三毛猫のお店の試食会
「今日は女子会ですねー!」
満面の笑みのクマが言い、それに対して「あんたは女子じゃないだろう」と三毛猫が笑いながら訂正し、「強いて言うなら女子会みたいでしょう」と私が言うと、キツネが目を細めながらふふふと笑った。
肌寒くなってきた秋の終わりのお昼過ぎ、隣町の三毛猫の定食屋にはお出汁のような美味しそうな香りがして漂っている。お店の前には『臨時休業』の立て看板が出ていて、店内はがらんとしている。
がらんとしているといっても誰もいないわけではなく、一番日の当たるテーブルに私、クマ、キツネのお姉さんが座っている。キツネのお姉さんは三毛猫の姉貴分らしい。三毛猫が一人でお店を切り盛りし始めた頃、よく相談に乗ってくれたそうだ。
深い紫色の着物を品よく着こなしたキツネのお姉さん、年齢はわからないけれど私の母と同じぐらいかしら。でも母とはなんか違う。何が違うのかうまく説明できないけれど、品があるというか、洗練された女性というか。『こんな大人の女性になれたらいいな』と思う雰囲気がある。
今日、私たちは三毛猫の試食会に来ている。
「今年の冬はきのこ料理をいろいろ試してみようと思うのよ」
先日、ご飯を食べに行ったら食後に三毛猫から素敵なお誘いを受けた。新しいメニューの試食会、私には断る理由がなかった。私は即座に参加を表明した。私の表明を聞き、テーブルの向かい側で食後の温かいお茶を片手にうつらうつらと船を漕いでいたクマが、ぱちりと目を覚ました。クマは寒くなってきたので最近よく眠たくなるそうだ。
「私も参加します!」
クマはにこにこしながら言ったが、言った直後、顔から徐々に笑顔が消えていき、最後はきょとんとした顔になり、それからうーむと首を傾げた。
「あら、どうしたの?」
「えっと、何があるんですか?」
こいつ、話を聞いてなかったくせに参加するって言ったのか。
「あんたねえ……まあいいわ、クマも一緒に来るの。いいわね?」
思わず呆れてしまったけれど、まあクマらしいっちゃクマらしい。私はとりあえずクマと一緒に食べに来ることにした。
「はい!」
こいつ、なんのお誘いか分かってないくせに元気よく『はい!』って言いやがった。何も説明しないで誘った私も自分でもどうかと思うがクマよ、それでいいのか……
呆れる私を余所に、クマは楽しそうに顔を輝かせている。そんな私たちを見て三毛猫がころころと笑っていた。
そんなこんなで試食会当日、クマと一緒にお店に来ると『臨時休業』の看板が出ていた。少し不安になり、そーっとドアを開けて中を覗くと着物のキツネがいた。
「あら、人間のお嬢さん。こんにちは」
「こ、こんにちは」
綺麗な着物をまとったキツネの凛とした雰囲気に、私は思わず緊張してしまった。そんな私の後ろから、「こんにちはー」と言いながら、のそりとクマが入ってきた。クマはキツネを見るとぱぁーっと顔が明るくなった。
「わー! キツネさん、お久しぶりです」
「あら、クマさん。こんにちは。久しいわね、元気だった?」
「はい! 私は元気です!」
キツネに会えたのが嬉しいのかクマの顔がいつもより輝いて見える。そんなクマを見て、私は心の中が少し、ほんの少しだけ波打つのがわかった。でも、なんだろう、それ以上に、姉と弟の久しぶりの再会のように見えてなんだか微笑ましくあたたかい気持ちになった。
「あら、いらっしゃい。今日、招待したメンバーは揃ったわね」
店の奥から割烹着を着た三毛猫が出てきた。私たちは三毛猫に日当たりのいいテーブルに案内され、温かいお茶をいただいた。
「今、お料理を持ってくるわね」
営業時間外だからだろうか、三毛猫から漂う雰囲気がいつも以上に温かい。
しかし、少し気になったことが一つ。店の奥から三毛猫が出てきた時、私を見る目がなにか面白いものを見るような、そんな目だったような気がする。一瞬だけだったから、もしかしたら気のせいかもしれない。でも、なんだろう、少し気になる……




