶって会話を強制終了させる。

このままじゃ熱だって言うのにいつまでも親子漫才が終わらないからな。


「私は下にいるから何かあったら電話して」


「ああ」


そう言って俺は瞳をゆっくりと閉じた。




◆◆◆




「おにーちゃん!」


「…………ん?」


はっきりとしない意識の中、耳元で妹の声がした。

まだゆっくり寝ていたいが、起きなきゃいつまでたっても叫ばれそうなので俺は目を開ける。


目を開けるとそこには必死の形相の妹がいた。

身体は汗をかいており、息が乱れている。

もしかしたら学校が終わってから走ってきたのかもしれない。


時刻を確認すると現在の時刻は3時25分。

……俺の記憶が間違ってなければ帰りのHRが終わるのは3時20分だった気がするんだが、妹は次元でも超越してきたのだろうか。


「大丈夫おにーちゃん!?」


倦怠感はまだあるが、朝ほどではない。

この様子なら熱も微熱ぐらいに下がってるだろう。


「まあ、今日ゆっくりしてれば明日には治るだろ」


「よかったぁ。いったいどこの女からもらってきたのかって心配したんだから」


「ブルータスッ!」


妹は心配しながら少し呆れた様子で部屋の床に座る。その誤解を招く言い方は間違ってはいないけれども止めてくれ。

てか親子で考えがシンクロし過ぎだろ。


「お兄ちゃん、そのツッコミも一度私が使ってるよ?」


「馬鹿な!?……あっ」


無意識に妹のよくする反応と同じ反応をしてしまった。

もしかして妹とのシンクロ率はおふくろより俺の方が高いかも。

どっちかに搭乗出来るなら使徒なんて簡単に倒せるレベル。


……何の話だ。


「ナツ、お客さんよ」


おふくろが突然に部屋に入ってきて来客を知らせる。

ウチの家族はノックという言葉を知らないのか?


おふくろに招かれた部屋に入ってきた人物は、まあ、ある程度は予想していた人物だった。


「お邪魔するわ」


「お、お邪魔します」


堂々と人の部屋に入ってくる魔王(笑)さんに、遠慮がちに入ってくる八神。

相変わらず対称的な二人だ。


二人とも制服のままだし、多分学校から自宅に帰らず直接来たのだろう。

よく家がわかったなと言おうと思ったが、去年の文化祭の時に八神がウチに来た事を思い出し、一人で納得する。


「あれ、三沢はいないんだな」


「彼なら極秘任務があるとか言ってたわよ」


……どこのエージェントだ、三沢は。

非常に気になるところだが、好奇心は猫をも殺すって言うからな。

何も聞かなかった事にするのが賢明だろう。


「ご、ごめんなさい一ノ瀬君。私のお見舞いなんかに来たせいで……」


「あー……気にしないでくれ。別に八神のせいってわけでもないし」


「馬鹿でも風邪引くのね」


「皆それが俺に対する共通認識か!?」


第一、馬鹿は風邪引かないって話は馬鹿は風邪を引いても気付かないからって事だからね。


……今まで俺が風邪引いた事ないって思ってたのは気付かなかっただけじゃないよね?

流石に気付くよね?


