18「どうやら魔王と勇者が協力するようだ」
俺、妹、魔王(笑)さん、八神、会長といった順に流れ込むかのように体育館の中に入る。
そこには数十分前と変わらない位置に三沢がニヒルな笑みを浮かべて立っていた。
「……随分味なマネしてくれたじゃねえかよ」
『ふむ。協力者がいたとはいえ、あの暗号をここまで早く解読するとは流石は俺が見込んだ相棒だ』
「だから俺は相棒じゃないっつーの」
実際俺は何もしていない気がする。
ただ八神に付いてっただけで、会長もウザくはあったがすんなりとカード渡してくれたし。
……うん、なんかクラスメイトじゃなくて八神とだけ親睦が深まった気がする。
『だが残念ながら生徒会長は我々四天王の中でも最弱の存在』
「忘れないで。たとえ今回私を退けても第二、第三の四天王が貴方に襲い掛かるでしょう……!」
「さて、どちらからツッコもうか」
「お兄ちゃん!ツッコむなら私に!」
「きょ、兄弟で何言ってるのよ!?」
「あ、あう……」
状況が早くもカオス過ぎる。
パーティーはただ人数を増やせばいいもんではなかったんだな。
次、パーティーを結成するときはきちんとメンバーの性格も考えよう。
そんな機会二度とあってほしくないが。
『アッ――――――!?』
「誤解されるような声を出さないでくれるか!?俺、何もしてないからね!?」
三沢は面白いことのためなら我が身も犠牲にするから余計に性質が悪い。
ただでさえずっとクラスが一緒で行動も常に共にしているから俺と危ない疑惑が出ているというのに。
『よくぞ一番に宝の在り処を突き止めた……と言いたいが、無論、俺がただで宝を渡すなどとは思ってなかろう?』
「まあ、お前がそんな素直な性格してたらこんなイベント考え付かないだろうな」
何が嬉しいのか三沢は俺の一言で更に笑みを深める。
本当に三沢にはこういう悪役的な立ち位置が似合っていると思う。
……正義側からしたらたまったもんじゃないが。
『まだまだ考え方が青臭いな一ノ瀬。正義の反対は必ずしも悪だとでも思っているのか?だとしたら勘違いもいいところだ。いいか、この世には―』
「その話長くなりそうか?」
『一ノ瀬が望むなら1・2時間程度なら話すが?』
「ならカットで」
『遠慮しなくともいいのだぞ?』
「頼むからお前が俺に遠慮してくれ」
『これでも充分遠慮しているのだがな』
「なにソレ怖い」
ただでさえ話が脱線して無駄に時間を消費しているというのに、これ以上話を脱線させてたまるか。
既に脱線している気がするのは否めないが。
『ならば望み通り、宝を賭けて雌雄を決しようではないか』
「なんでだ!?なんで俺達が戦わないといけないんだ!?同じ理想を夢見たあの頃にはもう戻れないのか!?」
『……愚問だな。貴様はもう戦場に立った。ならば俺達がするべき事は一つしかない。戦うのだ!』
「いいや、違う!俺がするべき事はそんな事じゃない!俺がするべき事は、お前を闇から救ってやることだ!!」
「……人の背中に隠れて何か言うのやめてくれないか」
「演出って大事じゃない?」
「その気遣いは他に回せないのか!?」
散々好き勝手に発言した会長は悪びれる様子を全く見せずに、舌打ちして元いた場所に戻る。
マジでリコールしてやろうか、この会長。
「冗談はここまでだ。そろそろ勝負といこうじゃないか」
「で、何して戦おうっていうんだ?」
三沢の事だ。
おそらく俺の苦手な分野で勝負してくるだろう。
そうなると考えられる内容は頭脳戦……あれ、それ詰んでね?
