第6章15話 家畜
俺たちの目の前には紫剣魔姫ルクレティアと園剣魔将セプティムスの二人がいる。対する俺たち側で今動けるのは俺とクリスタラさんの二人だ。かろうじてセレナがボウガンを持って立ち上がってくれたが魔力切れをしている頃だろう。
ジェンマは回復していなくてルーナとアウロラはエリスの治療中。リーナさんとリオニアさんもあてに出来なさそうだ。
「どうします?」
「どうするも何も…………まずはルーナ様の安全確保ですね」
クリスタラさんに判断を促すと、彼女は真っ先にルーナを護る方針で動くつもりらしい。俺もそれは同意だ。ルーナの力は魔族との戦いに必要になるだろう。
だが…………ルーナを逃がすということは、それ以外を殺すつもりで挑む必要がある。どうする。どうする。どうすればいい。
幸いな事にルクレティアとセプティムスはまだ攻撃態勢に入っていない。しかし、あの二人はいつでも動けるから余裕なんだ。こちらはいつ潰されるかわからないアリと変わらない。
カイラさんやマッシブラさんが負けたのは信じられないが、あの不気味な男、セプティムスは空間を裂いて現れたし、よく見れば浮いている。あの背中の剣で戦うのだろうか。
「おい! お前らの目的は俺だったよな? 交渉出来ないか?」
「交渉? ふふふふふ、あはははは」
交渉と聞き、ルクレティアは笑いだしてしまう。
「な、なにがおかしい!?」
「馬鹿ね馬鹿。お馬鹿すぎて可愛らしいまであるわ。交渉というのは、有利な相手に提案する者ではないのよ? それとも、こちらが不利になる要素を提示できるのかしら?」
くそ…………確かにそうだ。しかし、あいつらだって求めている物がある。なぜなら、わざわざ俺を誘い出さなければいけないと判断している。リーナさんをルナリスの街周辺で魅了による男傭兵狩りさせていた理由と、先ほどのルクレティアの俺への勧誘。
何かわからないが、俺を欲しているように見えなくもない。あるいは同胞の敵として消したいか。
「さっき俺を勧誘したな。誘いに乗ると言ったら…………どこまでこの場を譲歩してくれるんだ?」
「…………先ほどまでは興味がありましたが、今の貴方には何も…………ですが…………そうですね。わかりました、貴方ともう一人…………リーナさん。貴方達二人をこちらに引き渡すのなら、私たちは引き下がりましょう」
クリスタラさんと俺は顔を見合わせる。そして俺はリーナさんの方に視線を向けると、彼女も覚悟しているようだ。そしてリーナさんが答えた。
「わかりました。その条件を受け入れましょう」
「悪いなリーナさん。それからみんな。俺を助けに来てくれたのにな」
「……お気になさらず」
「アクイラさん…………」
ルーナが茫然とした表情でこちらを見つめている。そうだよな…………俺達、また離れ離れになるんだよな。だけど、俺の命よりお前の命の方がずっと価値があるんだ。お前はアウロラの力を借りたけど、リーナさんを完全蘇生させただろ。やっぱすげえよ聖女様。
「セプティムス、道を作りなさい」
「ろおっそリキルツィン」
セプティムスが発音をすると空間が裂ける。俺とリーナさんの足元にもだ。
「アクイラさん!!」「アクイラ!」「アクイラさん!」「アクイラ!」「アクイラさん」「リーナ様!!!」「それではアクイラ様、ご無事で」
皆が俺の名前を呼ぶ。リオニアさんはリーナさんを呼んで、最後にクリスタラさんがこちらを真っすぐ見つめる。その瞬間、ルーナが何かを俺に投げつけた。水の聖女の祝福の証であるブレスレット、|水と慈愛の腕輪《ブラッキアーレ カリターティス アクアエ》が俺と一緒に空間の裂け目に収納されてしまい、ルクレティア達も消えた。
「アクイラさん!!」
ルーナの叫びと共に俺の体が落ちていく。ああ、今度は助けも来ないどこか遠い場所になるんだろうな。
俺とリーナさんは先ほどとは違い、豪華な部屋の中にいた。
「ここは?」
「わかりません…………一体、どこに連れて来られたのでしょうか?」
窓がないために外が見えない。室内も暗くてよく見えない。すると扉の開く音がしたので二人でそちらに視線を向けると、ルクレティアだ。
「ようこそ魔王城へ」
「魔王城!?」
ということはここは魔の九将の拠点。いや、それよりもその上の奴がいるって事で良いんだよな。ここにルクレティアがいるということはみんなは無事と考えていいんだよな。ルクレティアの後ろにはセプティムスも見える。
「俺たちをどうするんだ?」
「それが決まっていないのよ…………でもせっかく人間のオスとメスを手に入れたのだから…………飼うことにしたわ」
「は?」
飼う? どういうことだ?
「貴方には興味あるのです。ですが、どうやら何かが貴方の力を妨害している。だから経過観察としたいのですがただオス一匹を買うのはつまらないでしょう? だからメスも一緒に持ってきました」
それだけの理由。それだけの理由でリーナさんは連れてこられたのか。俺はリーナさんの方に視線を向けると、リーナさんも何か諦めたような表情をしていた。
「アクイラさん……私は大丈夫です」
「リーナさん……」
さて、ここからどう抜け出すか。ルクレティアは俺たちに飼うと言っていたが、ここは豪華な部屋だ。まさかこの部屋で飼育されるのだろうか。しかし内装は豪華だがよく見れば確かにペット扱いだ。
エサ入れと思われる大皿が二つ。水を貯めた瓶とコップが一個。大きめの毛布が一枚。それから……砂場。あの砂場はまさか……
「ふふ。あの砂場は人間の為の物です。そこで排泄しなさいな」
……やっぱりか。俺は思わずため息をはいてしまった。しかし、ルクレティアが飼うとはそういう事だ。つまり、ここで飼われるという事は……そういう扱いになるのだろう。
「アクイラさん……」
リーナさんが俺の手を握ってくる。そうだ、今は俺がしっかりしないとな!
しばらくしないうちに餌である生肉や生野菜が更に投げ込まれ、扉が閉まる。鉄製の扉で俺の火でも溶かすのは難しそうだ。
「さてと生肉でも俺なら焼ける。とりあえず食べませんか?」
俺は炎焔の鎧で肉を焼き、野菜を炙った。
「ん、美味しいですね」
「味付けしてないけどな…………本当にペット扱いだな」
リーナさんも笑ってる。しかし笑えない現実がある。それはトイレだ。砂場で排泄するにしてもあれでは丸見え。リーナさんは隠すこともできない。そして俺は正直排泄物には微塵も興味はないが、羞恥プレイには興味がある。
食事を終えると、タオルを発見。水瓶もあるし、身体を綺麗にすることは許されているみたいだな。だが、それをするには裸になる必要があるのと、遮蔽物がない。
俺たちは本当に飼育されるのだろう。家畜のように…………いや、家畜以下だ。




