第7章1話 森羅万象
私は…………何故生き残っているのだろうか。私はセレナとクリスタラ、それからマッシブラの四人でアクイラ達が戻るのを待っていた時だった。
私とクリスタラはそれに気づきすぐに二組に分かれ、私とマッシブラがここに残る事になった。そこまではきっと判断を誤らなかったのだろう。
私は負けたのだな。マッシブラが盾の内側から一突きで刺され、得意のスピード勝負で速攻を仕掛けたのに…………初めて速さで負けた。
生き延びたのか? あの恐ろしい速さの攻撃から。あの時間を操作するような魔法は…………まるで…………
私は…………森姫の異名が…………特級傭兵の称号が…………恥ずかしいよ。
起き上がるとそこには、マッシブラの姿が視界に入る。彼女はおなかに大きな刺し傷があり、今も出血をしていたのだ。
「マッシブラ?」
声をかけても返事がない。彼女のおなかに傷がある事はわかるのだが、その位置が問題だ。まずい、出血をしてから時間がたっている。急いで応急処置をしなければ…………私は荷物の中から布を取りだして止血をしようとするが、傷が深い。
「マッシブラ!」
やはり反応がない……不味いぞ。この傷では早く治療しなければ死んでしまう。だが、ここには私が使えるような医療品はない。それにここは森の奥だ。助けを呼ぶにも時間がかかるだろう。
彼女を殺すわけにはいかないか。…………彼女が倒れているのは魔法を使いたくないという私の怠慢だ。
「森羅万象よ…………
私はもう一度だけ魔法を使う。願わくば、最後の使用であることを祈りたい。
私は祈るように……世界に魔法を唱えた。誰も気づかない私の魔法。誰も感じない私の魔法。
そして私は……………………
彼女をカラスティアの都に連れて行き教会で治療してもらう。シスターたちは私が喋るのが早過ぎて上手く聞き取れていないようだ。こちらも、彼女たちが遅すぎて聞き取りにくい。
「すまない…………すまないな…………まだ少し慣れていないんだ」
「? なぁぁれぇぇてぇぇいぃぃなぁぁいぃぃ?」
シスターは慣れていないことに疑問を感じているようだ。しかし仕方ない。もう少し私がゆっくり話せれば聞き取りやすくなるだろう。それまで少し喋りが下手なエルフになってしまうが許してほしいものだ。
しばらくしないうちに慣れて皆の声がちゃんと聞こえるようになった。認識できるようになったといえばいいのだろうか。そうしていたらルーナ達の声が聞こえ、私は飛び出した。
「無事だったのか!?」
私の姿を見たみんなはどこか暗い表情だった。一体どうしたのだろうか。そうだ、アクイラの奴に説明させよう。私は皆の顔を覗く。
そこにいたのはクリスタラ、セレナ、ルーナそしてリーナ殿の付き人だったリオニアだったか? それからジェンマにアウロラの二人…………おや? クリスタラが誰かを抱えているな。その顔を覗くとエリスの姿だった。
「エリス!? 大丈夫なのか?」
「…………カイラさん?」
エリスは私の言葉に気付き、返事をする。彼女の左腕は肩より先が無くなっていた。
「その腕は何がったんだ? アクイラの奴は?」
「アクイラさんは……魔の九将に連れていかれました」
私の問いにルーナが答える。エリスを休ませた後、何を言われているかわからず私たちは互いのいきさつを話すことになった。そしてわかったことはエリスとマッシブラが重症、アクイラとリーナは魔界に連れていかれたということだ。
「すまなかった…………私の驕りだ。我々の元に現れた魔の九将私とマッシブラ二人で対処できると思い込んでいたのだ。そいつさえそちらに向かわなければ状況は…………」
私が悔いているとクリスタラが答える。
「いえ、あの時の判断に誤りなどありません、未曾有の脅威に対し、皆で固まることもできましたが森姫が無傷で逃す相手、固まって動いても結果は同じでしょう、むしろ状況はより悪くなっていた可能性もあります」