頭脳戦だと成績が学年上位の三沢に俺が勝てるわけないじゃん。
言っておくが、これは俺が馬鹿だからとかじゃなく三沢が頭良すぎるからだ。
とりあえず後ろで「流石は成績最下位」とか言った会長には回し蹴りをかましとく。
他の学年にまで広まってんのかよその呼び名。
『勝負方法はこれだ』
「トランプ?」
『そう。皇帝1枚に市民8枚、それに奴隷1枚のカードを使って争うゲーム。その名もEカー……』
「アウトオオオオオオオオオオ!!色々とアウトだわソレ!?」
「「「「ざわざわ……ざわざわ……」」」」
「お前らは黙っとけ!?」
ていうか冗談はここまでとか言ってたくせにこの野郎……!
それに二人でカードゲームとかいくらなんでも絵が地味すぎる。
『本当の勝負方法はこれだ』
そう言って次に三沢が取り出したのは……ドッチボール?
『親睦会の決着をつけるにはこれが一番相応しいだろう』
「…………」
ドッチボールをするなら最初からすればよかったじゃないかなんて思ってはいけない。
そう思ってしまったら今までの時間が全て無駄になってしまう気がするから、お兄さんとの約束だ。
「つーか、ドッチボールって二人でか?二人だとただの規模が違うキャッチボールだぞ」
もしくはお互いに避け続けて無限ループに陥るかのどっちかだ。
『そうならないためにも追加メンバーを2人まで認める。内野2人に外野1人の変則ルールだ』
言われて俺は後ろを振り返る。
幸いな事に、この場には2人以上の味方がいる。
『おっと、いくらなんでも3対1では流石の俺でもキツイからな。五十嵐会長はこちらのメンバーに加えさせてもらおう』
「もとから選ぶつもりはないのでお好きにどーぞ」
「ナッキーのバーカッ!後で私を捨てた事後悔してもしらないんだから!」
「ナッキー言うな」
初めてそんな呼ばれ方されたわ。
そもそも会長を味方にしたら足手纏いになる予感しかしない。
「ん?あと1人はどうすんだ?」
『心配無用。あと1人は既に呼んでいる……カモンっ!』
掛け声とともに壇上に現れたのはあまりにも予想外すぎる人物だった。
「うう……なんで私がこんな事」
「み、美羽先生……」
既に戦意が消失している我らが担任、おっp……美羽先生。
美羽先生の事だ。腐っても自分の教え子である三沢の頼みを断れなかったのだろう。
長袖長ズボンの学園指定のジャージに身を包み、涙目で肩を落とす先生。
勝負だとはいえ、こんな状態の美羽先生にボールをぶつけるのはかなり躊躇われる。
三沢の事だ。間違いなく確信犯だろう。
相手のメンバーが分かったところで、俺は改めてメンバー候補達に目を向ける。
「ふえっ!?あうあうあうあう……」
最初に八神を見ると、八神は途端に狼狽え、首を横にぶんぶんと振る。
ま、まあ、運動が苦手な八神を選ぶのは八神自身にとっても酷だろう。
だが、そうなると残りは2人しかいないわけで。
「ワクワクドキドキ……」
「ふ、ふん」
期待を込めた目でまっすぐと俺を見つめる妹に、そっぽを向きつつも俺をチラチラと横目で見てくる魔王(笑)さん。
「……マジでか」
どうやら俺はメンバー数には恵まれていても、そのメンバーには恵まれなかったようだ。
いったいどこで選択肢を間違えたのだろうか。
たぶん運命の女神は俺のことが嫌いなんだろうな。
選びたくない。
けど選ばないと始まらないし、始まったとしても1人では勝ち目がない。
「……じゃあ二人で」
「ぬふふふー。まかせてよお兄ちゃん!球遊びなら得意なんだから!」
「し、仕方ないわね。嫌がってるレナに任せるは可哀想だし、貴女がどうしてもって言うなら出てあげるわよ」
「ドーシテモ」
不安だ。不安でしかない。
スペックで言えばこれが最強メンバーなんだろうが、主にチームワーク的な問題で不安だ。
そもそも勇者(笑)と魔王(笑)と同じメンバーの俺って何者?村人A?
