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「ようやく君の大切さに気付いたんだ」と言われましても、もうあなたと私は他人なのですが  作者: 水嶋陸


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邂逅2


 「――やあ、椿。こんなところで会うなんて、偶然だね」


 ドッと心臓が跳ね上がる。瞬時に嫌な汗が噴き出て、背筋が寒くなった。恐る恐る声の主を振り向くと、理人が爽やかな笑顔を浮かべてこちらを見ていた。


 (……っ、なんでここにいるの? 四ノ宮家の屋敷からは遠く離れているのに)


 思いがけない再会に衝撃を受け、無意識に呼吸が浅くなる。椿の動揺を察した檜山が、訝しげに理人を見遣った。


 「椿お嬢様のお知り合いですか?」


 さり気なく、庇うように。椿の一歩前に立ってくれた檜山を見て、冷静さを取り戻す。


 「ええ、そうよ。心配を掛けてごめんなさい。予想外の再会に驚いただけだから、大丈夫」


 檜山に歩み寄り、安心させるよう穏やかに微笑む。椿の顔色を窺っていた檜山は、小さく頷いて後退した。


 「このようにまたお会いできて光栄でございました。近いうちに一条家を訪問させていただきます。どうぞ気をつけてお帰りください」


 「ありがとう。あなたもね」


 檜山と別れの挨拶を交わし、去って行く彼の後ろ姿を見守る。すると、乾いた笑い声がした。



 「相変わらず人を誑し込むのが上手いな」



 冷ややかな声音にビクッと肩が揺れる。どうにか平静を装って理人に向き直った。


 「……四ノ宮さん。私に何かご用ですか?」


 ハンドバックの持ち手を握り締めて警戒の色を浮かべると、彼はなぜか親しげな表情で言う。


 「久しぶりなのに、つれないな。元気そうで安心したよ。――でも悲しいな。『四ノ宮さん』だなんて他人行儀に。僕と君の仲じゃないか。これまで通り名前で呼んでくれてかまわないよ」


 「遠慮します。雅さんはご一緒ではないのですか?」


 他意のない質問だったが、理人の纏う空気が険しくなった。それでも彼は笑みを崩さず、困ったように肩を竦める。


 「雅とは色々あってね。最近別れたんだ。それより君に相談がある。これから少し時間をもらえないか?」


 「私に相談? 何が目的ですか?」


 「はは。そう身構えないでほしい。君にとって悪い話じゃないよ。ただ、僕だけじゃなく四ノ宮家全体に関わる重要な話なんだ。君は四ノ宮家の使用人たちと親しくしていただろう? 行く末が気にならないか?」


 椿は不信感を覚えながらも、心が揺れた。四ノ宮家で世話になった平野や山崎の顔が思い浮かぶ。彼らに関わりのある話と知れば、無視はできなかった。


 「……分かりました。話をお伺いします」


 渋々承諾すると、理人は満足げに口角を上げた。



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