15「どうやら三沢はノリノリのようだ」
更新が遅れてしまい申し訳ありません。
ついに運命の日がやってきた。
学年全体で行われるレクリエーション、つまり親睦会は午後の授業を全て潰して開かれる。
たかが親睦会のために授業を潰すとは、この学園はどれだけイベントが好きなのだろうか。
既に昼休みの終了のチャイムと同時に俺達はクラス毎に出席番号順で体育館に並ばされている。
そこには肩を寄せあいながら泣き崩れる女子生徒や、遺書と書かれた紙を持つ生徒が何人かいる。
さらに放送部の人間はカメラを用意し、「・・ご覧ください。こちらが終末の地、体育館です。ナレーターとはいえ、今この場にいる運命を私は呪わずにはいれません。他の参加者達も……」と実況をしている。
多分、毎日昼休みに放送される放送部主催の学園番組のためだろう。
……三沢が喜びそうな展開だ。
その三沢は、この親睦会の主催者のためここにはいない。
最後の打ち合わせとかなんかで準備があるそうだ。
三沢の姿が見えない事で生徒達は逆に不安になっていく。
「ん?」
すると、前から大量に封筒が送られてきた。
確認してみると、一つ一つに8組の名前が書かれている。
そこには勿論俺の名前も。
さらには指示があるまで開けないでくださいとまでの注意書も。
今配ったのだから当然親睦会に関するモノなんだろうが、封筒の中に何が入ってるかはまるで予想がつかない。
ただ触った感じでは紙が一枚入っているようだ。
封筒が生徒全員に回ると、突然に体育館の照明が落ちた。
カーテンもいつの間にか閉めきっていたようで、奈落のように真っ暗だ。
突然の事態に生徒達は混乱する。
が、次の瞬間「バンッ」といった爆発音から、壇上に一筋の光が差した。
……なんて無駄に凝った演出なんだ。
その光が差す先には、この世全ての悪を体現したと言っても過言ではない男が満面の笑みを浮かべ立っていた。
『Ladies &(エン) Gentlemen(ジェントルメ―――――――――ンッ)!!』
手に持ったマイクで高らかに声をあげる三沢。
その無駄な発音の良さにイラッときたのは俺だけじゃないと思う。
『大変長らくお待たせした!これよりだいたい28回目ぐらいの親睦会を開催する!司会・進行はこの俺、三沢だ―――――――――――!!』
なんてアバウトな開催宣言だ。
しかも殆んどの生徒から空き缶やらゴミなど色々と投げられている。
とりあえず俺も便乗して鼻水をかんだティッシュを投げておく。
日頃から溜まっていた三沢へのストレスが2%ぐらい発散出来た気がする。
よし。
『——熱い声援、感謝する。皆がこれほどまでにこの親睦会を楽しみにしてくれていたとは』
……三沢には物事を全てを都合よく解釈する機能でも備わっているのだろうか。空き缶を投げられている時点で明らかに反対されていると分かるだろうに。
『今回の親睦会は俺が主催する以上、今までの親睦会とは一味違う内容を考える必要があった』
ねーよ。
『そこで今回はまだ大して仲良くもないクラスで一致団結しようなどと生ぬるい内容ではない!各々の能力を存分に発揮出来る個人戦とする!!』
「親睦会の意味!?」
三沢のあまりの暴挙に思わずツッコんでしまった。
親睦会の目的はクラス内の団結を強めるものだという事を完全に忘れてやがる。
『流石は俺が見込んだ相棒。見事なツッコミだ』
「ありがと……って、違う!?相棒でもねえし!」
『だが、ノリツッコミはまだまだだな。精進しろ』
「余計なお世話だ!?」
壇上の三沢と言い合っていたら、8組以外の連中から親の仇でも見るような目で見られた。
……俺が何をしたっていうんだ。
少なくとも今回は無関係だというのに。
『時間もないので、ルールの説明といこう。まずは配られた封筒を開け、中に入っているモノを確認してくれ』
周りの視線を無視して、俺は指示通りに封筒を開け、中のモノを確認する。
そこには予想通り一枚の紙が入っており、ある文章が書かれていた。
『彼女は3番目であり、愛を司る者。12の星を散りばめた冠を被り、ゆったりとした衣服を身に纏う。手にはセプターを、椅子の下には金星のシンボルを付けた盾を置く。小川の水が緑豊かな木々の合間から流れていく。彼女は実る穀物に囲まれている』
……意味がわからん。
意味がわからないのは俺だけではないようで、他の生徒達も自分の紙を見て首を傾げている。
『ふふふ、その紙には一人一人違う内容が書かれている。その紙こそが今回のイベントの要なのだ』
「要?」
『なぜなら今回のイベントの内容は『宝探し』。その紙に書かれた文章から宝の場所を推測し、探し当てるというものだ』
……個人戦の時点でどうかと思うが、それでもまだ一応はまともな内容だ。
まあ、宝探しにしてはいささか規模が大きすぎるが。
本当にコイツはこの行動力をもっと別のところで発揮するべきだろう。
才能の無駄遣いとはこのことか。
『だが欲にまみれた貴様らのことだ。何もない戦いでは張り合いがないだろう?』
にやり、と友人目線から見ても非常に憎たらしい笑みを浮かべる三沢。
当然ながら、その一言で生徒達からのブーイングが勢いを増した。
