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ネトゲの相棒を男だと思って結婚したら、リアルは大人気アイドルだった件  作者: 春野 安芸
第2章

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107かくれんぼ


 今現在において日本の中心は東京である。

 人口においても経済においてもトップであり心臓部である都市だ。


 歴史を紐解けば関西が日本の中心地だった歴は長く、京都が中心だった平安時代は1000年続いたのに対し東京に移行してからはまだ150年前後と短いが、それでも紛れもなく現在の中心は東京である。

 たった150年。されど150年。この短い間に人はどんどん増え続けついには一都市集中とまで言われるようになってしまった。


 人口減少だの少子高齢化だの言われているが、それでも東京は人が多い。それは田舎暮らしの俺でもテレビやネット記事なんかでいくらでも目にしてきた。

 だから今日という日も東京という人口密集地の荒波に揉まれ、あれよこれよと身動きできぬまま流されていくことすら覚悟してこの地に降り立ったのだが―――――


「ぜんっぜん居ないな……」


 ガタンゴトンと揺れる電車で俺は一人小さくつぶやく。

 ザッと振り返って社内を見渡せば全然といっていいほど人の居ない車内だった。


 いや、たしかに人はいる。椅子は全部座られてるし、つり革に捕まっている人も沢山いる。

 けれど想像と比べたら全くといっていいほど居なかった。俺はもっとこう……ザ・満員電車って感じでギュウギュウ詰めになっていて駅員さんが扉外から押し込むレベルを想像していたというのに。


 これでは帰宅時間のウチの電車と同じくらいじゃないか。

 本来はゆっくりできることを喜ぶべきだが、いかんせん覚悟していたから拍子抜け感も否めない。

 そんなこんなで扉横のスペースに身体を預けて脱力していると、ポーンと目的の駅が近くなったことのアナウンスが流れ出したのを耳にして扉前に陣取った。


 さぁ、初めて一人で散策する東京。

 以前は家族全員車で移動していたから色々勝手が違って不安もあるが、それ以上に楽しみな気持ちも多くあった。

 この扉の向こうには一体何が待っているだろう。沢山の人や物、場所がある東京。先のことを考えるだけでワクワクしてくる。


 そんな心躍る初めての一人旅。

 いざ最初の一歩を……!!