これからどうするか。そう考えていたところ、アクイラの契約妖精であるジェンマとアウロラが前に出てきた。
「あのう? 私達、アクイラさんの場所わかりますよ?」
「そうね私達、契約しているから場所は把握できているわ」
その言葉を聞いた瞬間、全員が二人に注目する。そしてセレナが驚きながら言う。
「じゃ、じゃああたしたちアクイラさんを助けに行けるんだね!!」
セレナのあまりの楽観的な言葉に私たちは視線を逸らす。無理もない。彼女はまだ経験も浅く先ほどの魔の九将と我々の実力差を理解していないのだ。
「あ、あれ?」
セレナも周りの空気を理解しおどおどし始めた。しかし、それも仕方ないことだろう。私だって本当はそうしたい。それに私たちが負けるなんて想像できなかった。だが、今なら容易に想像できる。
私は千年ほど最強でいた。だからこそもう井の中の蛙ではないと思い込んでいたのだ。
「すまないがアクイラ救出の件は少し時間を貰えないか? はっきり言って敵の本拠地と想定できる以上、待ち受ける魔の九将が二人だけとは限らない」
私の言葉を聞いてやっとセレナは状況を理解できたようだ。しかし、私たちとてアクイラを助けたくない訳ではない。だから、ちゃんとした準備が必要なのだ。
「各地に伝令を出そう。救援伝令だ。私の名で出せば非常事態ととらえてくれるだろうが、内容が内容だ。伯爵家のリーナ・アルゲンテア救出を名目にしたといえ、集まりにくいだろう…………アクイラならもっとだ」
アクイラはただの中級傭兵。魔族との戦いや功績は表立って公表されていないのだ。だから彼の活躍を知る者は……………………
私の頭の中に思い浮かぶこれまでの彼の交友関係。アスカリの街の仲間たち、ルナリスの街の仲間たち、各聖女とその仲間たち、そして私達……………………
「ふふふ、ははははは!!」
いきなり笑い出した私に周囲は困惑する。なんだ…………最初からいたじゃないか、あいつを仲間と認めいざとなれば駆けつけてくれる強者たちが…………
聖女たちがどれくらい動けるかわからないが、まだ悲観するには早い。なんとしてでもアクイラを取り戻す。今度は…………今度こそはもう私も魔法をはじめから使うつもりで戦ってやる。
「いや何…………アクイラは女誑しだったなと思ってな」
私がそう言うとルーナもセレナもクスリと笑う。クリスタラとリオニアさんはあまり理解できていないようだ。何、すぐにわかるよ。あいつを助けたいって女の子があまりにも多いということにな。
「それであいつの居場所はどこなんだ?」
私が妖精族の二人に地図を広げ方角と距離感覚を教えてから問うと、二人はゆっくりと答えた。
「ここから東北東…………アスカリの街より奥の北海を超えた先…………このあたりだと思う」
その辺りは未開の地で高ランクの魔獣も多く人間がおいそれと近寄らない土地だ。何より…………魔族の領地ではないかとも噂されている候補地の一つでもある。
「では改めてリーナ・アルゲンテア及びアクイラ救出作戦に参加希望の者は手を挙げてくれ。何、魔族領の可能性の高い土地だ。参加できないと言い切ってくれても攻めたりしない」
そう言ったが、この場にいる誰もが手を挙げる。驚いたのはクリスタラの挙手だ。いや、彼女の場合は救出よりもルーナの護衛か。
「よしここにいる全員は参加だな…………長旅になるし、もしかしたら本当に帰ってこれないかもしれない。それでもついてきてくれるな?」
私の問いに全員が頷く。とにかく人間サイドの大きな拠点はアスカリの街だ。あそこに招集してもらうようにして我々も出発しよう。
しかし作戦に参加する特級傭兵が私だけというわけにはいくまい。となればアクイラの知人かつ彼に恩を感じている者か…………いるな、飛び切りの化け物が。
「よし、我々も準備が出来次第アスカリに向かおう。…………さて私は四年ぶりだな」
四年前…………お前と初めてあった街もアスカリだったなアクイラ。
今回初めて魔法使いましたねカイラさん。




