表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎焔の鎧  作者: なとな
第3章 祝福の証
40/133

第3章7話 デート

 聖女に協力申請をしたところ、デートを提案された俺は…………そもそもこの依頼って聖女様からだよな? ということに気付いた。だったらこれを機に最低な人間を演出して俺を嫌いになってもらうのもありかと思い、彼女とのデートに賛成することにした。でも、その前にまずは嫌な男ムーブを仕掛けるつもりだ。

 俺はベラトリックスの屋敷のテラスに立ち、腰に絡むルーナと腕にしがみつくセレナを外した。馬車がテラス脇に停まり、俺はベラトリックスに近づく。彼女は深緑色のブラウスにブラックのロングスカートを履いてる。俺は彼女のすぐ近くまで行き、肩を軽く叩いた。


「俺と二人きりってことはどういうことかわかってるのか?」


 俺は彼女の耳元で囁くように言った。


「え、えっと……それは」


 ベラトリックスは顔を真っ赤にして俯いてる。俺はさらに耳元で囁いた。


「俺が何するか想像ついてるよな?」


 すると彼女は顔をさらに赤くして言った。


「わ、わかっております! で、ですが私は構いませんよ!」


 いや、構えよ。嫌がってもらうためにやってるんだから。聖女様、美人だし柔らかいし、良い匂いがするな。でも、これはいい機会だ。このまま押していけばきっと嫌われるはずだ。そしてラブレターもなくなるはずだ。


「本当にいいのか?」


 俺がそう言うと、彼女は答えた。


「ええ、構いません」


 念のため、シルヴィアさんとネレイドさんの方に視線を向ける。二人は視線をそらして「私達何も知りません」の態度らしい。なら俺の好きにしていいってことだよな。俺は彼女に近づき、肩を軽く抱いた。彼女が少し体を固くするが、すぐに緩んだ。

 え、なんで? なんで嫌がらないんだ!? 俺は彼女の肩から手を離し、少し距離を取った。


「あ、あの……もっと近くにいても?」


 彼女がそう言って俺に近づこうとするので、俺は止めた。


「もっと近くにいたかったら、デート中に俺を喜ばせるんだな」


 これでデートは俺から彼女への接待じゃなく、彼女から俺への接待に変わる。そんなデートは楽しくないはずだ。これで勝てる。


「え、ええ……頑張りますわ」


 いや、頑張らなくていい。本当に頑張らないでくれ。


「大丈夫ですわ! 私に任せてください!」


 ルーナとセレナには俺の狙いを説明し、二人は聖女様の屋敷に置いていくことにした。俺の「聖女様に嫌われる作戦」と内容を伝えた結果、二人はそれぞれこう言った。


「無謀」

「無理だよねー。アタシもアクイラが節操なしってわかってついてきてるもん」


 …………泣きそう。馬車を出してもらい、俺とベラトリックスはテミスの街じゃなく近くの村に行くことになった。テミスの街だと聖女様がデートしにくいからだ。向かったのはヴォルトという村だ。馬車の中でシルヴィアさんが教えてくれたが、自然に囲まれた美しい村で、観光客が訪れるらしい。聖女の馬車は目立つので普通の木製の馬車に変えてもらい、俺はベラトリックスと一緒に乗り込んだ。馬の蹄が地面を叩く音が響き、車輪が埃を巻き上げる。

 俺は彼女のすぐ隣に座る。彼女は地味な深緑色のブラウスに濃い茶色のスカートに着替えてる。お忍び用の村娘風衣装で、ブラウスはシンプルで素朴、茶色のスカートは膝丈で動きやすい。足元は茶色のショートブーツで、普段の高貴さは隠れてる。正直、ただの美女だ。こんな美女としばらく二人きりになるのだから、嫌われることは置いといて緊張する。でも、ここで緊張を悟られてはいけない。俺は平静を装ってるが、彼女は顔を赤くしながらチラチラ俺を見てくる。