 と、自信満々に踏み出そうとした俺の思惑とは反対に、いざ開いたのは反対側の扉側だった。

 きっと近くに若葉や雪がいたら絶対に笑われていたことだろう。俺は誰も知らぬ場所で良かったと、少し顔を赤くしながら電車を降りるのであった。








「さて、これからどうしよう」


 恥ずかしがりながら電車を降り、改札を無事通過できた俺は目の前の信号を待ちながらひとまず考える。

 目の前には絶えず行き交う車と、同じく青信号を待つ多くの人々。

 そして少し顔を上げれば田舎では考えられないくらい多くのビル群が天まで突き抜けそうなほど高くそびえ立っていた。

 まさに大都会。人も車も建物も多く全てが桁違い。少し首を曲げれば道の先には有名な電波塔……タワーまでもが鎮座していた。

 これが東京……まさしく別世界だ。


 どこからどう見ても完全にお上りさん待ったなしな状況。どうすればいいかわからず脳内が大変だが、何よりもまず考えるのはこれからのことだ。

 鬼のような人の多さに流されることを予期していた俺。いつ流されて反対方向の車両に入ってしまってもいいよう、待ち合わせ時間にはかなり余裕を持たせていた。

 その猶予はなんと3時間。しかし蓋を開けて見れば一切人に流されること無く思い通りに動いてしまい、早くも待ち合わせ場所にたどり着いてしまった。


 駅の北口を出て信号を渡った少し広い所。そこが俺とファルケで決めた待ち合わせ場所だ。

 今こうしている間にもその場所は見えている。信号が青になれば10数秒で着くほどの距離だ。

 しかし今着いても意味がない。まだまだかなりの時間がある。これならば反対側の電車に乗って秋葉原でゲームグッズを見たほうがいいかもしれない。

 ここと秋葉原は数駅。行って帰ってくる時間は充分あるだろう。


 それに、このまま青になるのを待っていたら前後左右すべての方向に人が集まっていて、青になると同時に流されて駅まで戻れなくなるかもしれない。

 気づけば1つ向こうの信号は赤色。この信号の色が変わるのももうすぐだろう。

 俺は振り返って多くの人が続々と集まっていることにゲンナリしつつも、意を決して人混みを掻い潜り改札まで突っ切ろうと一歩を踏み出そうとした、その時―――――


「――――見つけた」

「えっ………?」


 ―――――踏み出すことは叶わなかった。

 俺が歩み始めようと振り返った瞬間、すぐ隣から小さなつぶやくような声がこの耳に届いた。

 人が多くなれば雑踏も多くなる。沢山の人の声が行き交うこの場所で確かに聞こえた。

 俺に言われたとも限らないのに、何故かクリアに聞こえるその言葉。そして透き通るような声。


 思わず声の聞こえた方に顔を向ければ、そこには誰も居らず――――いや、視点を下げたところで声の主と思しき人物は立っていた。

 若葉や雪と同じ……いや、2人よりも低いだろう。中学生、もしくはそれより下かもしれないその人物は明らかに俺を向いていた。


 しかし顔まではわからない。

 真っ黒な上着にフードを深くかぶった状態で俯いている上、見下ろす形になっているなっているものだから、その人物が何者か性別すらわからない。

 けれど、心当たりだけはあった。東京という俺の知り合いなどまずいないであろう場所。しかしここを指定した人物は、たったひとりだけ。


「まさか……キミがファル――――」

「こっち来て」

「――――うわっ!?」


 そう。この場で心当たりのある人物なんてたった一人。

 しかしその名前を言い切る事はできず、俺はいつの間にか掴まれていた腕を引っ張られてその場を移動していた。


 きっと呼び止められた時点でゲームオーバーだったのだろう。引っ張られると同時に信号は青になり、俺は引っ張られるまま縫うように人混みを進んでいく。

 人混みなんて意にも介さないその動き。きっと東京という場に慣れているのだと理解させられる。黒コートの人物はたった一度さえこちらを振り向くこと無く信号を渡り切った。

 そしてすぐ近くにある待ち合わせ場所を一瞥し、そのまま歩道に沿うように突き進む。

 俺は全く知らない場所にて、全く知らない人物にいいようにされて誘拐?されてしまうのであった。




 ◇◇◇◇



「もしかしてとも思ってたけど……陽紀君ってここで待ち合わせかぁ……」


 時はほんの少し遡り、別視点。

 陽紀にバレないよう着いてきた若葉は駅に降り立つと同時にゲンナリ嫌な顔をした。

 それはさっき出口をミスした陽紀を見て笑みがこぼれた表情と正反対。本当に嫌な様子で彼女も改札をピッと通り過ぎる。


「ここだけは来たくなかったのになぁ……なんでよりにもよってこの駅で……」


 若葉は小さく文句を言いながら散々見慣れたビル群を見上げる。

 ここは彼女の所属する事務所の最寄り駅。事務所は駅から徒歩5分以内の好立地。

 しかしだからこそ、東京に行くと告げていない若葉にとっては知り合いに会って面倒なことになるリスクもあって最も来たくない場所だった。

 だが降りてしまったものは仕方ない。それに陽紀が降りたのなら仕方ない。そう自分に言い聞かせて人混みに紛れつつ、陽紀の様子がうかがえる位置へと移動する。


「でも、ファルケって誰なんだろう……ここオフィス街だしやっぱり社会人?」


 彼女は待ち合わせ相手の正体に気づいていない。

 ただでさえ数多く人がいる東京。最寄り駅が事務所と近くても、事務所とファルケを結びつけることなんてほぼ無いとして可能性の外へと追いやっていた。


 赤信号で数多く人が待つ駅前。

 遠くから陽紀の様子を伺えばスマホを手にしながら何かソワソワしているようだということに気が付いた。


 トイレ?いや、それならスマホを持たないはず。

 何らかの場所を探すにしてもスマホを操作する気配はなく通知画面のみを気にしているようだった。

 もしかしてファルケに何か送ったのかもしれない。それとも……時間?


 そんなことを考えつつ彼の挙動不審にソワソワしながらも見守っている。

 もうじき信号も青になる。そうなればきっと挙動不審も解消されるだろう。そう考えながらつま先立ちになっていると、彼は若葉の不意を突くようにして大きく振り返った。


「えっ!?」


 それは若葉にとって驚きの出来事。

 決して自らの姿を捉えられてはいけないと反射的に身体をかがめて人混みに隠れる。


 もしかしてバレた!?

 だからどこに居るか探ろうとしてコッチを振り返ったの!?


 現実はただの偶然なのだが、若葉がそれを知ることはない。

 今様子を伺えば見つかってしまうかもしれない。彼女は息をひそめてジッと待つ。

 しかしそんな時間は長く続かず、すぐに信号が青になった合図である音響信号が鳴り始めた。


 チャンス……!

 これだったら人の流れに乗らなきゃならないから彼も前方を向かざるを得なくなる。


 そう考えた彼女はすぐさま屈んでいた姿勢をもとに戻して、流れ始める前に彼が立っていた場所の様子を伺ってみる。


「………あれ!? 居ない!?」


 再び伺ったその場所。

 本来なら動き出して人の流れに任せるよう歩き出しているはずだが、そこに彼の姿は居なかった。

 まさかコッチに向かってきている!?いや、人が割れる気配はない。ほんの10秒程度目を逸した隙に彼の姿は煙のように消え去っていた。


「なっ……なんで……!?陽紀君どこ行ったの……!?」


 慌てて若葉も信号を渡りきり辺りを見渡すも彼の姿はどこにも見えない。

 もしかして尾行に気づいて逃げ出した……?それとも危惧していた出来事……誰かに攫われた!?


「……いや、大丈夫。陽紀君は大丈夫……」


 そこまで考えて若葉は自分を落ち着けるために大きく深呼吸をする。

 いくら人の多い東京でもそう簡単に人は誘拐されない。むしろこんな人混みで人を担げばかなりの騒ぎになる。

 だからどう考えても彼が自分の足で動いたとしか考えられない。だから……徒歩圏内にいる。


「待っててね陽紀君、すぐ見つけ出してみせるよ」


 落ち着いた彼女は冷静に人の流れの先を見つめ、彼を探す一歩を踏み出す。

 こうして誘拐?された陽紀を探すため、若葉は意図せずとしてかくれんぼを開始するのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 江戸時代は首都東京に算入してもらえないのかなあ。まあそれを言ったら鎌倉時代も… 結局東西の勢力争いなんですよねえ。 かくれんぼか鬼ごっこか、果たして追いつくことができるでしょうか。
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