第8章13話 星剣魔将ノクターナス
ノクターナスは大柄の魔人だ。黒い髪に紅い瞳、その見た目はまるで飢えた獣。鋭く光る牙を剥き出しにしながら、嗜虐的な笑みを浮かべている。長身で鍛え上げられた肉体には、数多の戦いを潜り抜けてきた証ともいえる傷跡が刻まれていた。まるでそれを誇るかのように、分厚い胸を張り、堂々とこちらを見下ろしている。
彼の手に握られた大剣には、四つの大きな宝石が埋め込まれていた。赤、青、黄、紫……それぞれが異なる属性を帯びていることは明白だった。魔力の脈動が宝石からほとばしり、剣全体を包み込むように輝いている。ただの装飾ではない、紛れもなく実戦仕様の武器。しかも厄介なことに、四つの属性を自在に操るタイプだ。
「なあに? 聖女に傭兵が三人か。俺様一人で十分だろうな!」
俺はヴァルキリーたちの方を振り返る。全員、戦いでボロボロだ。イオンは珍しく負傷しているし、普段は後方支援に回るレクサさんが、前に立って構えている。それだけで、現状がどれほど危機的状況なのかがよくわかる。ヴァルキリーは聖火で回復しながら善戦しているが、魔力の消耗が激しすぎる。このままでは長くはもたない。
「アクイラ! 祝福の証が四つある君なら、聖王の力を使える!!!」
「聖王の力?」
「何!? 聖王だと?」
ヴァルキリーの言葉に、ノクターナスが反応した。彼は一瞬驚いたように目を見開いたが、次の瞬間には爆笑を始める。肩を震わせ、大剣を軽く地面に突き立てながら、まるで愉快で仕方ないといった様子で笑い続けた。
「おいおいおいおい!!! オメエが聖王ってか! だったら! 手は抜けねえな!! 魔王が復活する時によぉ!! オメェみてえな奴が生きてちゃ邪魔くせぇもんな!!!!」
そう言うなり、ノクターナスが斬りかかる。大剣が真っ赤に燃え始めるが、炎なら恐れることはない。
「炎の守護、我が身を囲みて鎧となれ。炎焔の鎧」
深紅の炎が俺の両腕を包み込み、炎の鎧を形成する。そして両手で奴の大剣を受け止めてみたが……
「くっ!?」
想像以上の重量が腕にのしかかる。まるで巨岩が落ちてきたかのような衝撃だ。
「おいおいおい! そんなちっぽけな身体で受け止めるってのか? この程度か?」
ノクターナスが余裕たっぷりに笑う。確かに腕が痺れるほどの重さだったが……
「そんなわけ……ないだろうが!!」
俺は強引に弾き返し、ノクターナスは後ろへと飛び退く。しかし、彼は満足そうにニヤリと笑った。
「いいねぇ! そう来なくちゃな!! 火焔の魔弾!」
奴の手から炎の弾丸が放たれる。それはまるで大蛇のようにうねり、俺を狙って追尾してくる。しかし、炎対炎で負けるわけにはいかない。俺は思いっきりかかと落としを放ち、ノクターナスの炎を叩き潰す。
「アクイラ、下がりたまえ!! 深淵の闇よ、舞い踊る鎖となり、広き戦場を覆え。冥鎖乱舞!」
レクサが詠唱すると、ノクターナスの足元から黒い鎖が突如現れ、奴を拘束した。
「あめぇんだよ! そんなヤワな鎖じゃ……俺の炎は止まらねえ!! 火焔の大牙!」
奴は左腕でレクサさんの冥鎖乱舞を簡単に切り裂くと、そのままレクサさんに襲いかかる。
「紫電の光剣!」
奴の二つ目の属性!? 紫色の雷が戦場を照らすと、その雷が剣の形となり、イオンとヴァルキリーに襲い掛かる。だが、二人もそう簡単にやられる人間ではない。
「聖なる金色の炎よ、我が剣に宿り、敵を焼き尽くす力を放て。聖火剣放!」
ヴァルキリーの金色の聖火が解放されると、ノクターナスの紫色の雷と衝突する。互いの魔力は拮抗し、どちらも一歩も引かない。金色の炎と並び立つには……邪炎しかないのか。
「邪悪なる炎、我が身を囲みて禍々しき鎧となれ。邪炎の鎧!」
赤黒いなんて生易しい炎じゃない。解放から時間が経過しすぎたのだろう。邪炎は……漆黒の炎として顕現した。その焔が焦がすのは大気や物質だけじゃない。魔力すらも浸食し、周囲の魔力を奪っていく。
邪炎を見たヴァルキリーは怪訝な顔をしているが……聖王の魔法にしては禍々しすぎたもんな。
「アクイラ……邪炎が……」
「今はこいつを倒すことを考えさせてくれ!!! うっ!?」
身に着けている四つの聖王の証が……邪炎に反応して輝き出す。
「なんだ……これは……」
四つの証が、俺の炎を逆に蝕み始めた。……魔法が……使えない? まずい、俺には武器もない。アウロラもジェンマもいない。……どうする? どうすればいい?
とっさにノクターナスの大剣をかわし、蹴りを放つ。しかし、魔法の加護を失った蹴りは、鎧越しにダメージを与えるには至らない。
「下がれアクイラ!!!」
ヴァルキリーが俺の腕を掴み、俺を後方へ投げ飛ばす。その瞬間、ノクターナスの横薙ぎ払いが……ヴァルキリーの腹を切り裂いた。
「ヴァルキリー!!!」
俺は叫んだ。だが、その間にも戦況は刻一刻と変わっていく。俺たちの撤退を阻むように、ノクターナスが大剣を構え……再び、激しい炎が俺たちを呑み込もうとしていた。
俺は思わず叫んでしまうが、次の瞬間にはレクサさんの冥鎖乱舞でノクターナスを拘束する。そしてイオンがその隙に奴の顔面に無数の弾丸を叩き込むと……奴は…………ちょっとだけひるんだ。
「アクイラ! 下がるぞ!! 私達だけでは勝てない!!!」
ヴァルキリーは聖火で腹部を治癒していく。何とか体制を立て直し撤退する。ネレイドさんを連れていくことは…………できなさそうだ……………………ごめんなさいネレイドさん…………俺は心の中で謝りながら撤退を決めた。
「おおっと! 逃がさねえぜ!!」
しかし、ノクターナスは冥鎖乱舞を振りほどくと、大剣に炎を纏わせる。その炎はまるで剣の刃そのものになったかのように大きく燃え上がる。そして……
「火焔の大牙」
奴はそれを地面に突き刺すと、地面が割れて地割れが起きる。そしてそこから炎が噴き出し、その炎はノクターナスの大剣に集まっていく。
「火焔の大牙!!」
そして奴は天高くそれを振りかざすと、激しい炎が俺たちを呑みこんだ。このままじゃ…………
「流れよ、清らかな水の塊よ。相手に落ち注ぎ、その力を示さん。水塊落下」
「大地の力よ、我が箒に宿り、砂埃を巻き上げよ。砂塵箒」
水の塊と舞い上がる砂埃が炎を阻む。この魔法は…………
「アクイラさん!!!!」
「ご無事でしたか…………ところでリーナ様は?」
そこにいたのはリーナさんの従者、掃除屋リオニアと…………水の聖女ルーナだった。後ろにはテラとエルフ族の男もいる。ユウキさんだっけか?
「んあぁああ? まだ増えるのかよ!!! だが…………俺が有利な事に変わりはねぇよなぁ!!!!」