「あ、あの……アクイラ様?」

「なんだ」

「その……手をつないでもいいですか?」


 彼女が手を差し出してきた。俺はその手を握らずに言った。


「ダメだな。俺の手は空けておきたいんだよ。村まで我慢できるかな?」


 彼女は顔を赤くして俯き、スカートの裾を両手で握ってもじもじしてる。俺は彼女の肩や腕を軽く叩いてみた。一切抵抗はない。スカートの裾を少しずらすと、太ももがちらっと見えた。彼女は恥ずかしそうに手で押さえようとしてきた。


「あっ!」


 俺は視線を彼女の太ももにやった。彼女は顔を赤くしてスカートを直し、俺をちらっと見て微笑んだ。そして俺の手を掴んだ。俺は少し力を入れようとしたが、彼女が逆に俺の手を自分の膝に置いてきた。


「もっと……近くにいてください」


 俺は彼女の手を軽く握ってやった。彼女は小さく笑い、体を少し俺に寄せてきた。でも、馬車が揺れるたびに距離が開く。


「そろそ着きますね…………その…………馬車の中では軽く触れ合っただけ…………ですよね?」

「ああ、お前がそれでいいなら」


 馬車はゆっくり速度を落とし、村に到着した。到着する頃には、彼女は少し汗をかいて顔を赤らめてた。さすがに少し落ち着かせてから村に入ることにした。馬車から降りると、小さな民宿が見える。木造の建物で、屋根に藁が乗ってる素朴な造りだ。俺とベラトリックスは中に入ると、おばちゃんが笑顔で出迎えてくれた。彼女は茶色のワンピースに白いエプロンを重ね、頭に布を巻いてる。


「あらまぁ、これは綺麗なお兄さんと可愛らしいお嬢ちゃんだねぇ。部屋は一つでいいかい?」


 おばちゃんがそう言うと、ベラトリックスは顔を赤くしながら言った。


「はい!」

「…………」


 俺は部屋に入り、荷物を置いてから彼女に声をかけた。部屋は狭く、木の床に簡素なベッドとテーブルが一つあるだけだ。窓からは村の緑が見える。


「泊まりなんて聞いてませんよ?」

「はい! 明日の朝には帰りますのでご安心を」


 とりあえず村の中を回ることにした。そこまで大きな村じゃないが、自然に囲まれた美しい場所だ。木々が緑を茂らせ、小川のせせらぎが聞こえる。


「ああ、そうだ。お忍びなので絶対にベラとお呼びください。あっハニーでもいいですよ?」

「行こうかベラ」

「はい、ダーリン」


 お前はダーリン呼びするんかい。まあとりあえずこのお忍びデートを続けるか。歩きながら村の屋台を見て回る。木の屋台には野菜や手工芸品が並び、観光客がちらほら歩いてる。彼女が屋台で立ち止まり、手に何かを取った。


「あ、これ可愛いですよ!」


 ベラが手に取ったのは小さな緑の宝石があしらわれたペンダントネックレスだ。確かにこいつに似合いそうだな。嫌われようと考えてるが、こうもキラキラ見てると…………


「これ下さい」


 店主に声をかけてそれを買い、俺はベラの首にかけてやった。


「あ、あの……」


 ベラは頬を赤く染めながら言った。


「ありがとうございます」


 村の中を回りながら歩いてると、みすぼらしい服を着た男たちに声をかけられた。酒の匂いが漂ってくる三人組だ。


「おいおいにいちゃんえらく美人のねーちゃんと一緒にいるじゃねーか」

「そこの女を置いていったら見逃してやるよ」

「おいおいビビってるのか?」


 正直、全然怖くない。俺は中級傭兵ランクエメラルドだし、彼女も戦えないわけじゃない。嫌われるならここで逃げ出すのが正しいが、それが演技だとバレたら意味がない。ここは普通に護ってやろう。あとでシルヴィアさんやネレイドさんに刺されたくないからな。


