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「ようやく君の大切さに気付いたんだ」と言われましても、もうあなたと私は他人なのですが  作者: 水嶋陸


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危機 


 理人に腕を掴まれたまま、強引に連れ去られる。抵抗しても彼の手を振り解くことはできず、歩幅の広い彼が足早に移動するのを小走りで追う形になった。


 「四ノ宮さん! 止まってください!」


 必死に呼び掛けるも、理人は意に介さない。むしろ歩くスピードを上げられてしまう。椿は足がもつれ、ガクッとバランスを崩した。


 「……っ!」


 捻った足首に痛みが走ってその場にしゃがみ込む。動かなくなった椿を忌々しげに見下ろした理人は、舌打ちをした。


 「何をしている? 鈍くさい女だな。まともに走れもしないのか? 早く立て! 僕を煩わせるな」


 「もうやめて下さい! こんなことをしても意味はありません。あなたの思う通りにはならない。いい加減、目を覚まして!」


 正気を取り戻させようと叫んだ椿は突然、頬を打たれた。物理的な痛みと精神的な衝撃で頭が真っ白になる。腰が抜けて座り込むと、理人が目線を合わせるように片膝をつく。


 「この疫病神が」


 椿の前髪を掴み上げ、顔を近付けて吐き捨てる。


 「お前と出会ってからろくなことがない。平野は無断で退職し、山崎は僕に見切りをつけて弟側についた。雅も去って行った。後継者の座は弟に奪われる。全部お前のせいだ!」


 空いた手で再び頬を打たれた椿が恐怖で身を竦ませると、理人は憎しみを込めて言う。


 「いいか? 勘違いするなよ。この先お前を愛する男など現れはしない。お前が苦しんだところで誰も助けに来ない。俺に恥をかかせたこと、一生をかけて償わせてやるから覚悟しろ」


 心ない言葉の数々に胸が抉られる。弱味を見せてなるものかと、これまで気丈に耐えてきたが、限界だった。


 涙腺が緩み、大粒の涙が溢れ出る。ただ、悔しくて堪らなかった。自分の力では彼の手を振り払うことすらできない現実に打ちのめされる。


 理人に腕を取られ、無理やり立たされた椿はぎゅっと拳を握り締めた。


 (私はこんな男に尊厳を踏みにじられ、搾取される運命なの?)


 嫌だと心が泣き叫ぶ。絶望の中、脳裏に記憶が蘇る。


 『怖い思いをした時、名前を呼んだら助けに来てくれる?』


 『もちろん。何に代えてもお嬢様をお守りいたします』


 怜司がここにいるはずもないことは十分理解していた。それでも声を上げずにいられなかった。


 (お願い助けて……!)



 「っ鷹野!!」



 大きく響き渡る声に、周囲の視線が集まる。何事かと怪訝そうに様子を窺う来店客らに、僅かな理性を取り戻した理人が動揺を見せた。次の瞬間、



 「――お呼びですか?」



 椿の背後から現れ、理人の魔の手から救い出してくれたのは――怜司だった。


 あまりに驚いて言葉を失う。


 どうして彼がここにいるのか理由は分からない。ただ、彼が助けに来てくれたことに絶大な安心感が湧き、再び涙が溢れた。


 椿の腕を掴んでいた理人の手を捻り上げ、怜司が一瞬、椿に視線を向ける。打たれて赤くなった頬を目の当たりにし、漆黒の双眸に衝撃が走った。彼はひどく苦しげに顔を歪ませると、理人を見据え低い声で問う。


 「……お前が手を上げたのか」


 「!!」


 呼吸すら許さない凄まじい威圧感に、理人が息を詰める。静かな怒りを放つ怜司の眼光は鋭く、獲物を狩る猛禽類のような獰猛さを孕んでいた。



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