第8章9話 頼れる時こそ頼るべき
レクサさんに救出された俺は、みんなのいる拠点に向かう。歩きながら、さっきの戦闘の余韻がまだ身体に残っているのを感じる。疲労と安堵が入り混じった感覚だ。拠点に着くと、レグルスさんとマーレアさんが俺に気付いて声をかけてきた。
「アクイラ! 無事だったか!」
「良かったです、アクイラさん」
二人が駆け寄ってきたその表情には、明らかな安堵の色が浮かんでいる。俺達が無事だったことが、少なからずこの場に希望をもたらしたのだろう。俺は微笑み返しながら、レクサさんとリヴァイアの二人を紹介する。
「無事だったよ。こっちの二人と一緒にな」
二人が俺の後ろにいるレクサさんとリヴァイアに目を向ける。その表情には興味と警戒心が入り混じっていたが、すぐにその緊張は解け、安堵の表情に変わった。拠点に逸れていた仲間が合流するのは、大きな戦力になる。
「合流した仲間が増えたのは良いことですが、今は聖女様方でジェンマの治療をしてくれています」
マーレアさんの言葉に俺は目を向ける。確かに治療中のジェンマのことが心配だ。だが、その前にもう一つ確認しておくべきことがある。
「イオンとクリスタラさんは?」
俺がそう尋ねると、レグルスさんは表情を曇らせて首を横に振る。どうやらまだ戻ってきていないらしい。俺は一瞬、胸がざわつくのを感じたが、すぐに冷静さを取り戻した。あの二人ならおそらく大丈夫だろうと自分に言い聞かせる。
考えをまとめるために深呼吸をする。ジェンマ、レクサさん、リヴァイアと合流できたから、あとはルーナ、テラ、それからリーナさんのメイドである掃除屋リオニアとカイラさんの部下エルフである毒剣のユウキさんで、生存確認は完了だ。イオン達も迎えに行く必要があるな。
「早速ヴァルキリーに相談しに行こう、ヴァルキリーは今どこにいる?」
「多分寝てるぜ? 襲うなよ?」
「…………」
「返事しろよな!?」
襲わない自信はないからな。一応、今は急ぎでもあるからそういうことはしないが、冗談にしても微妙に図星を突かれた感じがして居心地が悪い。
「とにかくイオンとクリスタラさんに限ってってことはないですが、早めに合流しようと思いますので、戦力が必要です。ただし、この場で一番強いマーレアさんはここに残ってください」
「分かりました、皆さんにお任せします」
マーレアさんがいれば、ここは安全だろう。怪我をしているジェンマや休憩しているメンバーは、マーレアさんとレグルスさんの二人が守護してくれる。だから、動けるメンバーで二人のところに向かうのが良いだろう。
俺は現時点でこの拠点のリーダーである火の聖女ヴァルキリーの寝ている寝所に向かう。テントの中に入ると、ヴァルキリーの他に、ネレイドさんと俺の姉であるセリカも休憩していた。女性用の休憩室だが、今更ながら俺が入っても良かったのだろうかと思う。あの場にはマーレアさんとリヴァイアもいたし、代わりに来てもらえばよかったな。
俺に気付いたセリカが俺に声をかける。
「アクイラ、ここは女性用よ」
「ああ。ヴァルキリーに用事があるんだ」
そう聞いたセリカは少し呆れたような顔をしたが、俺の代わりにヴァルキリーを起こしてくれた。ヴァルキリーはまだ少し眠そうだ。しかし、そんなことを気にしている場合ではない。
「アクイラ? どうしたのだ?」
「実はさっきジェンマと合流したんだけど、その時大けがしたジェンマを庇いながら逃げてきたせいでイオンとクリスタラさんと逸れてしまったんだ。あの二人のことだから万が一もないかもだけど、一応迎えに行こうと思う」
ヴァルキリーは目を細めて俺の話を聞いていたが、しっかりと状況を理解してくれたようだ。
「そうだったか…………わかった、向かうメンバーは私が決めよう。少し待っていてくれ」
そう言ったヴァルキリーは軽装のまま簡易寝所であるテントから出ていく。薄いクリーム色のスリップドレスのままだが、彼女は恥ずかしそうにする様子もなく、堂々と周囲の状態を確認している。俺はその姿を見て、改めて彼女のリーダーとしての貫禄を感じた。
そしてイオンとクリスタラさんを迎えに行くメンバーに選ばれたのは、火の聖女ヴァルキリー、波濤の影忍ネレイド、海銃のミズキ、闇鎖闘士レクサの四人だ。
「って俺は???」
「君はジェンマ君の傍にいると良い。その方が彼女も安心するだろう」
「…………ありがとうございます」
確かにそうだ。大けがをしたジェンマの傍に、契約者である俺がいなくて誰がいるべきだと言えるのか。頼れる時こそ、仲間に頼るべきだ。
「てゆうかリヴァイア。お前はレクサさんと一緒じゃなくていいのか?」
「常に一緒にいるわけではありませんので」
リヴァイアは冷淡な口調で言う。彼女とレクサさんの関係は未だに謎だが、いつか聞いてみるのも良いかもな。そしてヴァルキリーたち四人を見送ると、俺はジェンマが治療を受けている救護エリアに向かうことにした。
救護エリアでは、ベッドで横たわるジェンマを治療するアウロラとベラの二人が忙しそうに動いていた。その傍らには、風の聖女であるゼフィラが看病を手伝ってくれている。
「みんな、ジェンマの容態は?」
俺がそう尋ねると、ゼフィラさんが穏やかな口調で答えてくれた。
「出血はもうないわ。後は彼女の自然治癒力に任せるしかない」
「そうか……」
ジェンマの回復を祈るのみか。俺はジェンマが眠っているベッドの横で彼女の手を握る。すると、ジェンマの手が俺の手を握り返してきた。
「……ん」
「ジェンマ?」
俺が声をかけると、彼女はゆっくりと目を開いた。そして俺が声をかけると、彼女はゆっくりと目を開いた。そして俺を認識すると同時に、その目に涙を浮かべる。
「……アクイラ……私……」
「大丈夫だ。もう心配ない」
俺はそう言って彼女を慰めた。ジェンマはにこりと笑ったまま、眠りについたようだ。俺は彼女の傍で手を握り続けてやることにした。そんな俺をそっとしておいてくれたのか、みんな救護室からいつの間にかいなくなっていた。




