第6章6話 聖女修行中
その夜、教会から水の聖女の屋敷に向かうことになり、ルーナの住む屋敷を見せてもらうことになった。
馬車は俺、ルーナ、カイラさんの三人。ルーナは俺の隣に座ってべったりとくっついている。彼女の純白のドレスが膝で揺れ、銀髪が馬車の揺れに合わせて俺の肩に触れる。カイラさんは向かいの席で、その様子を微笑ましげに見つめ、淡緑のブラウスが落ち着いた雰囲気を引き立てる。
「何ですか、カイラさん」
「いや…………君たちを見ていると余計な事を考えなくてよさそうだ」
カイラさんがそう言って、俺たちをただ眺める。俺はくっついてくるルーナの肩を抱き、銀髪をそっと撫でる。彼女の華奢な体が俺に寄りかかり、温もりがドレス越しに伝わる。ルーナの蒼い瞳が潤み、甘い笑顔で俺を見つめる。俺にすり寄るルーナが口を開く。
「アクイラさんがずぅっと私を構っていられればいいのに」
「無茶言うなよ…………俺はあとゼフィラさんからも祝福の証を貰う必要があるんだ。それに俺が聖王にならないなら、他の男に渡すのか?」
「アクイラさん以外にはぜー----ったい祝福の証を渡さないので大丈夫ですよ」
ルーナが自信満々に言う。まあ、俺も他の男にルーナを渡すつもりなんて毛頭ないが。
聖女が四人揃った以上、俺は四人に認めて貰う必要が出来てしまった。具体的な期限はまだ教えて貰ってないし、失敗条件もわからないが、今のところ順調なのだろう。
だから何かある前にルーナからも祝福の証を貰いたいのだが…………当の本人にその気がない。
とりあえず機嫌をとってそこからもう一度頼み込もう。俺はそう決めてルーナの頭を撫で続けた。
「着きましたよ」
クリスタラさんの言葉が馬車の外から聞こえ、降りるとそこには水の聖女の屋敷があった。外観は白塗りの木造建築で、大きさはアカンサの実家であるモルス伯爵邸より少し小さいくらいだ。
「ただいま戻りました」
クリスタラさんがそう言って屋敷に入る。俺たちもそれに続き、屋敷の中に入るが……中の様子は思っていたものと違い、かなり質素だった。
調度品などもほとんどなく、本当に人が住んでいるのか疑問に思えるほどだ。使用人が出迎えをしてくれたが、みんな冷たい印象…………いや、ギクシャクしている。
集まったばかりの屋敷の使用人たちはまだうまくコミュニケーションとれていないのだろう。また、水の聖女であるルーナは勉強が多く主の不在も影響していそうだ。
屋敷はまだうまく回っていないようだ。セレナとエリスがこちらにやってきた。セレナのウェーブヘアが肩に揺れ、ベージュのカーディガンが彼女の明るさを引き立てる。エリスのポニーテールが軽く跳ね、クリーム色のセーターが柔らかい印象を与える。
「今日は部屋割り決まってるの、ルーナ?」
「そうですよ! アクイラさんはどこに泊まるんですか?」
二人の関心は俺にのみ集中しているが、まあ間違いなく…………
「私とアクイラさんは私の寝室。それ以外は好きな部屋を使ってください。どこでも良いです」
「冷た!? ルーナ、ちょっとあたしらがアクイラとずっと一緒だったからって妬まないでよ!」
セレナのツッコミでルーナが頬を膨らませ、俺に抱き着いてくる。俺は彼女の腰に手を回し、ドレスの布越しに細い曲線をそっとなぞる。ルーナの体がビクッと震え、蒼い瞳が俺を甘く見つめる。セレナがムッとした顔で俺を睨み、エリスは苦笑い。カイラさんが腹を抱えて笑い始めた。
「ハハハ! ルーナ、なかなかやるな!」
そんな様子を見て、クリスタラさんとマッシブラさんが顔を見合わせて微笑む。クリスタラさんのシルクブラウスが胸元で軽く揺れ、青白い瞳が穏やかに俺たちを見つめる。マッシブラさんのアースブラウンの短髪が汗で光り、茶色のタンクトップが小麦色の肌を際立たせる。俺はクリスタラさんの肩に手を置き、シルクの滑らかな感触をそっと撫でる。クリスタラさんが一瞬驚いた顔で俺を見るが、すぐに冷静な微笑みを返す。
「四肢から氷漬けにしておきましょうか?」
「おっと…………」
彼女の声は穏やかだが、明らかな警告だろう。マッシブラさんが豪快に笑い、俺の背中をバシンと叩く。
「アクイラ、元気だな! だが、クリスタラは鬼のように強い! 私ですら本気で戦っても傷一つつけられないくらいだからな!!」
マッシブラさんの力強い手に肩を叩かれ、俺は思わずよろける。ルーナは頬を膨らませて俺に抱き着いていると、クリスタラさんが珍しく優しそうな目でルーナを見つめて呟いた。
「聖女様が楽しそうで何よりです」
「そうだな! ルーナが幸せそうだ!! アクイラ! お前カラスティアに住め!!」
マッシブラさんがそう提案すると、ルーナが背筋を伸ばし、俺をジーっと見つめる。しかし、クリスタラさんがコホンと咳払いをする。
