17「どうやら女帝が姿を現すようだ」
投稿、及び感想の返信が遅れてしまい申し訳ありません。
八神の活躍によって、カードが何を指し示すのか判明した。
他の生徒達に出遅れてしまった分、俺と八神は急いで体育館を出ようとしたのだが。
「じー……」
魔王(笑)が仲間になりたそうな目でこっちを見ている!
「さ、紗那さん……」
壇上で涙目のまま体育座りで何かを訴えるかのようにこちらを見つめる、いや、睨む魔王(笑)さん。
彼女は自称とはいえ魔王としての威厳や尊厳が急降下している事に気付いていないのだろうか。
まあ、俺からしたら元からそんなものは0なんだが。
数少ない貴重な友人の八神はそんな魔王(笑)さんを可哀想なモノを見る目で見ている。
八神の顔には「もう見てられないよぉ」と書かれているように見えるのは気のせいではないと思う。
……なんやかんやで一番の苦労人は八神なのかもしれない。
今度八神には俺が使っている胃薬を分けておこう、うん。
「……三沢」
『構わん。二階堂がいなかろうが支障はないからな』
と、今回の最低な最高責任者から許可を得たので、俺は仕方なく魔王(笑)さんの目の前まで近づく。
そしてそこから180度回転。
魔王(笑)さんに背中を見せつけるようにして俺はこう言った。
「――ついて来れるか?」
「行きましょ、レナ」
「はい」
「…………」
ドヤ顔を決める俺を華麗にスルーして体育館を出ていく二人。
本当に世界はこんなはずじゃなかった事ばかりだ。
『ついて来れるかじゃねえ……!てめえの方こそ、ついてきやがれ————!!』
「三沢は黙っておこうか」
マニアックなノリに完璧に対応出来る三沢は流石だと思う。
だが残念ながら今のはお前に言ったわけではないのだよ。
俺は若干しょぼくれる三沢を一瞥して魔王(笑)さんと八神の後を追う。
……どうでもいいが、かなり不安な凸凹パーティになったな。
魔王(笑)に、その手下に一般ピーポーかつ模範生である俺。
この場に妹と三沢がいなくて本当によかったと思う。
もしその二人まで加わったらこのパーティの名は間違いなく『勇者(笑)or魔王(笑)と愉快な仲間達』になっていただろう。
……自称だろうと勇者と魔王が同じパーティってのはどうなんだろうか。
そのパーティは一体何を目的に旅をするんだ?
まあ、旅なんてしないんだが。
「珍しく大人しくしてると思ったら、まさかこんな形で参加してるなんて……」
魔王(笑)さんは額を押さえ、溜め息を吐く。
俺達3人は体育館を出て、目的地に向かっている。
『女帝』と言われて思いつくのは1つ―
いや、1人しかいない。
青南学園の高等部3年にして、現生徒会会長。
魔王(笑)さんが生徒会に入るまで続いた暗黒時代の幕を開けた張本人。
過去最大の不信任票を獲得し、今でも不評が多いのに何故かリコールされずにいる生徒会長。
『最低・最悪・最強・最狂』の四天王の一角でもあり『最低』を司っている。
そんな悪い話が絶えない会長に付いた二つ名が『女性としてでなく人として最低』
これを略し、皮肉の意味を込め、文字をイジったものこそ学園における『女帝』という言葉なのだ。
「着きました!」
4階まで登り、ようやく目的地の部屋の前に着いた俺達。
その部屋の扉のプレートには『生徒会室』と書かれている。
「もういい加減にしてください、五十嵐会長―――!!」
魔王(笑)さんが怒りを顕にしながら部屋の中に入る。
それに続き俺と八神も中に入る。
「来たようね」
部屋の中に入ると、そこで黒髪を肩まで伸ばした女性がニヒルな笑みを浮かべて俺達を見つめていた。
「まず言わせてもらうわ。―――これは、ゲームであっても遊びではない」
「いきなり親睦会をデスゲームみたいにしないでくれます!?」
ネタがタイムリー過ぎて思わずツッコんでしまった。
出鼻を挫かれた気分だ。
「あの文章を解読するとは……流石は私が見込んだ男だよ、ワトソン君」
「いえ、一ノ瀬です」
手を背中の後ろで組んで、部屋の中をゆっくりと一週するかのように歩き始める五十嵐会長。
正直、生徒総会の進行や連絡事項の報告は魔王(笑)さんがしていたので、会長の姿をまともに見たのは今が初めてだ。
