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33 偽装問題

 翌朝、早朝。私は傷も癒えたであろう仲間達を呼び出す事にした。

 王城内でモンスターを呼び出すのは流石に非常識なので、今日まで自重していたのだ。厩舎内で馬車に繋ぐ作業があるという口実なら……まあギリギリセーフ?


 七人召喚の形でやや負担が増大するのは解っているが、一時の事だ。大丈夫だろう。


 どうやって謝ろうかな、とか思いながら皆を解放状態にしたら、いきなり意表を突かれてしまった。

 何やら戦隊モノっぽくポーズを決めて登場したのだ。

 いっそ特戦隊とでも名乗るかね、君たちは……。

 しかもシルヴィア、アッシュ、フレデリカまで……三人の後ろで決めポーズしているのは何なんだっていう。


 私が苦笑をしていたらフレデリカに鼻先を軽く擦りつけられた。狼達も私の手を軽く舐めてくれる。


 ……謝るつもりが励まされてしまったというのは解った。

 それでも、言うべきことは言わないと。


「……傷はもう大丈夫? ごめんなさい。私の指示が甘かったからだわ」


 外から見た感じでは彼らに傷はもう残っていないが、痛みがないとも限らない。


「おはようございやす姉御! あっし達はこの通り元気でさぁ!」

「ボス、そんな顔、しない」

「お嬢様が、気にする事無いんですよ? こいつら殺したって死にゃしませんからね!」


 うん……。ありがとう。

 だがそうそう何度も泣かされているわけにもいかない。気を取り直して行こう。


「んっ。じゃあ、出発の準備をしましょう!」


 皆で協力して馬車にフレデリカを繋いでいると、厩舎にディアスとソフィーが一緒に見送りに来てくれた。ジョナス君も後ろに控えている。護衛に調査に交渉にと、彼も大忙しだなぁ。


「ふむ。もう出るのか。寂しくなる」

「おねえちゃん、気を付けて」


 ソフィーは既に涙目である。大丈夫。電話するからね。魔改造電話も仕上がってきてたし。

 ソフィーの頭を撫でたり抱きしめたりしていると、馬車の準備も終わったようだ。


 クローベルとアッシュ、それからフレデリカを残して断章に戻し、馬車に乗り込む。

 アッシュは客席から屋根側に登って見張り担当をしてもらう。この役は交代制であるが、ウルフ辺りが街中でギリギリ許容されるラインだろうね。

 御者の席にはクローベルが座っているが、まあ、これは街中だけの偽装である。高い知性を持っているフレデリカに御者はいらないのだし。


「おねえちゃん! 会いに来てね! おねえちゃーん!」

「妾にも会いに来てたもれ。待っておるからな!」

「うん! 来る! 必ずまた来るからね!」


 馬車が動き出すと二人が手を振りながら見送ってくれた。ソフィーは名残惜しいのか歩き出して追いかけてくる有様だ。

 窓から顔を出して、二人に手を振る。ついには小走りになっているソフィーが転んだりしないか心配だ。

 結局門をくぐるところまで、ソフィーはついてきた。

 遠く遠く。豆粒のようになって見えなくなるまで、私もソフィーを見ていた。




 ソフィーとディアスとの別れでややアンニュイな気分になりながらも、私はこれから使わなければならない魔法の事で少々頭を悩ませていた。

 これから先、目立たず行動する為には変装する為の魔法が必要だったのだ。

 候補は二つあった。メタモルフォーゼとカモフラージュだ。過去形で語っているのは既に習得してしまったからである。


 メタモルフォーゼはそのまま変身の魔法。誤魔化しとか一切無しで、姿形を変える。但し時間制限があり、切れたら掛け直さないといけない。効果時間は四時間ほど。

 カモフラージュは対象の見た目や色を、他者の視覚というより認識に干渉して誤魔化す魔法だ。こちらも放置すれば一二時間ほどで効果が切れるのだが、任意で効果時間を継続させる事が出来る。複数の対象にも掛けられ、天秤のバランスにやや負担があるもののその辺りは大したことはない。


 相手にある程度以上の違和感を抱かれると効果が切れる、という脆さがある。所詮は偽装は偽装に過ぎないという事なのだろう。


 一方、メタモルフォーゼは魔女の呪いよろしく敵を蛙に変えてしまうなんて事も出来る。抵抗(レジスト)に失敗すると漏れなくそうなる。変装だけに用途が留まらない辺り、便利な魔法なのだろう。