「というより病気になったのならあの薬を使えばいいじゃない」


「ばか。あんな二度と手に入らないレアアイテムを風邪如きで使えるか。勿体ない」


1日か2日程度安静にしてれば治るであろう風邪に超高級車クラスのミサビタンを使ってたまるか。

バファ◯ンで充分だよバ◯ァリンで。


「もう!私を無視してお兄ちゃんに近づかないでよ!またお兄ちゃんに悪い病気がうつったらどうするの!」


シャー!と猫のように魔王(笑)さんと八神を威嚇する妹。

見るからに狼狽える八神に対し、魔王(笑)さんは冷めた目で妹を見た。


「あら、いたのね6位さん」


「がふっ!?」


完璧に上から目線で妹を蔑む魔王(笑)さん。

三沢主催の身内内人気投票(8組男子も協力)で見事1位に輝いたからな。

発言が妹より遥か上の頂からの発言のように聞こえる。


「うう……お母さん、何処の馬の骨だか分からない魔王が私をイジメるよ」


「アキ、世の中は弱肉強食よ」


「孤立無援だと!?」


どんなツッコミだ。

二人とも四字熟語使ったが使い道が間違ってる気がする。

てか、何処の馬の骨だか分からない魔王ってなんなんだ。


「ほ、ほら。今は体調悪いんだからお願いがあるなら聞くわよ?何でも言ってみなさい」


「急にどうした!?」


妹を打ちのめした魔王(笑)さんがいきなり態度を変えて俺に優しい言葉を投げ掛ける。

これがギャルゲーなら俺の目の前に3つぐらい選択肢が出てそうな展開だ。


『優しく看病して』『帰ってください』『ぐへへへへへぇ』的な。


だが普段ツンツンなだけあってこのデレに裏があるように感じてしまう。

俺が弱ってるこの機会に兄妹もろとも滅する気なのではないだろうか。


だから俺が選ぶ選択肢は決まってる。


「帰ってください」


「構ってください?……ふふ、甘えん坊さんね」


「…………」


『選択肢があると思った?残念、お前に選ぶ権利ねーから!』


不意にそんな言葉が思い浮かんだ。

流石のマオウニズムだ。


「あ、あの一ノ瀬君。お腹すいてませんか?」


この空間において唯一の癒しである八神が俺に近づいてきた。

言われてみれば朝食を食べてからずっと寝ていたため昼飯を食べてなかった。


「確かに腹減ったな」


「よ、よかったら何か作りますよ?」


「マジで?」


八神の思わぬ展開に俺は身を起こす。

八神の料理の腕は以前一緒に弁当を食べた時に知ってるからな。

願ってもない提案だ。


「ラーメンが食べたい」


「いざ目の前にしたら食欲無くすと思いますけど……」


否定出来ない。

まあ、なんとなく思い浮かんだだけで、めっちゃ食べたいというわけではないんだが。


「と、とりあえず冷蔵庫の中見せてもらっていいですか?」


「ああ」


「友人が目の前でラブコメを繰り広げてる件について」


「目の前で勝手に家の食材が使われる事が決定した件について」


「よし、黙れ二人」


八神とのやり取りを見ていた魔王(笑)さんとおふくろが同時に携帯を開き猛スピードで携帯のボタンを押す。

おそらく二人してツイッターに書き込んでいるのだろう。

この二人、少し似ている気がする。勿論ダメな意味で。


「なら私も作るわ」


携帯をしまった魔王(笑)さんが突然にとんでもない宣言をした。

八神に対抗意識を燃やしたのか分からないが、その瞳の奥にゆらゆらと炎が見える。


「いや……料理なら八神が作ってくれるみたいだし。てか、そもそも料理出来るのかよ」


「人より舌が肥えている自信があるわ」


「それ食べる専門だからだよね!?舌が肥えてるのと料理の腕は比例しないからね!?」


本来なら学園№1美少女と評される魔王(笑)さんの手料理が食べられるなら泣いて喜ぶべきなのかもしれないが、料理の腕前も分からない、むしろアウトそうな人の料理を進んで食べるほど俺は冒険家ではない。


「魔王が作るなら私が作らないわけにはいかないいんだよ!」


「黙れポイズンクッカー。オチが見えてるお前に作らせるほど兄は寛容ではない」


「横暴だ!?」


かつて一ノ瀬家において重傷者4名を出した妹の料理。

あの悲劇が再び起こる事だけは避けなければならない。

というか自分の料理で自滅したくせに全く反省しないのはいかがなものか。


「ならアキの代わりに母として私が参加するわ」


「容量オーバーだから!?俺一人に対して何人前作るつもり!?これでも病人なんだからもうちょっと気遣って!」


「後で◯ファリンと一緒にガ◯ター10を持ってくるわ」


「気遣うとこが違う!?」


俺の悲痛の叫びなど意に介さず、魔王(笑)さんに八神、おふくろは部屋から出て行った。

妹の出陣だけはなんとかチョークスリーパーで食い止めたが。


「タップ!タップ!タァ——————ップ!!」


「ふん」


青ざめた妹が必死に床を叩いてギブアップするが、ここで放したらまたカオスな状況になるのは目に見えてる。

それを潰すチャンスを見過ごすわけにはいかない。


そう思った俺は更に力を強め、妹の意識を落とした。

素人でもできるもんなんだなと思ったが、ぴくりとも動かなくなった妹を見ると技が決まったんじゃなくて単純に呼吸困難で気を失っただけの気がする。

死んでないか心配になったが、勇者(笑)なら大丈夫だろ多分。



「お、お待たせしました」


「「お待たせ」」


しばらくして3人が部屋に戻って来た。

それぞれの手元には各自が作ったであろう手料理。


どうやら八神は定番のお粥を作ってくれたようだ。

そしておふくろは本当にラーメンを作って来た。

2人の腕前は知ってるし、見た目からしても美味しそうだと判断出来る。


そして問題の魔王(笑)さ…………なんだ、アレは。

皿の上には黄色やら茶色でグチャグチャされた謎の物体。

そして湯気ではない紫色の煙のようなものが発生している。

もしかしたらアレが噂に聞く魔界の瘴気というやつなのかもしれない。


「こないだ貴方が作ってくれたから私も作ってみたのだけども、料理って楽しいものなのね」


輝かんばかりの笑顔を見せる魔王(笑)さん。

でも残念。その笑顔も目の前の瘴気の前では無力。


というか聞き捨てならないことが。


「こないだ俺が作ったって……ま、まさかそれ目玉焼きなのか?」


「それ以外何に見えるのよ?」


「…………」


『お前目ぇ見えてんの?』と言いたげな表情で俺を見る魔王(笑)さん。


はっきり言って生物兵器にしか見えません。

魔王(笑)さんは我が家を起点にバイオな世界を再現するつもりなのだろうか。

生憎と俺の身体はウィルスに対抗出来るとは思えないんですけど。

間違いなくモブゾンビになるだけですけど。


「食べちゃ駄目だ、食べちゃ駄目だ、食べちゃ駄目だ……!」


「食べるなら早くして。でなければ帰りなさい」


「ここ俺の家なんだけど!?」


後退していく俺に、片手に災悪を持って徐々に迫る魔王(笑)さん。

壁際に追いつめられ、もう逃げ場はない。


「こ、光栄に思えなさい。手料理を食べさせるのは貴方が初めてなんだから」


「それってつまり俺が最初の被害者……アッ——————!」


口に目玉焼きであってほしかったものを詰め込められ、意識が遠ざかる。

遠ざかる意識の中で目にしたのは、「えっ?えっ、なんで?」と慌て出す魔王(笑)さんに、先に床に倒れて待っていた妹。

そしてどうしていいか分からなくおどおどしてる八神に、こんな状況にも関わらず表情一つ変えないおふくろの姿だった。


「あ、あの……こういう場合どうすればいいんでしょうか」


「笑えばいいと思うわ」


この後のことはもう思い出したくない。

ただ悔やむのは、止めるべき人間は妹だけではなかったのだ。


俺は妹と魔王(笑)さんは、やはり色々な意味でライバルなんだと再確認した。



私って20話ぐらいになるとスランプになるんですよねー……。

何故だろう?

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