46 幽霊船、出航
パズルゲーの対戦結果は勝ったり負けたり。
中々楽しい時間であった。
ゲームの実力が近い相手だと白熱するな。
他のゲームでも対戦した。パズルゲーはともかく格ゲーではコーデリアがあまり相手をしてくれないというので、なら相手になってやるかと対戦してみたのだが、解った事が一つある。
ベルナデッタは……ニュートラルな立ち状態から二回転技が出せるという、戦慄すべき事実だ。
牽制技の先端を当てるように振ったらいきなりピカッと光られて……。
……投げキャラ使い怖い。
結局起きるまでゲームをしていた。
そして夜食 (?)に何とカップ麺を出された。あのロングセラーの超スタンダードな奴だ。
ベルナデッタは日真のファンらしい。文化的で偉大な発明だと、ポットからお湯を注ぎながら偉く絶賛していたが……。
当然ながら私もご相伴に預かった。あれは味覚情報の再現なのだろうけれど、食べ慣れている私が食べても違和感を覚えないのが無駄にクオリティが高い。
情報再現だからいくら食べても太らないし健康にも影響が出ないと言うのは素晴らしいな。庭園で好き勝手していると彼女は言っていたが、本当にやりたい放題なベルナデッタさんである。今度は是非和食もお願いしたい所だ。
私も、リフレッシュ出来た事だし。
気持ちを切り替えなければいけない。
目が覚めてから、ずっと考えていた。
昨日は確かに色々と……重なるように起こって面食らったが、一晩経って冷静になってから考えれば、また違うだろうと思ったのだ。
ベルナデッタの事。レリオスの事。枷の事。
ベルナデッタから託された、オクシディウス。分身退治。
それから、グリモワールの事。
朧げながら、垣間見えたものがある。これが。この考えが正しいのかは解らない。まだまだ見えていない部分だってある。
だけど私の推測が正しいなら――少なくとも分身退治までは絶対的に行わなければならない事だ。問題は、きっとその先にある。
思惑通りには、動いてやらない。
そう心に誓う。絶対。絶対に――だ。
だから今は……目の前の事に集中しなければならない。レリオス以前の問題として、その欠片如きにやられていたら、それこそお話にならないのだから。
――さて。
そんな風に決意を新たにしてから五日後。私は夜の海辺に立っていた。
レリオスが墜落させれば欠片に勝ち目なんかないとか言っていたが……海煌竜は墜落させようがない。それを解っていてトーランドに向かおうとするコーデリアに向かってぶつけるつもりだったのだから、本当に性格が悪い奴だ。この分では他の奴らもどうなる事やら。
街中で情報を集めた所によると、海の底からでもきらきらとした輝きを放っていて一目でそれと解るから海煌竜、と言うらしい。夜でも見えるそうだから、恐らく闇魔法とは相性が悪いだろう。
ヤマタノオロチやヒュドラのように複数の頭部を持つ多頭竜だそうだが、具体的にどんな姿をしているかはまだ分からない。
大渦を作ったとか言う話も聞けた。予想され得る特殊な攻撃手段は……大波、雷撃、高圧の放水、竜巻、氷弾、毒……辺りだろうか?
……赤晶竜は攻撃手段を予想し切れずに苦戦させられたからな。こちらに有利なフィールドを作ってから叩くという所までは間違っていないはずだが……。
因みに、海の中で戦うというのはダメだ。水中呼吸の魔法もあるが動きが鈍くなるのは避けられないし、海洋モンスター同士の戦いでは有利フィールドを作りようがなく、結局戦力の削り合いになる。
私は二日ほど頭をひねって作戦を考え、魔石を買い込み、その上で色々実験をさせてもらい、更に魔道具の作成と改良に三日をかけた。
これでようやく、ある程度は見通しを付ける事が出来た。最低限赤晶竜を殺せるレベルを想定しているのだが「奴は我々の中でも一番の小物」とか言われたらどうしようね?
詳しい情報を集められるわけではない以上、どうしたって本番になってから、アドリブでどうにかしなければならない面はあるのだ。装備品のバージョンアップも出来たし、新しい能力にも開眼した。
正直どれだけ準備しても準備し足りないが、あまり時間を掛けて足踏みしているわけにもいかない。
出港しなければならない。
しかし海煌竜の所まで乗せて行ってくれるなんて船はない。なので夜が更けるのを待ってから港町を出て、誰もいない海辺で、私はある一体のモンスターを召喚することにした、というわけである。
「断章解放。ゴーストシップ『ティターニア』」
レア ランク24 ゴーストシップ
『贅を尽くしたあの船も、今や見る影もない。朽ち果てた姿で永遠に海原を彷徨うのだ。それでも人々は船を求める。呪われているのは船ではなく、彼らが求める財宝そのものであるというのに』
夜の海に突如船影が現れた。長く風雨に晒されてボロボロになった姿だが、問題なく海に浮かんでいる。
ゴーストシップ。幽霊船なんて謳ってはいるが実はアンデッドではなく、オートマトンに近い魔法生物系のモンスターという、とんだ食わせ者だったりする。いや、呪われた宝石って肩書きだからやっぱりオカルトに片足を突っ込んだ心霊系という括りでもいいのかな……?
