再会2
心の傷を見透かすような、痛ましげな眼差しを向けられるのが苦しくて、咄嗟に笑って誤魔化した。
「あれから三年も経つのに、以前の私をちゃんと覚えているの?」
怜司の手に掌を重ねて悪戯に言う。彼はふっと笑みを零した。
「ほら! やっぱり忘れているじゃない」
「申し訳ございません。また、あまりに的外れなことをお尋ねになるので、笑いを堪えられず」
「え?」
優しい微笑みを絶やさないまま、怜司は眩しそうに瞳を細める。
「お嬢様のことを忘れた日など、一日もありませんよ」
予想外の返事に面食らい、頬に熱が集まってくる。咄嗟に俯くと、怜司はゆっくり手をおろした。
「またこうして貴女にお会いできるとは思いませんでした。人の縁とは不思議なものですね」
穏やかな声色で、感慨深そうに言う。今の言葉に特別な意味はなかったと知り、残念に思う反面、動揺を見せずに済んでほっとした。
「ええ。父から話を聞いたわ。父の要望に応えて来てくれたのでしょう? でも本当によかったの? 私の形ばかりの警護なんて、退屈でしょうに」
「いいえ。これまでお嬢様にお仕えすることを退屈などと思ったことは、一度もございませんよ」
「本当? 気を遣って無理をしてない?」
「もちろん。お嬢様は私にとって、唯一無二の存在ですから」
甘い微笑みを浮かべる怜司にギュンとときめく。心臓を鷲掴みにされた椿が胸を押さえると、赤く染まった頬を怜司がつんと指でつつく。
「おや。もしや照れていらっしゃいますか? 愛らしいですね」
「! か、からかわないでっ」
一歩後ずさって怜司の手から逃れると、彼は楽しげに表情を綻ばせた。
「このようなやり取りも懐かしいですね。ですがお嬢様は長旅でお疲れでしょう。本日はお部屋でごゆるりとお身体をお休めください。私が部屋までお送りします」
「気持ちはありがたいけど、まだお仕事の途中でしょう? それに屋敷内だし、一人でも大丈夫よ」
「そのようにつれないことをおっしゃらないでください。久しぶりの再会ですし、私がお嬢様のお側にいたいのです。どうか同行の許可を」
寂しそうな微笑みを向けられ、ぐっとたじろいだ。
「ずるいわ鷹野……。私がそのやり方に弱いと分かっててやっているでしょう?」
「ふふ。バレましたか」
「もう。仕方がない人ね」
肩の力が抜けて、小さな笑みを零した。相変わらず悪戯好きな怜司に絆され、共に歩き始める。
広い屋敷の中を移動した後、椿の部屋に到着した怜司は立ち止まり、爽やかに言う。
「明日以降、ご体調がよろしければ気分転換に出掛けませんか? お嬢様がお好みになりそうな場所をいくつか探しておきました。ぜひお供させてください」
「まあ、ありがとう。楽しみにしているわね」
互いの視線が交わり、微笑み合う。怜司が側にいる喜びと安心感に満たされながら、椿は軽やかな足取りで自室に戻った。