 だけどね……これレジェンドに属する魔法なんだよ。求めている目的に対してカモフラージュという使いやすい代用品があるのに、マスタリーを抜きにして魔法の習得だけでも三〇〇〇消し飛ぶとか、ちょっと二の足を踏んでしまう。飛行モンスターさえまだ早いと諦めているのに。


 そんなわけで、選んだのはこっちだ。


 ランク9 アンコモン 幻術マスタリー(中級)

『地味じゃと? それは幻術士にとって最高の褒め言葉じゃよ。 ――幻燈のモルドーレ』


 ランク25 アンコモン カモフラージュ

『出てきたのは使い魔の犬一匹だった。それでも彼は兵士達の心を折るのには十分な威容であったのだ。 ――『幻術士フォルカ 第二章:ナディスの攻防戦』より抜粋』


 半分は蝶で半分は蛾という謎生物を指先に留まらせている白髪の魔法使い。それから醜悪な化け物を目の前にして逃げ回る兵士達の絵。消費は二四〇と四〇〇である。


 で、このカモフラージュの何が問題かと言うと。

 折角習得したのに、私の抱えている問題を半分しか解決してくれない点だ。


 確かにね。私の姿をゴブリンに見せかけたりリザードマンに見せかけたり、小物の色や模様を変えたり……色々な事が出来る魔法ではある。

 但し、容姿を丸々変えようとすると、かなり自由度が下がるのだ。

 何故そんな事になってしまうのか。


 習得して知識を得た事で理解したのだけれど、偽装対象となる種族の集合意識――価値観や常識にアクセスする事で、お互いの認識の擦り合わせをしてを誤魔化すという処理をしているようなのだ。


 んん、ゲーム中じゃ解らなかった部分だなぁ。ただ変装させたり、使い方が悪いと……つまり他人の目線がない場所で使わないと、失敗したりする事がある……程度の縛りがある魔法だと思っていた。


 要するに、いかつい人間に魔法をかけてリザードマンに偽装すると、その人はリザードマンから見ていかついリザードマンに。ひ弱そうな人が偽装するとひ弱そうなリザードマンに見える、と言った具合である。


 どうしたものかな。

 真っ先に男の姿になってみたけれど……。

 平坂黒衛の姿どころか、どこの王子様だろう? と言う感じの、中性的なキラキラ美少年になってしまった。

 コーデリアが男の子だったらこんな感じ、という具合。

 今度は性別を変えて女の子に偽装してみたが、コーデリアの姿ではないというだけで、とても人目を惹く容姿の美少女であるという点については、何ら変わりがなかったりする。


「目立っちゃうよね、これ」

「でも面白いですね、この魔法」


 まあ、コーデリアの姿では無くなったのだから最初の目的は達成したとも言えるんだ。紋章も見えなくする事が出来ているし。

 クローベルにカモフラージュをかけてみたら涼やかな美青年になった。何となく私が嫌だったので、すぐ偽装を解いてしまったけれど。


 正直、思っていた以上に使いにくい。使いにくいけど、確かに「他種族が人間や違う性別だったらどんな風になるのか」というのが見た目に解る点は面白いと思う。

 それにこれがあれば街中でも皆とも一緒にいられるよね?

 そう思って試してみた。


 まずリュイス。

 美形とは言いがたいが、愛嬌のある顔立ちになった。

 ……都会にいる不良少年という感じかな。服装のせいかも知れないけれど。


 二番手、ユーグレ。

 こちらは予想通り、というか。

 とてもいかついスキンヘッドのお兄さんになった。

やっぱり鋲付ファッションなので世紀末だ。


 そしてマーチェ。

 切れ長の目をした、キツい印象の女性になった。だが美人だ。

 マントと髑髏が良く似合っている。


 しかしながら、人間に見せかける事が出来ても口を開いた時に出てくるゴブ語だけはどうにもならないというオチが付く。

 街中でも彼らと一緒にいられるのではとも思ったが、全く問題がないとはいかないようだ。

 あと、私がしっくりこない。やっぱりゴブリンはゴブリンであって欲しいというか。解って頂けるだろうか?

 

 アッシュとシルヴィアは……。

 うん。ダメ。とりあえずシルヴィアで試してみたら、四つん這いの裸のお姉さんになったので慌てて元に戻した。凄い美女だっただけに、あの姿で中身が狼だと色々と、とても拙い事になる。


 カモフラージュはカモフラージュって事なんだろう。

 変身させるにしても、時と場合をちゃんと選ばないと簡単にバレてしまうと言う事だ。幻術って難しいなぁ。

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