実際犠牲者が増えると、ゾンビにゴースト、スケルトンと言ったアンデッド系モンスターも船内を徘徊するようになるわけだし。
ともかく、船の宝物庫の奥に飾られている、握り拳ほどもある真っ赤な宝石こそがこれの本体だ。逆に言うなら船の外見がどれだけボロかろうが、宝石さえ無事なら無傷であり、海に浮かんでいられるのだ。
甲板から独りでにタラップが下りてきたので、私達はそのまま船に乗り込んだ。
舵輪を握るのは船長服を着込んだ骸骨。船員の服を着た骸骨達が忙しそうに甲板の上を走り回っている。
あれはアンデッドやサーバントとしてのスケルトンではなく、ゴーストシップ本体に使役される簡易ゴーレムのようなものらしい。
船内の作業、補修、船に乗り込んできた外敵の排除などを一手に引き受ける役割を担っている。破壊されても簡単に修復するので敵側になると非常に厄介な手合いだ。
しかし正体がゴーレムとは言え、見た目はスケルトンである。漏れなくカットラスで武装しているのは私の趣味でもあるけれど、別にファッションでそうしているわけではなく実益も兼ねている。船上、船内で取り回しがいいから船乗りや海賊に好まれるのがカットラスという武器なのである。
いや、しかし幽霊船に骸骨船員。とても絵になる。
こういう骸骨モンスター、実は結構好きなんだ。何となくコミカルで癒されるというか……。
私が変なんだろうか?
「ティターニア号、出航!」
私の言葉に従って、風もないのに船が動き出した。
うん。船名の由来はあの超有名な豪華客船のもじりなんだけれど、元ネタと同じ巨人タイタンではなくて、『真夏の夜の夢』に出てくる妖精の女王、ティターニアの名前を頂いている。
「幽霊船で出航なんて考えてもみませんでした」
とはメリッサの言葉。
コーデリアはこれで海路を移動したりもしていたけど、私も今回トーランドに向かう手段としてはあんまり考えてなかったな。SEは不測の事態に対処する為に温存しておきたいし、ティターニア号にしても見た目と違って客室の内装とかは綺麗なんだけど、コックがいるわけじゃないので料理などが出るわけじゃなし、トーランドに向かう普通の船があるならそっちを使ったんだけど。
まあ、これなら海煌竜に出会っても戦えるからうってつけだ。
因みに内装が綺麗なのは補修をしてあるからだが、外装が幽霊船のままなのはゴーストシップを名乗るならこうじゃないと、という私の見識がコーデリアとシンクロした結果だろう。
ゴーストシップも幻覚を使って自分の見た目を誤魔化す能力を持っているのだけれど、普通なら外は綺麗な船、中はボロボロにして犠牲者を誘う所なはずなのに、ティターニア号の場合は外がボロボロで中身は綺麗という、まるであべこべの仕様になってしまっている。仕様というか幻覚無しの見た目のままなんだけどね。
幸運とか不幸とか何かとゲンを担ぎたがる海賊連中は、幽霊船を見た途端に全力で逃げて行ってくれるのでこれでいいかな、とは思うんだ。非常に悪目立ちするけれど。
ま、外見がボロボロなのも実は風味だけで浸水とかはないし。素材も良いものばかりで耐久性は上がっているはずだ。
召喚してみて分かったけれど、船がゴーストシップの手足であり、武器そのものであるからか……地球への転移の際も船の性能の根幹に関わる部分は還元されずに手つかずのまま残されたようだ。
但し、本体の骸骨船員の制御能力とか、幻覚能力とか船体修復能力とか……その辺りの力は落ちてしまっているようだが、そこは仕方がないと諦めるしかない。
力が落ちてしまっていたとしても、船の運航の妨げになる天候や風向き、船乗りの士気などを丸っきり無視出来る辺り、ゴーストシップはとても優秀な子なのである。
不満と言えば、折角の出航だというのに明るい内に港を出る事が出来なかった点か。いや、港でこんなのを呼んだり、昼間に出航したりすると大騒ぎになるから自重しているんだけどね……。
さて。問題の海域に到達するのにはまだ時間が掛かるが、警戒を怠るわけにもいかない。そういう意味でも骸骨船員を使っているゴーストシップは出来る子だ。私達が警戒に当たる必要がないからである。
海洋モンスターには、確実に遭遇するだろう、と見ている。
赤晶竜のいた所に安全を求めてモンスターが集まってきたように、海煌竜のいる付近にも海洋モンスターが集まっていると予想されるからだ。彼らとしては目立つ海煌竜にだけ警戒しておけば他の大型モンスターには警戒しなくていいのだから。
明日からまた19時ぐらいからの更新に戻ります。