「マッシブラ、無茶を言わないでくださいな。聖王になられたらテミス聖王国に住むのですよ。そして祝福の証は後二つ。アクイラ様が聖王になる日は遠くないのです。つまりカラスティアに引っ越す理由はありません」
クリスタラさんの言葉を聞いたルーナは…………
「じゃあ私もテミスに住む」
「いや、お前はここが拠点なんだろ…………てゆうかテミスにはベラがいるだろ? あいつがいるなら他の聖女に対して不公平じゃないか?」
俺の疑問に答えたのはカイラさんだった。
「ああ、聖王が決まったらテミスにいる聖女は別の都市の教会勤めになるんだよ。だからベラはテミスから別の地域に住むことになるね」
「え……そうなんですか?」
なるほどな。ルーナはカラスティア。ヴァルキリーはルナリス。そしてベラは移動で…………そういえばゼフィラさんはどこに屋敷があるんだ。
「そういえばゼフィラさんってどこに屋敷があるんですか?」
風の聖女ゼフィラ。以前はセルヴィスの集落で出会った彼女であの地を故郷と呼んでいた。それはそれとして彼女もどこかに拠点があるはずだ。
それも俺が今まで訪れた事がない街だろう。そして答えるのは風の聖女と同郷のセレナだった。
「ゼフィ姉なら確かリヴァルディア公国の都に住んでるはずだよ」
「リヴァルディアか…………」
リヴァルディアといえばリーシャの出身国だったな。
以前リーシャに故郷の話を聞いたことがあるのだが…………あまり積極的に話してはいなかったな。帰りたくなさそうだし、次もリーシャには待機してもらうかもな。
そして俺とルーナはルーナの寝室に向かう事になった。
翌朝、早速ルーナの聖女としての修行に付き合わされることになった俺は、クリスタラさんとマッシブラさんに連れられて山に向かうのであった。
「修行って…………ガチの修行か?? 山籠もりみたいな…………」
「はい、ルーナ様はまだまだ未熟な戦士。聖女は死地に向かうこともあるのです。ですので強さを身に着けて貰う必要のある為、こうして険しい修行も含まれています」
こうして最初の修行である精神統一から始まった。クリスタラさんが作り出した触るだけで痛みを感じるほどの氷の上で、薄着の恰好で座らされるルーナと俺とマッシブラさん…………マッシブラさん?
「あの、俺はなんか空気でわかるんですけど、なんでマッシブラさんも?」
「ははは! 私は強さ以外クリスタラにダメ出しされてしまってな!!! 仕方なし!!!」
何を豪快に笑っているのだろうか…………。そして氷の上に座るとジワジワと痛みを感じる。薄着のルーナのドレスが風に揺れ、銀髪が冷気に光る。マッシブラさんのタンクトップが風でめくれ、彼女の小麦色の腹部が覗く。
「これはいつまで?」
「三人の体温で溶けるまでです。日が昇れば日光も助けてくれるでしょう。本日は曇りですが」
「え、じゃあこれずっと?」
俺は思わずそう聞いた。ルーナとクリスタラさんが同時に頷いた。マジか……
「では私は朝ごはんを用意しておきますね…………何が良いですか? 本日のメニューはきのこと山菜ととれたての虫ですが…………今の時期は冬越しの前なので肥えていますよ。私は食べませんが」
「えっと…………山菜でお願いします」
そう言うとクリスタラさんは会釈してこの場を離れた。氷の上に取り残された俺たち三人。冷える脚と尻。服もほぼクリスタラさんに没収されてしまい、凍えるようにしていると、ルーナがジリジリと俺に寄ってきた。
「肌と肌で温め合う」
「いや、それは修行にならないだろ…………俺も抱き合いたいけどさ」
「私はアクイラさんとならいつでも」
俺は思わずため息が出た。彼女とはもう自由に会える仲ではない。以前以上に依存を何とか解消しなければいけないのに…………俺は彼女を甘やかしたいと思っている。
「とにかく今はダメだ。話し相手にはなってやるからじっとしてろ」
「むぅ…………どうせ私がいない間も色んな女の子と仲良くしていたんでしょ?」
否定できないな。むしろ女の知り合いばかり増えた。もちろん男の友人とも遊んでいる。
「俺はそれでもルーナを大事にしているつもりだし、それにこうしてルーナが俺を好いてくれるのは嬉しいよ。俺だってお前が大好きだ」
「えへへ……アクイラさん大好きだよ」
そう言ってルーナは俺に抱き着いた。修行中なのに彼女を引きはがせない俺がいた。マッシブラさんはそんな俺たちを微笑ましく見ているだけだ。
そして日が昇り、氷が解けて俺たちは解放された。
戻ってきたクリスタラさんは俺たちを見てふふふと笑いながら、冷たい山菜の冷製スープを用意してくれた。…………なんで冷製なんですか?
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