「だが、些かのんびりとし過ぎていたのではないかね、アンダーソン君」
「だから一ノ瀬だって!何、アンタはRPGのキャラかなんかか!?」
「……今の会長に何を言っても無駄よ、夏樹。この人、自分の世界に酔い過ぎてて周りが見えてないから」
「流石は四天王だな……って、ん?今、夏樹って言った?」
「い、いいじゃない。一ノ瀬じゃ妹さんと被るし、私は友達は名前で呼ぶもの!ね、ねえ、レナ!」
「え、えっ!?な、なななんでここで私に振るんですか!?」
……言えない。
なら俺も名前で呼ぼうかなと思ったけど、ずっと心の中で魔王(笑)さんって呼んでたせいで名前を忘れただなんて。
悪いが名前を思い出すまではこのまま魔王(笑)さんと呼ばせてもらうことにしよう。
もちろん心の中だけだが。
「コラ―――!!私を置いてラブコメすんな!」
「雰囲気、てかキャラ変わってるぞ会長」
もう敬語はやめた。
この会長には敬うところが0だと分かったから。
「この個性が強い学園で埋もれないように自分だけの個性を見つけるには臨機応変なキャラをした方がいいかなって思わない?」
「そんなキャラは余計に埋もれると思うぞ」
そもそも、そんな考えを思い付く時点で充分個性が強いだろ。
「……五十嵐会長、授業はどうしたんですか?確認するまでもなく2年生以外は通常授業のハズですが」
「サボタージュに決まってるじゃない」
わなわなと身体を震わせながら会長に尋ねる魔王(笑)さん。
だが会長は何当たり前の事訊いてんのよと言わんばかりに即答した。
「生徒会長が授業をサボるなですって?」
「誰も言ってません」
「でも私は許される。なぜなら私は―――美少女だから!」
「微少女の間違いだろ」
「ぐはっ!?」
俺と魔王(笑)さんのダブルツッコミを受けた会長は吐血したかのようなリアクションを取る。
だんだんイライラしてきたのは俺だけではないだろう。
あの八神でさえ、この会長の存在に引いているのだから。
「紗那っちとかが美少女過ぎるんだわ!?私を他の学校に送ってみ!その学校なら間違いなく美少女だって噂されるから!」
「自惚れない方がいいぞ」
「君、初対面のくせに私に毒舌だね!?流石の私でも解毒薬は持ち合わせてないよ!?」
魔王(笑)さんや八神、それに妹をS級美少女だとしよう。
そうすると会長はB+ぐらいだと思う。
その認識は学園共通で、去年行われた非公式非公認のミスコンで出場したはいいが投票数0という快挙を成し遂げている。
本人からしたら軽く黒歴史ものだろう。
「ていうか顔が人形並みに整い過ぎなのよアンタら!生まれる前にキャラエディットでもしたのか!?それとも神様から容姿特典でも貰ったのか!?誰だ、人間は皆平等とか言ったのは!?」
「……一ノ瀬君。会長さんはポル○ガでも召喚するつもりなんですか?」
「一言もナ○ック語なんて喋ってないわよ!?」
八神はそういうのには疎そうだからな。
キャラエディットとか神様特典とかの言葉は理解不能なのだろう。
……その割にポ○ンガを知ってたのにはビックリだけど。
「……それより宝探しはいいの?」
「そ、そうだ」
魔王(笑)さんに言われて、ようやくここに来た目的を思い出す。
「おら、さっさと宝出せや会長」
「……後ろを見てみなさい」
「後ろ?」
言われた通り後ろを見る。
そこには魔王(笑)さんと八神、あとは扉しかない。
まさか、この中に宝が隠されてるとでもいうのだろうか。
「いかなる困難な状況でも貴方を助けてくれる彼女達。――そう、彼女達こそ何物にも変えられないかけがえのない宝」
「…………」
「あっ、はい。これを貴方に渡すように三沢に言われました。だからその拳を下ろそ、ねっ?貴方の拳はもっと大切な時に使うべきだと会長は思うよ」
仕方なく俺は拳を下ろす。
そして、急に腰が低くなった会長から一枚の紙を受け取った。
……なんかデジャブなんですけど。
「何よ、その紙?」
魔王(笑)さんと八神が俺に近づいて手元を覗き込んできた。
嫌な予感ほどよく当たるというが、今回もその例に漏れないようだ。
『チルチルミチル』
「チルチルミチル?」
また何かの暗号だろうか?