「おい、お前ら」


 俺が声をかけると、男たちは近づいてきた。一人が殴りかかってきたので、俺はそれをかわして顎にアッパーを決めた。男は白目を向いて倒れる。もう一人がナイフを取り出して切りつけてきたが、俺は腕に炎を灯す。魔法に気付いたゴロツキたちも魔法を放ってきた。炎の鎧で攻撃を防ぎつつ、打撃で直接対処する。ゴロツキたちがバタバタ倒れる中、死角からの銃撃に脚を負傷した。ズキンと痛みが走り、血がズボンを染める。でも、ゴロツキたちは全員片付いた。

 この銃撃はどこからだ? 俺は周囲を見渡すが、それらしき人物はいない。


「大地の恵みよ、我が仲間を癒やし、育てよ。地芽成果テラジェネラティオ


 ベラが聖なる果実を育成し、俺に手渡してくれる。小さな緑の実だ。彼女の指先から実が育つ様子が見える。この魔法は聖女だとバレかねないが、知識がなければわからないはずだ。俺はそれを食べた。すると傷が癒えて体力が回復し、痛みが引いていく。


「ベラ、ありがとう」

「いいえ、お気になさらないでください」


 ゴロツキたちを倒した後、俺たちは村の近くの川で釣りをしたり、食堂で食事をしたりした。川の水面がキラキラ光り、釣り竿を手に持つ彼女が楽しそうに笑う。食堂では木のテーブルにスープとパンが並び、素朴な味が旅の疲れを癒やしてくれた。気が付けば嫌われようとしてたことを忘れて宿に戻ってきてた。


「素敵なデートをありがとうございます」

「ああ、俺も楽しかったよ」


 そう言うと、彼女は俺に軽く抱きついてきた。俺は彼女を突き放すことができないでいた。しばらくして、彼女は俺から離れた。


「そ、それではそろそろお休みしましょう」

「…………そうだな」


 俺とベラは同じベッドに入り、少し距離を取って眠ろうとした。俺はルーナで慣れてるせいか、そこまで問題はない。でも、ベラは別だ。


「聖女様?」

「ベラです。今日だけはどうかベラとお呼びください」


 彼女の消え入りそうな、不安げな声に俺はつい優しくしてしまった。


「ベラ…………眠れそうか?」

「ひどい人、わかってるくせに」


 そう言うと、彼女は俺に少し近づいてきた。柔らかな感触が少し伝わるが、落ち着いて眠れる距離だ。


「アクイラ様」

「なんだ?」

「私は……本当にアクイラ様の事が好きです」


 俺は何も言えなかった。嘘とはいえ、彼女の想いを否定する勇気はなかった。そんな俺の様子を察したのか、彼女は俺の頬に手を添えてきた。そしてそのまま軽く頬にキスをしてきた。俺はそれを拒まず、彼女の優しさに少し微笑んだ。すぐに彼女は俺から離れた。


「おやすみなさい」

「ああ……おやすみ」


 俺はそれだけ言って眠りについた。朝になり、俺たちは馬車に乗って村を出発する。馬車が揺れる中、俺はベラに言った。


「満足したか」

「ええ、それはもう素敵な思い出をありがとうございます」

「俺も…………良い女と一緒に休暇を取れるのは悪くなかったよ」


 彼女はそんな俺を見て、少し寂しそうな表情をした。


「そうですか……でも私は諦めませんよ」

「そうかよ」

「はい! だってアクイラ様は私の事が大好きですもの!」

「はいはい」


 俺が適当に返すと、彼女は頬を膨らませた。でもすぐに笑顔に戻る。本当にコロコロ表情が変わる子だ。迎えの馬車を走らせてもらい、彼女の館へと戻った。馬車の車輪が石畳を叩く音が響き、森の緑が窓から遠ざかっていく。

第三章現在

味方

・アクイラ・ルーナ・セレナ・ベラトリックス・シルヴィア・ネレイド


・イオン?


中立、不明

・テラ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