にしては荷が重すぎるだろ絶対。
関係ないが、妹が球遊びって言うと別の意味に聞こえてくる俺はもう終わりだと思う。
『決まったようだな。なら早速始めようではないか』
体育館に元から張られているテープに従って半分に分かれる。
どの学校にも色別で様々の競技のコートの範囲をテープで示しているが、ドッチボールのコートの分張られているのはウチの学園ぐらいではないだろうか。
「まさか貴方なんかと協力することになるとはね」
「それはこっちのセリフだよ。ただ勘違いしないで。私は魔王の味方じゃなくてお兄ちゃんの味方なんだから」
「貴方こそ背中には気をつけなさい。邪魔になるようなら私が容赦なく打ち抜くから」
「打ち抜くって何!?味方だよ!?俺達全員味方だからね!?」
早くもチーム内で不穏な空気が流れ始める。
もう嫌だよコイツら。協調性0なんだもん。
「で、2人は内野と外野どっちがいい?」
「「内野」」
「何でそういうとこは息が合うんだよ!?」
「今どきの女の子はアグレシッブなんだよ」
「守るのは性に合わないわ」
余計に不安になってきたが、本人たちがやりたいというなら仕方ない。
2人を自分陣地に置いて俺は外野に出る。
三沢のチームは内野に三沢と美羽先生。外野に会長という布陣だ。
美羽先生には今のうちに手を合わせて黙祷を捧げておこう。
それより、いつの間にか宝を探しだした一般生徒達が体育館に戻ってきた。
大半の生徒ははこの場の空気に酔ったのか、賞品を獲得出来なかったのに関わらず異様な盛り上がり出した。
一方残りの一部の生徒ははこちらを馬鹿でも見るような冷ややかな目で見ている。
……うん、まあこういう空気が嫌いな子もいるよね。
その割にはどっちが勝つか賭け事をしているが。
「それではプレェェェェイボォォォォォォォォォル!」
三沢のやかましい開始宣言が体育館中に響いた。
……結果からいえば我が勇者(笑)・魔王(笑)の混合軍は圧倒的だった。
考えてみれば前に言ったように三沢は頭脳担当。
人並み以上には運動も出来るとはいえ、文武共にパラメータを振り切っている厨二コンビに立ち向かえるわけがない。
美羽先生?
……初っ端から魔王(笑)さんの無慈悲な一撃によって昇天させられたよ。
その後三沢は粘りはしたが2人が繰り出す3次元ドッチの餌食となった。
実力が拮抗している分もしかしたら相性がいいのかもしれない。
「……三沢。お前ならこんな展開になるって分かってたくせに何でドッチにしたんだよ」
「ふ、ふっ。男には、負けると分かっていても挑まずにはいられない時があるのだよ……」
言っている事は格好いいが、その時が学校の親睦会ってのはどうなんだ。
相変わらず己の愉悦に命を懸ける男である。
「わ、我が人生に一片の曇りなし……!」
「曇りだらけだろうが」
終わり方があまりにもあっけなかったため、これで本当にいいのかと思えてくるが終わってしまったものは終わってしまったんだからどうしようもない。
これでようやくゆっくり出来る……って。
「結局俺の宝物って何だったんだ?」
「なに。一ノ瀬が負けたらお前の自室にあるパソコンにウィルスを送ってデータを爆破させようとしただけだ。いくら俺といえ実際に被害が出るような馬鹿なマネはしないさ」
「出てるよ!?犯罪規模で被害が出てるよ!?」
10代男子にとってパソコンのデータが消されるほど辛いものはない。
何故かって?
自分の胸に手を当てて考えれば分かるだろ?
「そういえば、ホレ。優勝賞品だ」
三沢から渡されたガラス瓶『ミサビタン』を受け取る。
……腑に落ちない終わり方がするのは俺だけだろうか?
出来が微妙ですね……いえ、言っちゃえば毎回微妙なんですけどね。
これがスランプなんですかね。
―人気投票途中結果―
魔王(笑)さん:12票
新世界の神(笑):7票
ほんとに浮気しちゃったゾ:4票
マッドサイエンティスト:3票
おっぱいティーチャー:1票
ほんとに浮気されちゃうの!?:1票
妹:1票
ついに妹に1票入りましたw
投票はまだまだ受け付けていますので、投票していない方がいましたらどうかよろしくお願いします。