だが今回はさっき以上に意味が分からない。
「お兄ちゃんっ!!」
「しまった!今のは復活の呪文だったか!?」
紙に書かれていた意味不明な文章を読み上げてみると、妹が突然生徒会室に現れた。
てか、コイツ授業中だろうが。
「サボタージュだよ」
「流行ってんの、その言葉!?」
「貴方中々見どころがあるじゃない。どう、次の会長やってみない?」
「ついに私が実権を握る時がキタコレ」
「頼むからこれ以上状況をカオスにしないでくれ!?」
妹と会長は一番組み合わせてはいけないコンビな気がしてきた。
マイナスとマイナスをかけたらプラスになるが、ツッコミとツッコミをかけてもカオスになるだけなんだから自重してほしい。もしくは超マイナス。
「って、こんなのんびりしれる場合じゃないんだよ!?このままじゃ私がドカンなんだよ!?」
「へー。で?」
「薄い!?私が現れてから全く喋らない魔王と八神先輩ぐらいリアクションが薄いよ!?」
「ケンカ売ってるのかしら、この子……!」
「さ、紗那さん、落ち着いて」
誰かもう一人ツッコミを呼んでくれ。
俺だけじゃ捌ききれない。
せめて三沢がいれば……更に状況が悪化するだけだな。
「三沢さんからメールが届いたの!それで、お兄ちゃんが宝探しで一番にならないとお兄ちゃんの宝が爆破されるんでしょ!?」
「何してんだ、三沢の奴……」
「つまりそれって私が爆破されるって事だよね!?」
「ああ、なら無理して一番になる必要ないのか」
「お兄ちゃん!?……いや、待てよ。つまりこれはお兄ちゃんが遠回しに私が一番の宝物だと認めてくれったって事に……」
我が妹ながらなんて面倒くさい性格をしているんだ。
第一、もし人間を爆発させたら最早イベントじゃなくてテロだから。
……三沢のやってる事はテロと言っても間違いじゃないが。
「ていうか、アキのためじゃないがのんびりしてる場合じゃないんだよ。さっさとこれを解読しないと」
「あ、あの、それなんですけど私多分わかります」
本当に八神が大活躍だ。
せっかくパーティーに加えた魔王(笑)さんは何の役にも立っていないというのに。
これからはその豊富な知識に敬意を示す意味で八神を夜神と呼ぼう。
「本気でやめてください」
残念だ。
八神なら新世界の神(笑)になれると思ったのに。
「ち、チルチルミチルというのは『青い鳥』の物語に出てくるチルチルさんとミチルさんの事だと思います」
「あー……あったな、そんな話」
「幸せを招くという青い鳥を求めて二人は旅に出るんですが、青い鳥は二人が帰るその家にいたという話です」
灯台下暗しというべきか。
近くにあった日常こそが幸せだという意味なんだろうが、無駄足にもほどがある話だ。
「知ってる?『青い鳥症候群』と呼ばれる症状があってね、今の自分の職場に不満を持ち、理想の職場を求めて職場を転々とする人もいるって」
「一つの幸せを掴んでも、またすぐに次の幸せを求めてしまう……。人間とはなんて欲深い生き物なのかしら」
「黙れ生徒会コンビ」
会長と魔王(笑)さんが知りたくもなかった話を教えてきやがった。
そんなメルヘンな名前のくせに内容がシビアすぎるだろ。
「……ん?って、事は?」
「た、宝物はスタートした最初の場所。つ、つまり―」
……なるほど。
これでは俺もチルチルとミチルの事を馬鹿には出来ないな。
しかし、よく考えれば三沢らしい隠し場所だ。
「なら急いで向かうぞ、たi「ええ、行きましょう!始まりの場所、『体育館』に!」……」
……まさか会長においしい所を持って行かれるとは思わなかった。
これと同時にちょっとしたアンケートを活動報告に載せたので、お手数ですが協力していただけると嬉しいです。