それに伴い投げられる空き缶などの勢いが増し、弾丸のようになっているが、三沢は上半身だけをぐにゃぐにゃと動かして躱す。
……どんだけ人間離れしてんだよ。
三沢を人間としてカテゴリーするのは間違っているのかもしれない。
まだ三沢が宇宙外生命体やら未確認生命体と言われた方が納得出来る。
『そこで!今回はこの俺が直々に豪華商品を用意してきた!カモンッ!』
「だから何で私がこんな事を……。そもそも私は今回の内容は納得してないのにあの会長のせいで……」
三沢が指を鳴らすと、いかにも渋々といった様子で手に銀トレイを乗せた魔王(笑)さんが現れた。
よく見ると、そのトレイの上には何か小さなビンのような物が乗っている。
あれが豪華商品だとでもいうのだろうか。
というか、魔王(笑)さんは人に頼まれてもNOと言える人間になろう。
押しが弱くてパシリに使われる魔王(笑)なんて前代未聞すぎるんですけど。
『これは三沢製薬が誇る究極商品……と、言えば何だかわかるかな?』
「ま、まさか……」
三沢製薬が誇る究極商品と言われて思い浮かぶのは一つしかない。
いかなる病気・症状だろうがたちまち治し、どんな怪我だろうと死ぬ前ならば回復させる事が出来るとまでも言われている万能薬。
『そう。これが幻の『ミサビタン』だ!』
天に掲げるようにミサビタンを持ち上げる三沢。
三沢製薬を業界のトップまで引き上げたのは間違いなくその薬『ミサビタン』があってのもの。
桁が5桁はおかしいんじゃないかと言われ、生産量は年間で30にも満たない。
そのため、世間からは幻の薬『エリクサー』と呼ばれている。
……正直、正式な商品名も世間からの呼び名もアレな気がする。
三沢製薬の商品開発部の連中のネーミングセンスはもう薬で頭がどうにかなっちまったんじゃないかと心配してしまう。
というか100%間違いなく国民的栄養ドリンクに喧嘩売ってる名前だ。色々とアウトだろ、それ。
『解説感謝する一ノ瀬。今回は学園の一大イベントということで俺が父から貰い受けてきたのだ』
それでいいのか三沢製薬。
1つで莫大の利益を生む品を息子の頼みとはいえ、たかが学園のイベントだけのためにやるとは。
血は争えない。変人の親はまた変人というわけか。
『今回の宝探しにおいて見事1番に輝やいた者にはこれを贈呈しよう。自分で使うのもよし。大切な者の為に使うのもよし。売りさばいて金を手にするのも自由だ。どうだ?これでやる気が出ただろう?』
「「「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」
オリンピックで母国が金メダルを獲得したんじゃないかと思うぐらいの盛り上がりをみせる生徒達。
なんて現金な奴らなんだ。
三沢の言ってた欲にまみれたって表現はあながち間違いではないかもしれない。
「約束する。俺は君のために絶対に1番になるよ……」
「聞いておくが——別に1番になってもかまわないのだろう?」
「……震えてるって?——違う。武者震いだ!」
「これが世界の意思か。いいだろう。ならば抗ってやるさ!」
少なくともコイツらが1番になることはないだろう。
てか、なってほしくない。
しかも、よく見てみると厨二発言をしているのは全員8組男子だった事実に俺涙。
認めたくない現実がそこにあった。
『豪華賞品を前にしてもあまりやる気のないようだな、一ノ瀬』
「まあ、生憎と俺も、俺の周りにも病気で困ってる奴はいないから必要ないし。それなら生徒の中で本当に欲しい奴が手にした方がいいだろ」
『……ふむ、一理あるな。だが、俺は主催者のため参加できない。その上、優勝候補の一ノ瀬まで参加しないとなると盛り上がりに欠けてしまうな』
相変わらず勝手な事を抜かす三沢。
人を盛り上げ要因みたいに扱わないでほしい。
『そこで!一ノ瀬にはあるルールを設けた!』
「あるルール?」
……嫌な予感しかしない。
『一ノ瀬が隠された宝を発見出来なければ、一ノ瀬の宝物を爆破する!』
「な——————!?」
『安心しろ。爆発は最小限で一ノ瀬の宝物以外には被害が及ばないようにしている』
「安心出来るか!?俺の宝物って何!?つーか、それもう犯罪だから!?」
『それこそ無用な心配だ。等価交換として代わりに俺の美貌を写した秘蔵の写真をお前の部屋に置いて来た』
「価値0じゃねーか!?よくそれが対等な物だと思えたな!?」
『ふむ。やはり俺の写真は価値が高すぎたか』
「自惚れるなよ!?」
俺の必死の叫びをスルーし、三沢は俺から視線を外す。
そして再び生徒達の方を見て、ついに言った。言ってしまった。
『ではこれより!宝探しを始める!Ready……』
「ちょ、ちょっ、待っ……!?」
『Go——————!!』
こうして、後に『三沢の黄昏』と呼ばれる親睦会の幕が開いた。
俺はこれから先、何があっても今日の事を忘れはしないだろう。
「強く……どうか強く生きてください」
優しく肩をポンと叩いてくれた八神が憐れみに満ちた表情で首を横に振った。
……泣いてもいいかな?
まさか開始宣言をするだけで1話使うとは予想外。
親睦会は次回にへと続きます。




