表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「ようやく君の大切さに気付いたんだ」と言われましても、もうあなたと私は他人なのですが  作者: 水嶋陸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/38

鉄槌1


 椿を探し駆け回っていたのか、怜司は珍しく息を切らしていた。けれどすぐに呼吸を整えて言う。


 「お嬢様。お待たせしてしまい、申し訳ございません。後は私にお任せください」


 怜司は理人と対峙し、背に庇った椿に声を掛ける。椿が頷く気配を感じ取り、僅かに安堵した。形勢逆転して理人は狼狽したが、ふと何かに気付いて気迫を取り戻す。


 「君は椿のボディーガードだろう? いくらで雇われている? 今の倍の給料を支払おう! だからこちらにつかないか? 僕は四ノ宮家の長男で、椿の元夫だ。交渉に応じればすぐにでも報酬を渡そう」


 往生際悪く懐柔を試みる理人。しかし怜司は眉ひとつ動かさず、侮蔑を込めて言い放つ。


 「救いようのない下衆だな。お前のようなクズの元でお嬢様が三年もお過ごしになっていたのかと思うと、虫唾が走る。その汚い口を閉じろ。二度とお嬢様の名を呼ぶな」

  

 他人から暴言を浴びせられた経験のない理人は硬直し、眉を寄せて言い募る。


 「っなぜ誘いを断る? 一条家への忠誠心か? そんなもので腹は膨れないだろう! 恰好つけてないで素直になったらどうだ。疫病神を守ったところで何の得にもなりはしない!」


 ピクッと怜司の額に青筋が立った。


 「……疫病神だと? 誰のことを言っている?」


 「椿のことに決まっているだろう! 他に誰がいる? その女のせいで僕の人生は破滅した。彼女が僕のために働いて償うのは当然だろう? いいから邪魔をするな!」


 唾を飛ばしみっともなく喚き散らす理人に、怜司の纏う空気が一層険しくなる。


 「お嬢様に危害を加える者は何人であろうと容赦しない。そのことを今、思い知らせてやる」


 「は? ――!?」


 怜司は何の躊躇もなく理人の顔面を殴りつけた。背後で椿が息を呑んだが、振り向くことなく理人と距離を詰め胸倉を掴む。

 

 「今後お嬢様を見かけても近付くな。次に危害を加えようとしたならば、俺が地獄の果てまでも追いかけて息の根を止めてやる」


 理人は一瞬怯んだが、乾いた笑い声をあげた。


 「っはは! 一発殴った程度で脅しのつもりか? 自分の立場を危ぶんでまでそんな真似ができるはずないだろう!」


 「脅しじゃないさ」


 恐ろしく平淡な声で怜司が言う。瞬時に理人の背後に回って顎の下から首に腕を回し、裸絞めの形で頸動脈を圧迫する。理人は苦痛に顔を歪めた。


 「……っ!!」


 「苦しいか? お嬢様の痛みはこの程度じゃないぞ」


 腕の圧迫を強めると、脳への血液の供給が滞り始めた理人が意識を失いそうになる。椿は咄嗟に駆け寄った。


 「鷹野、もうやめて! やり過ぎよ」


 椿の声で我に返り、怜司が拘束を緩める。ゴホッとむせた理人は自分の首に手をやり、眩暈を覚えながら足元をふらつかせる。怜司は理人を横に押し退け、片足を引きずる椿の肩を支えた。


 「お嬢様。足にお怪我を?」


 「このくらい大したことないわ。だから、そんな泣きそうな顔をしないで」


 「?」


 「……自覚がないの? さっきからずっと苦しそうな目で私を見てる」


 怜司は瞠目した。椿が血の気が引いた怜司の頬に手を伸ばすと、少し距離を置いた理人が突然、鞄からナイフを取り出した。 


 「!?」


 椿は思わず怜司に寄り添う。安心させるために椿の肩に手を置いた怜司は、下がっているように言って前に出る。


 「そんなものを取り出して何のつもりだ? 警察に突き出されたいのか?」


 「うるさい黙れっ! 僕はもう後がないんだ! ここで椿を連れ戻さなければ全部おしまいだ。今すぐその女を引き渡せ!!」


 怜司が「断る」と却下した途端、逆上した理人が襲い掛かってきた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